Saul が Paul になった時 [聖書・キリスト教と英語]
事実上の国際語になったとはいえ、ネイティブが書き話す英語には、英語圏の文化が色濃く反映されていて、それを知らないと何のことなのか理解できない場合がある。
日本で生まれ育った人間が、そうした英語表現を自然に使いこなすのは難しいものがあると思うが、少なくとも読み・聞いた時に理解できる幅を広げようと努力をするのは無駄ではないだろう。
今読んでいる "Big Bang" (Simon Singh) という本に、次のようなくだりがあった。マックス・プランク Max Planck という物理学者の語った言葉だそうで、それを著者が引用したものだ。
これは、新約聖書で最も有名な挿話のひとつをふまえたものだ。キリスト教徒を迫害していたサウロは、天からの光に倒され、目が見えなくなったが、神が遣わしたあるキリスト教徒によって再び視力を取り戻した。これをきっかけに彼は洗礼を受け、使徒パウロとなった―というものである。
http://www.biblegateway.com/passage/?search=Acts%209;&version=31;
http://www.biblegateway.com/passage/?search=Acts%209;&version=50;
プランクは、新しい学説が定着するのは、世代交代によってもたらされるのであって、旧来の考えに固執している科学者たちが転向することによってではない、と言いたいわけだが、それを「サウロの回心」になぞらえたわけで、面白いと思った。
しかし、聖書のこの挿話を知らないと、なぜここで Saul と Paul という人名が出てくるのか悩むことになるだろう。プランクはドイツ人なのでドイツ語で言ったのだと思うが、キリスト教という点で英語文化圏と共通している。
ちなみに、サウロは「目からうろこのようなものが落ちて」再び見えるようになったが ("Something like scales fell from Saul's eyes, and he could see again.")、 the scales fall from one's eyes はイディオムとなり、さらには日本語にも取り入れられている。
ついでに辞書で Paul を引くと、次のようなイディオムが出ていた。いずれもどれくらい普通に使われるものなのかはわからないが、参考までに書いておく。
rob Peter to pay Paul は、「人から奪って他人に与える」「借金して借金を返す」ということで、オンラインの英英辞典には次のような定義と例文があった。
由来について、ある辞書には、
と書かれていて、ペテロとパウロに関連のある挿話が聖書にあるわけではなさそうだ。Peter と Paul で音も揃っているし、よくある名前でもある。
Paul Pry は、「せんさく好き、お節介屋」 (an inquisitive, meddlesome person) で、Origin: from name of title character of Paul Pry (1853) by John Poole (1786-1872), English dramatist と説明されているので、こちらは明らかに聖パウロとは関係ないようだ。
日本で生まれ育った人間が、そうした英語表現を自然に使いこなすのは難しいものがあると思うが、少なくとも読み・聞いた時に理解できる幅を広げようと努力をするのは無駄ではないだろう。
今読んでいる "Big Bang" (Simon Singh) という本に、次のようなくだりがあった。マックス・プランク Max Planck という物理学者の語った言葉だそうで、それを著者が引用したものだ。
"An important scientific innovation rarely makes its way by gradually winning over and converting its opponents: it rarely happens that Saul becomes Paul. What does happen is that its opponents gradually die out, and the growing generation is familiarised with the ideas from the beginning."
これは、新約聖書で最も有名な挿話のひとつをふまえたものだ。キリスト教徒を迫害していたサウロは、天からの光に倒され、目が見えなくなったが、神が遣わしたあるキリスト教徒によって再び視力を取り戻した。これをきっかけに彼は洗礼を受け、使徒パウロとなった―というものである。
http://www.biblegateway.com/passage/?search=Acts%209;&version=31;
http://www.biblegateway.com/passage/?search=Acts%209;&version=50;
プランクは、新しい学説が定着するのは、世代交代によってもたらされるのであって、旧来の考えに固執している科学者たちが転向することによってではない、と言いたいわけだが、それを「サウロの回心」になぞらえたわけで、面白いと思った。
しかし、聖書のこの挿話を知らないと、なぜここで Saul と Paul という人名が出てくるのか悩むことになるだろう。プランクはドイツ人なのでドイツ語で言ったのだと思うが、キリスト教という点で英語文化圏と共通している。
ちなみに、サウロは「目からうろこのようなものが落ちて」再び見えるようになったが ("Something like scales fell from Saul's eyes, and he could see again.")、 the scales fall from one's eyes はイディオムとなり、さらには日本語にも取り入れられている。
ついでに辞書で Paul を引くと、次のようなイディオムが出ていた。いずれもどれくらい普通に使われるものなのかはわからないが、参考までに書いておく。
rob Peter to pay Paul は、「人から奪って他人に与える」「借金して借金を返す」ということで、オンラインの英英辞典には次のような定義と例文があった。
- borrow money from someone in order to give to someone else the money that you already owe them
- take from one to give to another, shift resources
Then I'd take out another loan to pay my debts, robbing Peter to pay Paul.
由来について、ある辞書には、
Although legend has it that this expression alludes to appropriating the estates of St. Peter's Church, in Westminster, London, to pay for the repairs of St. Paul's Cathedral in the 1800s, the saying first appeared in a work by John Wycliffe about 1382.
と書かれていて、ペテロとパウロに関連のある挿話が聖書にあるわけではなさそうだ。Peter と Paul で音も揃っているし、よくある名前でもある。
Paul Pry は、「せんさく好き、お節介屋」 (an inquisitive, meddlesome person) で、Origin: from name of title character of Paul Pry (1853) by John Poole (1786-1872), English dramatist と説明されているので、こちらは明らかに聖パウロとは関係ないようだ。
Big Bang: The Origin of the Universe (P.S.)
- 作者: Simon Singh
- 出版社/メーカー: Harper Perennial
- 発売日: 2005/11/01
- メディア: ペーパーバック
タグ:-固有名詞にちなんだ表現
にほんブログ村← 参加中です
興味深く拝読しました。Peter(「岩」)も元は Simon(「葦」)ですよね。クリスチャンであれば、Saul というと David(ダビデ王=ソロモン王の父)の義父をすぐに想像することと思います。それにしても、「目から鱗」が日本語の表現としてこんなに浸透しているのをいつも不思議に感じています。
by mamarimama (2007-06-09 22:27)
mamarimama さん、コメントありがとうございました。
私はキリスト教徒ではありませんが、シモンがペテロ(ケファ)になる、という挿話で、「漁る」という日本語を知ったり、petroleum や petrify などの単語が Peter と関係があることを知ったり、と、聖書はいろいろと参考になります(信仰を持っている人から見れば本質と関係ないことのはずで、申し訳ないのですが)。
また、たまたまこの週末、旧約聖書と関係ある本を読みまして、新規のエントリとして書いてみました。
by 子守男 (2007-06-10 00:06)