英訳版「沈黙」から拾った表現・その1 [単語・表現]
このほど読んだ遠藤周作「沈黙」の英訳版 "Silence" から、目についた表現をいくつかあげていくことにしよう。日本語作品の英訳なので、読みながら印をつけたのは英語として面白い言い回しというより、「原作ではどうなっているのだろう」という興味を持ったものが中心となり、読了後にまとめて原文と比べてみた。
まず、本文に先立って置かれている訳者 William Johnston による前書き "Translator's Preface" を見てみよう。その中にこんな表現があった。
crypto- とは「隠れた、秘密の」 secret, hidden, covert ということだから、「隠れキリシタン」をこう表現したものであろう。
ちなみに crypto は名詞だと a person who secretly supports or adheres to a group, party, or belief の意味になる。cryptogram, cryptograph は「暗号文」、cryptonym は「匿名」「暗号名、コードネーム」のこと。ギリシャ語の kruptos (hidden) に由来するという。
同じ語源を持つ元素の krypton は、以前取り上げたことがある「希ガス」 noble gas のひとつである。このクリプトンはかつて1メートルの長さを定義するのに使われていたそうだ。脱線だが Krypton は「スーパーマン」の生まれ故郷の惑星の名前でもある。
もうひとつ脱線ついでに、前回の冒頭で「ページが黄ばんだ本」と書いたが、これは英語でも yellow という動詞で表現できる。英英辞典の定義と用例を見ると、
ようやくだが、遠藤周作の本編である。本文の該当箇所も併記しよう。
「十字を切る」動作は、こう言えばいいわけである。「我々をいたわる優しさ」も文脈にあわせた訳になっているように感じる。
追記(2013年2月):
「十字を切る」に関連して、イアン・フレミングの「007 ロシアより愛をこめて」の原作に、次のようなくだりがあった。cross one's heart は「十字を切って真実を誓う」の意味である。
まず、本文に先立って置かれている訳者 William Johnston による前書き "Translator's Preface" を見てみよう。その中にこんな表現があった。
- Yet Christianity's roots had gone too deep to be eradicated. Besides the martyrs (estimated at some five or six thousand for the period 1614-40 alone) thousands of crypto-Christians kept their faith.
- In 1865, when Japan was reopened, the crypto-Christians came out from their hidings, asking for the statue of Santa Maria, speaking about Christmas and Lent, recalling the celibacy of the priests.
crypto- とは「隠れた、秘密の」 secret, hidden, covert ということだから、「隠れキリシタン」をこう表現したものであろう。
ちなみに crypto は名詞だと a person who secretly supports or adheres to a group, party, or belief の意味になる。cryptogram, cryptograph は「暗号文」、cryptonym は「匿名」「暗号名、コードネーム」のこと。ギリシャ語の kruptos (hidden) に由来するという。
同じ語源を持つ元素の krypton は、以前取り上げたことがある「希ガス」 noble gas のひとつである。このクリプトンはかつて1メートルの長さを定義するのに使われていたそうだ。脱線だが Krypton は「スーパーマン」の生まれ故郷の惑星の名前でもある。
もうひとつ脱線ついでに、前回の冒頭で「ページが黄ばんだ本」と書いたが、これは英語でも yellow という動詞で表現できる。英英辞典の定義と用例を見ると、
- turn yellow
(Example: "The pages of the book began to yellow")
- make or become yellow: documents that had been yellowed by age; clouds that yellow in the evening light.
ようやくだが、遠藤周作の本編である。本文の該当箇所も併記しよう。
"Padre, Padre!" The old man made the sign of the cross as he uttered the words, and in his voice there was a gentle note of solicitude for our plight.
「パードレ、パードレ」老人は十字を切って呟き、その声は我々をいたわる優しさがありました。
「十字を切る」動作は、こう言えばいいわけである。「我々をいたわる優しさ」も文脈にあわせた訳になっているように感じる。
追記(2013年2月):
「十字を切る」に関連して、イアン・フレミングの「007 ロシアより愛をこめて」の原作に、次のようなくだりがあった。cross one's heart は「十字を切って真実を誓う」の意味である。
I do not cross my heart. That is being too serious. But I cross my stomach, which is an important oath for me.
(Ian Fleming: From Russia with Love)
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初めまして、ユニークな切り口、深い考察に感嘆しつつ楽しく拝読しております。
遠藤周作「沈黙」の英訳版 "Silence" が出ていたとは知りませんでした。大学1年時のキリスト教科目の夏休みの宿題( 読書感想文 )で、題材にしました。内容については、今となっては、全然覚えておりません。英訳版にチャレンジしてみたいと思います。
また、動詞 yellow の項目も参考になりました。意外とよく知っている簡単(だと思っている)単語に知らなかった使い方があるものですね。先日、「芝に水をまく」が、単に"to water the lawn" だと知り、目から鱗の思いでした。(「花に水をやる」も同様にwater を動詞として使える)
それでは、またお邪魔いたします。
by 英語のオニ (2007-11-14 10:52)
英語のオニ さん、こちらこそ初めまして。
単純な単語に意外な意味があるのを知った時は、へえっと驚くとともに、外国語を学ぶことの面白さを味わう瞬間でもありますよね。
今後ともよろしくお願いいたします。
by 子守男 (2007-11-15 00:46)