SSブログ

ホルストの「惑星」 [音楽と英語]

先日、惑星を覚える「水金地火・・・」に当たる英語の言葉遊びについて書いたが、映画「スターウォーズ」の音楽を思わせる、SFスペクタクル音楽の元祖のような作品が、イギリスの作曲家ホルスト Gustav Holst の組曲「惑星」 The Planets である。地球と当時未発見だった冥王星を除く7つの惑星にちなんだ曲で構成されている。

個々の曲の順番とタイトルは、

Mars, the Bringer of War
Venus, the Bringer of Peace
Mercury, the Winged Messenger
Jupiter, the Bringer of Jollity
Saturn, the Bringer of Old Age
Uranus, the Magician
Neptune, the Mystic

となっている。国内盤のCDを見ると、「火星・戦争をもたらすもの」「海王星・神秘主義者」といった訳がある一方で、副題を「戦争の神」「神秘の神」などと「~の神」としている訳も目につく。ホルストは神話ではなく占星術に基づいて作品の想を練ったそうなので、「神」と決めてしまうのは適切とはいえないような気もする。

7曲のうち、「木星」の中間部は特に愛好されている。特に "I vow to thee, my country" というタイトルで編曲された歌はよく歌われているということで、ダイアナ妃の葬儀にも使われた。日本でも、CMに使われたりして知られているメロディーであり、記憶に新しい編曲ものでは平原綾香の "Jupiter" がある。

最初に書いたように、この組曲にはスペクタクル的要素があるので、それを強調した演奏もある。例えば、レヴァインというアメリカ人指揮者がシカゴ交響楽団を振った80年代後半の録音は大迫力で、出たときに評判となり、私も喝采して聞いていた。

ホルスト:惑星

ホルスト:惑星

  • アーティスト: レヴァイン(ジェイムズ),ホルスト,ヒリス(マーガレット),シカゴ交響楽団
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2011/05/11
  • メディア: CD

しかしいつの頃からか(この録音のファンの方には申し訳ないが)うるさくて頭が痛くなると感じるようになった。それほど前の録音ではないのに、しばらくして再発CDが海外盤、国内盤とも価格を下げて出てレギュラー盤扱いでなくなったのは、結局あまり評価されなくなったということなのだろうか。

私がトシを取ったせいもあるだろうが、繰り返し鑑賞するのに向くのはオーケストラをガンガン鳴らしたタイプではなく、むしろ、「木星」の中間部や「金星」「海王星」などの静かな曲を情感豊かに描いた演奏ではないかと思っている。

その点で、「お国もの」だからと一般化するのは危険だろうと思いつつも、イギリス人の演奏家は、単に能天気にパワー全開とするのではなく、この曲の聞かせるツボを心得ているように感じる。

中でも私が気に入っているCDは、Sir Charles Groves が指揮したものだ。日本の音楽評論家のセンセイ方はまったく無視しているマイナーな録音だが、ネットで検索したら、このグローヴス/ロイヤル・フィルの「惑星」を評価している人が何人かいて、何となくうれしくなった。

Holst: The Planets; St. Paul Suite

Holst: The Planets; St. Paul Suite

  • アーティスト: Gustav Holst,Charles Groves,Royal Philharmonic Orchestra
  • 出版社/メーカー: Sanctuary Records
  • 発売日: 2004/07/27
  • メディア: CD

2000年になって、Colin Matthews という作曲家が、この作品の補作として ”Pluto, the Renewer" という曲を新たに作った。複数のCDが出ているが、個人的にはホルストの曲と作風の違いが大きくて、違和感が拭えなかった。国際天文学連合が検討している案が通って惑星の数がさらに増えたら、ますます中途半端な曲になるのではないかと思う。

なお、この「冥王星」の副題も、国内盤では「再生する者」 のほか、「再生をもたらす神」「再生の神」などとなっており、「~の神」という訳の呪縛からは逃れられないようだ。

追記:
その後の国際天文学連合の討議で、何と冥王星は惑星から外されてしまった。ホルスト「惑星」につけられたコリン・マシューズの「冥王星」はどうなるのか、と思ったら、レコード会社のおもしろいコメントがあった。詳しくはこちらをどうぞ

参考記事:
・「水金地火木土天海冥」は英語で何というか
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2006-08-22
・さよなら冥王星
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2006-08-26
・「威風堂々」 Pomp and Circumstance とイギリスの愛国歌
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2007-08-24

にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村←参加中です


ホルスト:惑星(冥王星付き)

ホルスト:惑星(冥王星付き)

  • アーティスト: ラトル(サイモン),ホルスト,ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2006/08/23
  • メディア: CD


nice!(0)  コメント(4)  トラックバック(1) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 4

Hirosuke

僕は「ジャングル大帝」の作曲家で知られる、富田勲版「惑星」が好きです。
YMOで流行したシンセサイザーを、初めてクラッシック曲に応用した人です。
ダイナミックなドラマ調の解釈が盛り込まれているので、子守男さんには「うるさくて頭が痛くなるように感じ」ると思います。



by Hirosuke (2009-04-09 08:39) 

子守男

冨田勲(富ではなくテンのない冨です)版「惑星」は私も聞いたことがありますが、やはり原曲のオーケストラ版の方が好きですね。
冨田氏のシンセ編曲では、最初に出たドビュッシー作品集「月の光」が、原曲を超えたのではと思わせる美しい編曲で、今でも愛聴しています。強力におすすめします。
オリジナル作品は、「ジャングル大帝」もいいですが、私は大河ドラマ「勝海舟」のテーマ曲も大好きです。
by 子守男 (2009-04-09 11:23) 

Hirosuke

「冨」とは知らず、失礼しました。

「月の光」は僕も大好きです。
ただし、シンセサイザー版は聞いたことがありません。
ピアノでも演奏者によっては「嫌い」になってしまうので、冨田氏のシンセ編曲は、ちょっと恐い気がします。

大河ドラマ「勝海舟」は、スミマセン、一度も見たことがなく、分かりません。
(2年間ほど、テレビを見る時間がありませんでした。)
by Hirosuke (2009-04-09 22:54) 

子守男

かの名曲「新日本紀行」のテーマ曲も冨田勲氏の作曲であることを思い出しました。「勝海舟」は、私が中学生の時ですから、もう30年以上前の作品になります。
ドビュッシーの「月の光」は、私も好きな作品で、ピアノ演奏のCDを何枚か持っていますが、冨田氏の編曲は独自の美しさがありますよ。

by 子守男 (2009-04-11 00:04) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 1

にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村← 参加中です
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...