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オバマ宣誓のミスと「分離動詞」(?)の謎 [文法・語法]

オバマ大統領の就任演説を収めた本が複数出版され、よく行く書店にはコーナーまでできていた。演説を聞いた時は、盛り上がりに欠けたと感じたとか、現地でも期待はずれだったとの声が伝えられているとか書いたが、今も関心は高いようだ。

演説巧者というだけでオバマを大政治家か人格者のように考えるのはいかがなものか、と以前書いたこともあるが、まあ堅いことは言いなさんな、彼の演説が英語学習の励みになっている人がいるならば良いことではないか、と考え直したりもする。

さてオバマの就任式といえば、宣誓で最高裁長官が副詞の位置(および前置詞)を間違えるハプニングがあった。これについては、ネイティブスピーカーの間でも論議がある「分離不定詞」の問題とからめて一度取り上げたが、「ニューヨーク・タイムズ」紙にちょっと面白い関連記事が載っていたのを見つけたので紹介したい。

タイトルは "Oaf of Office" で、oath of office にかけたものだろう。oaf は「(通例男の)ばか、まぬけ」「不器用な人、無骨者」 a stupid, unpleasant or awkward person, especially a man と辞書にある。
http://www.nytimes.com/2009/01/22/opinion/22pinker.html

この記事は、ネイティブの著名人による英語の誤用疑惑から始めている。これも以前触れたことがある、アポロ11号のアームストロング船長が月面に降り立った時に発した言葉もあげられていた。

そして、今回、宣誓の文言にある faithfully の位置を最高裁長官が間違えた理由について、

How could a famous stickler for grammar have bungled that 35-word passage, among the best-known words in the Constitution? (中略)

. . . a simpler explanation is that the wayward adverb in the passage is blowback from Chief Justice Roberts's habit of grammatical niggling.

と、文法にうるさいロバーツ長官の自業自得との見方を示している。

ここで、かの分離不定詞(または分割不定詞)が出てくるはず、と思って読み進めると、筆者があげたのは split infinitive ならぬ "split verbs" であった。

Among these fetishes is the prohibition against “split verbs,” in which an adverb comes between an infinitive marker like “to,” or an auxiliary like “will,” and the main verb of the sentence.

あれ、こんな言葉もあったのか、と思った。昔ドイツ語を学んだ時に「分離動詞」が出てきたが、英語にも同じような名称の用語・用法があるのか。

筆者は例として、テレビドラマ「スター・トレック」 Star Trek のカーク船長の口上 “to boldly go where no man has gone before” をあげる。これは私も以前書いたように、分離不定詞の例として「お墨付き」を得ているものだ。

もうひとつの例として、ドリー・パートン Dolly Parton の “I will always love you" という言葉もあげられていた。「分離動詞」がダメならば "I always will love you”か“I will love you always” としなければならなくなってしまう、というわけだ。

それはおかしい、後半の2文のようにする必要はない、という筆者の主張については、なるほどそうだろうな、と私も思う。しかし、ドリー・パートンの語順を誤用とする根拠となる「分離動詞」なる考えが、そもそもあるのだろうか。

昔から論議をされている(そして実際にはしばしば使われている)分離不定詞は to と動詞の間に副詞をはさむものだが、will など助動詞と動詞の間に副詞を入れるのは分離不定詞ではなく、誤りでもないのではないか。

手持ちの文法書をあらためて見ると、どの本も、副詞が助動詞と動詞の間に置かれることがあるとしている。筆者の書いているような「分離動詞」があるのか、疑問がわいてくる。

それはともかく、筆者は、法律専門家たちの間に "split verb" はダメだという常識のウソがはびこっている、と論を進めていく。

Though the ungrammaticality of split verbs is an urban legend, it found its way into The Texas Law Review Manual on Style, which is the arbiter of usage for many law review journals. James Lindgren, a critic of the manual, has found that many lawyers have “internalized the bogus rule so that they actually believe that a split verb should be avoided,”(後略)

そこでロバーツ長官も、

On Tuesday his inner copy editor overrode any instincts toward strict constructionism and unilaterally amended the Constitution by moving the adverb “faithfully” away from the verb.

となった、というわけである。そして筆者は

President Obama, whose attention to language is obvious in his speeches and writings, smiled at the chief justice’s hypercorrection, then gamely repeated it. Let’s hope that during the next four years he will always challenge dogma and boldly lead the nation in new directions.

と記事を結んでいる。

宣誓の誤りをめぐる筆者の見方、また記事の締め方は面白いと思ったが、"split verb" はやはり気になる。これは split infinitive の拡大解釈あるいは自己流解釈、平たくいえば、カン違いをしているということはないのだろうか。

"split verb" をネットで調べてざっと見たところでは、法律関係者を批判する筆者の考えに賛同する意見などはあったものの、こうした用語や考えそのものについてはっきりと説明したものは見つからず、本当に存在するのかどうかは確かめられなかった。もっとじっくりと検索結果を見ればわかるかもしれないが、そこまでの余裕はない。

記事によると、筆者の Steven Pinker 氏は心理学が専門のハーバード大学教授で、英語学者や言語学者ではないが、American Heritage Dictionary の usage panel の座長を務めている人だという。であれば言葉についても造詣が深いはずで、split infinitive の理解が怪しい、などということはありえないはずだが…。以上、この問題に詳しい方がいらしたら教えていただければ幸いである。

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