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結婚式をドタキャン (runaway bride) [辞書に載っていない表現]

前回取り上げた runaway という単語について、「脱走」「駆け落ち」といった辞書の訳語を眺めていて連想したのが、映画「卒業」 The Graduate の有名なシーンである。

ダスティン・ホフマン演じる主人公が、結婚式に闖入し、ヒロインを新郎から奪って2人で逃げるのだが、これぞまさに runaway ではないか。そこで、runaway bride といった言い方ができるのでは、と考えて検索してみた。

そうしたら、実際に大量のヒットがあった。とはいえ見たところ、目立ったのはジュリア・ロバーツとリチャード・ギアが共演した同名の映画(1999年)だったが、それ以外に普通に使われた例もある。

そのうちに、ページの下に「関連検索: runaway bride jennifer」という表示が勝手に出ていることに気づいた(検索は Google による)。これは何だろうとクリックすると、2005年にアメリカで「逃げた花嫁」をめぐる大騒動が起きていたことがわかった。以下は適当に選んだいくつかの記事である。

http://en.wikipedia.org/wiki/Jennifer_Wilbanks
http://atlanta.about.com/od/celebrityprofiles/p/jenniferwilbank.htm
http://www.usatoday.com/news/nation/2006-10-10-runaway-bride_x.htm

一言でいえば、結婚に怖気づいた花嫁が「拉致された」と偽って雲隠れした、というものだが、真相が明らかになったあとも訴訟沙汰になるなど、全米を騒がせた事件だったようだ。関連検索でヒットする記事は、どれもまさにワイドショー的興味で読める。高校の授業等で、こうした英文を教材に使ったら生徒ものってくるのではないか、という素人考えが浮かんだりした。

runaway bride の大量ヒットは、映画とともに、この事件によるところも大きいと思うが、Wikipedia はこの表現を見出し項目にしていた。

A runaway bride is a bride who runs away from the wedding chapel, usually shortly before the ceremony, often due to so-called cold feet.
( http://en.wikipedia.org/wiki/Runaway_Bride )

これによると、ジュリア・ロバーツを待つまでもなく、すでに1930年にこの表現をタイトルにした映画が出来ている(ただ、筋はわからなかったので、「ドタキャン花嫁」を描いたものではないかもしれない)。先に書いた2005年の事件にも言及があった。

often due to so-called cold feet とあるので、さすがに「卒業」のように新郎以外の男と手を取って式場から逃走する、というものではないにせよ、映画になったり、こうした表現があったりするくらいだから(一般の辞書の見出し語にはないようだが)、「式を前に逃げ出してしまう花嫁」は、ひとつの確固たるイメージを持たれているのではないか。

ちなみに、About. com には "Top Runaway Bride Movies" なる映画紹介のページもあった。
http://marriage.about.com/od/movies/tp/movrunaway.htm

「卒業」は1967年の映画で、私が観た時、ダスティン・ホフマンはすでに名声と評価が定まった中年の俳優となっていたので、若き日の彼は新鮮に感じた。しかしもっと印象的だったのは、アン・バンクロフト Anne Bancroft が演じ、サイモン&ガーファンクルが映画の中で歌う曲のタイトルにもなっている、あぶない人妻 Mrs. Robinson だった。私も若かったのだ。

マーク・ピーターセン氏が、著書の中でこの映画のセリフについて触れている。どの本だったか、見つからないので記憶で書くと、ミセス・ロビンソンがダスティン・ホフマン演じる若者を誘惑するシーンがあり、"What do you drink?" と尋ねるのだが、これは現在形なので、ふだん飲んでいる酒は何か、という意味である。

つまり、「もうお酒は飲んでいるんでしょ?」と、相手を大人扱いして誘惑する手練手管のひとつ、「お酒は何にする?」 "What would you like to drink?" とは意味合いがまったく違う。そんな内容だったと思う。

これを読んで、なるほど、と感心すると同時に、「現在形は普段の習慣を表す」という理屈は知っていても、仮に同じ状況に自分が置かれたら、せっかくの相手のサインはわからないだろうなぁ、と残念に思ったものだった。

なお、「逃げた花嫁」からの連想でまったくの余談だが、チェコの作曲家スメタナのオペラ「売られた花嫁」は、"The Bartered Bride" が英語タイトルの定訳になっている。

もうひとつついてに、runaway victory は「圧勝」、競馬などでの「ぶっちぎり(の勝利)」といった感じであろう。

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コメント 4

たんご屋

「卒業」は名作といわれていますがずいぶん前に見たときはどうもピンと来ませんでした。ところが、あの映画は制作者や出演者、音楽がみなユダヤ人でユダヤ人の映画である、だから最後のシーンでキリスト教の教会から花嫁を奪い去るのは宗教的にきわどい意味があるなどといった話を最近読んで、なるほどそういうことだったのかと思いました。もう一度見たら以前とはかなり違う感想になりそうです。記事の内容とあまり関連のない話でごめんなさい。
by たんご屋 (2007-09-23 06:59) 

子守男

たんご屋 さん、コメントありがとうございました。
「卒業」は、私もすんなりと「これは名作だ」と他人に薦められる映画だとは言い難いところがありますが、何だか印象に残る作品でした。

この映画の制作者にユダヤ人が多いこととキリスト教との関係は、制作者側が明かしたものなのでしょうか?アメリカは映画・音楽・マスコミなどの業界でユダヤ人の比率が高いので、ユダヤ人にからめて深読みをしようとすればいくらでもできるように思います。もちろん、どんな作品であれ、世に出ればあとは受け手がどうとらえるかは自由なのですが、こうした作品について「ユダヤ人が関っているから」という見方を過大に捉えると、ユダヤ陰謀論的な視点に誘導されるおそれもあるような気もしています。
by 子守男 (2007-09-23 09:31) 

たんご屋

うーむ。わたしの読んだのは内田樹さんの書かれたものです。基本的にはあの映画はユダヤ社会を描いたものだと言っているだけで隠謀論的なものとは関係ないようにわたしは思いましたが。でも、まあ、そういう意図の意味づけをするために利用される可能性はあるかもしれませんね。
by たんご屋 (2007-09-23 14:08) 

子守男

たんご屋 さん、どうもありがとうございました。私も一般論として、おっしゃるような「そういう意図の意味づけをするために利用される可能性」があるのではないか、という程度の気持ちで書きました。内田樹さんの文章は、今度読んでみたいなと思います。
by 子守男 (2007-09-23 23:14) 

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