「ディープ・スロート」の死 [ニュースと英語]
Deep Throat が亡くなった。ウォーターゲート事件でニクソン大統領が辞任するきっかけをつくった内部告発者である。ケネディ大統領暗殺の真相などと並ぶ、アメリカ現代史の謎のひとつだっただけに、数年前に正体が明らかになった時は驚いた。これについては、以前ここで何回か書いたこともある。
1972年、ワシントンで起きたある不法侵入事件に不審な点があるのに気づき、「ワシントン・ポスト」紙の記者たちが取材を始める。そして、彼らが「ディープ・スロート」と名づけた政府関係者の情報提供によって、事件は単なる窃盗目的ではなく、ニクソンが関わる政治謀略であることが暴かれていく。
のちに「ポスト」の2人の記者が書いたノンフィクション「大統領の陰謀」 All the President's Men は、ロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマンの主演で映画化され、私も当時わくわくしながら見たものだった。
その「ワシントン・ポスト」が「ディープ・スロート」こと元FBI副長官マーク・フェルト W. Mark Felt の死をどう伝えているのか、サイトを見た。追悼記事の執筆に協力しているのは、彼から情報提供を受けていた Bob Woodward 記者である(映画ではレッドフォードが演じていた)。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/12/19/AR2008121900228_pf.html
異例ともいえる長い記事だが、事件と「ポスト」の関わりを考えれば、むしろ当然だろう。正体を知っているウッドワードらは、「ディープ・スロート」が死ぬまでは真相を明かさないと決めていたという。フェルトが2005年に自ら正体を明かさなければ、追悼記事も違ったものになっていたはずだ。
捜査の責任者であるフェルトがなぜ情報のリークを決意したのか。義憤によるものだと彼を英雄視する人がいる一方で、FBIのトップに任命されなかった処遇に対する不満からだという見方もあるようだが、彼は最後まで真相を明らかにすることはなかった。
私は二元論とは距離を置く日本文化で育ったためか、こういう場合は、ただ一つの理由だけではなく、いくつかの要因が重なったものだろうと考えて何となく納得してしまう方である。また、歴史的事件は多少ミステリーが残ったほうが面白いものだ、とも思う。
フェルトが、最晩年になって正体を明かすことに同意したのも考えてみれば不思議である。実際に公表に踏み切った親族ら周囲の人間が、記憶喪失に悩まされるようになっていた彼を金目当てに利用した、という見方すらあると何かで読んだ。
「ワシントン・ポスト」の追悼記事は、正体を明かしたフェルトが共著で発表した手記を引用して、次のように締めくくっている。
記憶が失われていくのに気づいたフェルトは、事件当時の決断が間違っていなかったということを、生きているうちに、そして自分の認識がはっきりしているうちに、自ら正体を明かすことによって納得したかったのではないか。自分自身の手で「ディープ・スロート」としての存在証明を行いたかったのではないか。私としては、そんな風に思いたいところではある。
参考:
・「ディープ・スロート」の正体
・Deep Throatの正体・英単語編
・whistle-blowerなど
1972年、ワシントンで起きたある不法侵入事件に不審な点があるのに気づき、「ワシントン・ポスト」紙の記者たちが取材を始める。そして、彼らが「ディープ・スロート」と名づけた政府関係者の情報提供によって、事件は単なる窃盗目的ではなく、ニクソンが関わる政治謀略であることが暴かれていく。
のちに「ポスト」の2人の記者が書いたノンフィクション「大統領の陰謀」 All the President's Men は、ロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマンの主演で映画化され、私も当時わくわくしながら見たものだった。
その「ワシントン・ポスト」が「ディープ・スロート」こと元FBI副長官マーク・フェルト W. Mark Felt の死をどう伝えているのか、サイトを見た。追悼記事の執筆に協力しているのは、彼から情報提供を受けていた Bob Woodward 記者である(映画ではレッドフォードが演じていた)。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/12/19/AR2008121900228_pf.html
異例ともいえる長い記事だが、事件と「ポスト」の関わりを考えれば、むしろ当然だろう。正体を知っているウッドワードらは、「ディープ・スロート」が死ぬまでは真相を明かさないと決めていたという。フェルトが2005年に自ら正体を明かさなければ、追悼記事も違ったものになっていたはずだ。
捜査の責任者であるフェルトがなぜ情報のリークを決意したのか。義憤によるものだと彼を英雄視する人がいる一方で、FBIのトップに任命されなかった処遇に対する不満からだという見方もあるようだが、彼は最後まで真相を明らかにすることはなかった。
私は二元論とは距離を置く日本文化で育ったためか、こういう場合は、ただ一つの理由だけではなく、いくつかの要因が重なったものだろうと考えて何となく納得してしまう方である。また、歴史的事件は多少ミステリーが残ったほうが面白いものだ、とも思う。
フェルトが、最晩年になって正体を明かすことに同意したのも考えてみれば不思議である。実際に公表に踏み切った親族ら周囲の人間が、記憶喪失に悩まされるようになっていた彼を金目当てに利用した、という見方すらあると何かで読んだ。
「ワシントン・ポスト」の追悼記事は、正体を明かしたフェルトが共著で発表した手記を引用して、次のように締めくくっている。
- Because of questions about his memory by 2005, it is unclear whether Felt or co-author O'Connor wrote in his last book: "People will debate for a long time whether I did the right thing by helping Woodward. The bottom line is that we did get the whole truth out, and isn't that what the FBI is supposed to do?"
記憶が失われていくのに気づいたフェルトは、事件当時の決断が間違っていなかったということを、生きているうちに、そして自分の認識がはっきりしているうちに、自ら正体を明かすことによって納得したかったのではないか。自分自身の手で「ディープ・スロート」としての存在証明を行いたかったのではないか。私としては、そんな風に思いたいところではある。
参考:
・「ディープ・スロート」の正体
・Deep Throatの正体・英単語編
・whistle-blowerなど
The Secret Man: The Story of Watergate's Deep Throat (English Edition)
- 出版社/メーカー: Simon & Schuster
- 発売日: 2005/07/06
- メディア: Kindle版
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