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「バベルの謎」 [読んだ本]

バベルの謎―ヤハウィストの冒険 (中公文庫)

バベルの謎―ヤハウィストの冒険 (中公文庫)

  • 作者: 長谷川 三千子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 文庫


「ミステリのように読める、スリリングな一般教養書」といった、カタカナまじりの下手な宣伝文句が頭に浮かんだほど面白く、一気に読んでしまった。

旧約聖書に出てくる「バベルの塔」は、日本人も多くが知っている有名な物語だろう。天に届くような塔を造ろうとした人間の高慢さに腹を立て、神は人間の言葉を混乱させた。人々は言葉ごとにグループをつくって各地に散り、塔は完成されることはなかった―この物語は、一般にそんなイメージでとらえられている。

しかし、果たして本当にそういう話なのだろうか。改めて旧約聖書を読んでみると、そうした内容は実は語られておらず、ストーリーの展開も奇妙な混乱をみせていることに著者は気づく。この物語を通して、本当は何を作者は語りたかったのだろうか?

そんな疑問を抱いた著者は、「創世記」のテキストをはじめから精読することを決める。天地創造、アダムとイヴ、エデンの園、カインとアベル、大洪水とノアの箱舟、そしてバベルの塔。順を追ってじっくりと読み進めていくにつれ、著者には、これまで指摘されることのなかったこの書の姿、そしてユダヤ教とキリスト教の関係が見えてくる。

ネタばれになるのでこれ以上は書かないが、著者は、「本家」である外国の学者たちによる従来の研究を比較参照してそれらの不備を指摘しつつ、独自の説を展開していく。著者によれば、こうした学者たちは、ユダヤ教あるいはキリスト教の文化圏に生まれ育ったがために、逆に目に映らないものがあるのだという。異教徒であり異文化に育った著者だからこそ、見えてくるものがある、というわけだ。

著者自身、「まえがき」の中で、「一つの冒険小説、あるいは一つのミステリーとして読んでほしい」と書いているが、確かに、学者が固いテーマを取り上げたのには似つかわしくない、かなりドラマチックな語り口である。

逆に言えば、こうした前口上と文章は、自説に対する著者の自信のあらわれなのだろう。そして、それが十分納得のできる内容だった。著者の説が真実かどうか私に判断できるわけもないが、とにかく知的興奮を味わうことができる、おすすめの本である。

なお、単行本(絶版)は、著者の主義に従い、旧かなづかいで書かれていたが、今回、現代かなづかいに直した、と「文庫版あとがき」にあった。私は旧字・旧かなづかいを厭わないので、著者が意図した初出原文のままで読んでみかったが、手軽な文庫本に収めるということで、出版社側が著者を説得したのだろうか。ちょっと残念なのは、編集段階のチェックで漏れたのか、ところどころで旧かなづかいのままの表記が見られることだ。細かい瑕疵とはいえ、せっかくの知的刺激に富んだ内容なので、すみずみまで目を光らせてほしかった。

タグ:聖書
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