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wires and lights in a box 「電気紙芝居」 (映画「グッドナイト&グッドラック」) [映画・ドラマと英語]

グッドナイト&グッドラック 通常版 [DVD]

グッドナイト&グッドラック 通常版 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東北新社
  • メディア: DVD

この「グッドナイト&グッドラック」 をめぐっては、ダイアン・リーヴスのサウンドトラックと、主人公の実在のニュースキャスター、エド・マローについて以前書いたことがあるが、映画自体はまだ観ていなかったので、DVDを借りてきた。

1950年代、冷戦下のアメリカを席巻したマッカーシー上院議員の「赤狩り」反共キャンペーンに対し、批判を展開したマローとそのチームを描いている。演じているデヴィッド・ストラザーンは、写真で見るマロー本人の風貌そっくりだ。

時代の雰囲気を出すためか全編白黒のうえ、頻出するテレビスタジオのシーンで照明が効果的に使われている。登場人物がみなやたらとタバコをすうのもこの時代ならではだが、漂う紫煙も白黒の効果か、タバコをやめて久しい私もかっこいいと思ってしまった。

ダイアン・リーヴスの歌の使い方も工夫されていた。まず、単純なBGMではなく、彼女自身がテレビ局のスタジオで収録しているという設定で映画に登場しており、違和感がない。また、歌が出てくるのは、決まって物語が何らかの転換をみせる場面で、それぞれにふさわしい曲調や歌詞のナンバーを選んでいるようだ。

ここで英語について書くと、マローが、娯楽に走りつつあったテレビ業界のあり方を批判して、「自覚を持って利用しなければ、テレビとは電線と電球を詰めた箱でしかない」とスピーチする場面がある。この、"It is merely wires and lights in a box." という言い回しに、私は以前何かで触れたことがあった。日本語で言えば、テレビを揶揄する「電気紙芝居」にあたるだろうか。

ネットで調べたら、マローは実際にこうした講演を行っていて、そのスピーチの全文も見つかった。マローが最初に使い、今も語り継がれている言い回しらしい。少し抜き書きしてみる。

This instrument can teach, it can illuminate; yes, and it can even inspire. But it can do so only to the extent that humans are determined to use it to those ends. Otherwise it is merely wires and lights in a box.

ニュースキャスターのダン・ラザーも、十数年前に行ったスピーチで、マローの講演とこの表現を触れている。

http://www.rtnda.org/resources/speeches/rather.shtml

さて、アメリカでイラク戦争の報道に批判が出ていた時期に作られたこの映画を観て、「真実を追及し、メディアの娯楽化に警鐘を鳴らしたマローと当時のメディアは偉かった」と考えるのは簡単だろう。封切後にそういった評を見かけた気もする。しかし私は見終わって、そう単純に考えていいものだろうか、と多少ひねくれた考えも持たずにはいられなかった。

映画でも描かれているが、マローの番組が批判したのは、あくまで十分な証拠なしに他人を告発するマッカーシーの手法にあり、彼の主張が正しいかどうかを検証するものではなかった。皮肉なことに、その後公開された資料などで、マッカーシーの主張には―その手法はともあれ―正しい点もあったことが明らかになっているという。

また、マローの番組は、マッカーシーの発言のフィルムを集めてその中から疑念をいだかせる部分を選んでつなぎ合わせ、視聴者に提示するというもので、独自の調査報道とはいえない。

法と人権を守れというマローのマッカーシー批判は、確かに賞賛すべきものだが、その手法は、一歩間違えれば、メディアによる情報操作にもつながりかねないように思った。「報道の娯楽化」や「メディアの暴力」の萌芽が、すでにここに見られるともいえるのではないか。私はマローのオリジナルの番組を見たわけではないので、あくまでこの映画を観た上での考えだが、マローの批判は、ブーメランのように彼自身に向かうものであるように感じる。

この映画の登場人物は、最後までほとんどテレビ局の中だけで描かれている。先に書いたように、今では考えられないほど、ところ構わず(番組の中でも!)タバコをすっている光景や、光と陰の対比が白黒によって強調されている効果とあいまって、描かれている世界が、すでに遠い過去になったというだけでなく、ある種、非現実的なものにも感じられた。

そうした感覚にとらわれているうちに、この映画は、作り手と受け手の双方が大きな疑念を持たずにテレビに関わることができた、古き良き時代へのノスタルジアも描きたかったのではないか、そんな考えも頭をよぎった。

なお、関連記事として、こんなものもある。
http://www.slate.com/?id=2127595

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