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トルーマン大統領の「常識のウソのウソ」 [英語文化のトリビア]

前回は、トルーマン大統領がモットーとしていた言葉 "The buck stops here." について書いたが、この大統領をめぐっては、「常識のウソのウソ」ともいえるトリビアがあるので、息抜きを兼ねて紹介しよう。

トルーマンのフルネームは日本語では「ハリー・S・トルーマン」と表記され、特に問題はない。ちなみに前任者のルーズベルト Franklin Delano Roosevelt は最初の母音が/u:/ではなく/ou/であり、「ローズベルト」とする表記もあってややこしい。v を「ヴ」で表して「ローズヴェルト」とすれば、さらに種類が増える。

ではトルーマンの原語での表記はどうだろうか。かなり以前のことだが、トリビアものについて書かれた本を読んでいたら、Harry S. Truman は誤りで、Harry S Truman が正しい、とあった。

つまり、ミドルネームにみえる S にはピリオドがつかない、というわけである。「へえ」と思った。当時はものを素直に受け取っていた頃で、それこそ from Missouri というイディオムも知らなかった。インターネットもなかった頃で、それ以上自分で調べることもしなかった。

この「常識のウソ」に再会したのは、トルーマンが決断した日本の原爆投下をめぐる別の「常識のウソ」について以前書いた時だった。その際、関連情報がないかとトルーマンに関係するサイトを探して読んでみたのだが、収穫があったのは原爆投下ではなく、彼の表記についてだった。

例えば
http://www.trumanlibrary.org/speriod.htm

が詳しいが、ここでは Wikipedia を引用しよう。

Truman did not have a middle name, only a middle initial. (中略)

He once joked that the S was a name, not an initial, and it should not have a period, but official documents and his presidential library all use a period. Furthermore, the Harry S. Truman Library has numerous examples of the signature written at various times throughout Truman's lifetime where his own use of a period after the S is conspicuous.

(http://en.wikipedia.org/wiki/Harry_S._Truman)

つまり、「ピリオドがつかない」というのはトルーマン自身の冗談で、実はやはりつけるのが正しい、というわけである。

冷静に考えれば「なあんだ」程度の話だが、長らく「常識のウソ」という思い込みがあったので、それがまさに「ウソ」だったと知って驚いた。逆にいえば、関連サイトにこうした記述があるのだから、トルーマンのミドルネームについては以前から「常識のウソ」的理解が広まっていたのではないか。トリビア本の類も、心して読まなくてはいけない。

さて、トルーマンはなかなか興味深い大統領だと思う。苦学して政治家になり、偉大な前任者ルーズベルトの急死に伴い、突然大統領に就任したミズーリの田舎者。在任中の支持率は、なんとウォーターゲート事件時代のニクソンよりも低かったという。

1948年の大統領選挙では勝利したが、事前予測では敗北必至だった。当選が決まった時も「トルーマン敗れる」という予定原稿を誤って印刷した新聞があったくらいで、それを手にして笑っているトルーマンの写真は、私も学生時代に見て印象的だった(先の Wikipedia のサイトにも載っている)。

その彼も、日本への原爆投下という決断、トルーマン・ドクトリン、朝鮮戦争、国民的英雄であるマッカーサーの罷免など、第2次大戦末期から戦後の動乱に至る時期に国の舵取りにあたり、今では大統領10傑に数えられている。いつか、まとまった伝記を読んでみたいと思わされた。

そして今、メディアではトルーマンとブッシュの比較をしばしば見かける。

He led the United States into war and saw his popularity plummet, yet some 60 years later his reputation has never been higher: It's small wonder Harry S. Truman seems to hold a special fascination for President Bush these days.
(「ワシントン・ポスト」紙の記事より)

どちらも、戦争と不人気に直面した大統領というわけだが、後世の評価において、ブッシュはトルーマンになれるだろうか。

参考記事:
「黙殺」の英訳と日本の運命
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2006-08-14
疑い深いミズーリの人びと (I'm from Missouri)
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2008-02-11


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ガーゴイル

トリビューンのネタは本当はデューイがウォレスを破るである。
by ガーゴイル (2021-01-19 08:26) 

tempus_fugit

「デューイ、トルーマンを破る」という大見出しの新聞を持って微笑むトルーマンの写真がいくつも残されていて、ネットで見ることもできますし、あちこちでも紹介されている挿話なのですが・・・。

by tempus_fugit (2021-01-26 08:10) 

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