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hypercorrection ~直しすぎるのも考えもの (「サンダーバード」) [発音]

前回はオバマ大統領の宣誓で最高裁長官がおかした文言のミスについて書いた英文記事を紹介したが、その中に hypercorrection という単語が出てきた。

もう一度引用してみよう。

President Obama, whose attention to language is obvious in his speeches and writings, smiled at the chief justice’s hypercorrection,...
( http://www.nytimes.com/2009/01/22/opinion/22pinker.html )

ここでは、文法上誤りではないところを直した結果かえっておかしくなってしまうことを指しているが、私が最初にこの hypercorrection という言葉を意識したのは、「サンダーバード」 Thunderbirds というイギリスのテレビドラマに出てきた h の発音である。


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このSF人形劇については、「動詞ではない go」について以前取り上げた時に触れたことがあるが、日本でも私が子供の時に放送され、大人気となった。日本語版もていねいに作られていたと思う(ロケット打ち上げの場面で lift off を「リフトをはずせ」とした誤訳もあったりはするが)。

私が原語で聞いたのは大人になってからだ。英米両方の英語が使われているが、子供向け番組のせいか聞き取りやすい。しかし登場人物のうち唯一、レディ・ペネロープというイギリス貴族に仕える Parker という執事が大変な難物だった。

パーカーは裏社会の出身という設定で、コックニーなまりというのだろうか、非常にくせのある発音で、/ei/ が /ai/ になったり、/h/ が落ちたりする。主人である女性貴族のわかりやすいイギリス英語と大きな落差があった。

そのうちに気づいたのは、この執事が、h の音を脱落させているだけでなく、母音で始まる単語に余計な /h/ をつけて発音していることだった。

例えば、彼が活躍する "Lord Parker's 'oliday" というストーリーがある(このタイトルは h 音の脱落を表している)。ここでパーカーは、occupy をいってみれば hoccupy、adequate を hadequate、assist が hassist、anticipate は hanticipate といった調子で、不要な /h-/ をくっつけているのが聞き取れる。

ある時、文法や発音で直す必要がないところを直し、結果的に誤りになってしまうことを hypercorrection と呼ぶ、ということを何かで読んで知った。あの発音は、パーカー独自の、つまりあのテレビ番組独自のものではなかったのだ。

この現象について詳しいことは英語の専門家による説明をいただきたいところだが、手っ取り早いところで Wikipedia を見ると、確かに hypercorrection という項目が見つかった。しかし発音については同じ Wikipedia の別の項目に "H-dropping and h-adding" としてまとまった記述がある。

The opposite of h-dropping, so-called h-adding, is a hypercorrection found in typically h-dropping accents of English.
( http://en.wikipedia.org/wiki/Phonological_history_of_English_fricatives_and_affricates#H-dropping_and_h-adding )

そして「マイ・フェア・レディ」 My Fair Lady にある "In 'Artford, 'Ereford, and 'Ampshire, 'urricanes 'ardly hever 'appen" というセリフを紹介している。h が落ちている単語がほとんどだが、hever は h が余計だ。またこの映画を見なくてはなるまい。

なお、この記述がある項目 Phonological history of English fricatives and affricates は、その他の発音上の現象についても触れていて面白い。例えば s 音と sh 音を混同するのは、何も日本人だけではないらしいことが sip-ship merger として説明されている。

これについて連想するのは shibboleth という聖書にちなんだ単語で、これについては以前取り上げたことがあるが、前回引用した op-ed 記事"Oaf of Office"にも使われていたので抜き書きしておく。

Language pedants hew to an oral tradition of shibboleths that have no basis in logic or style, that have been defied by great writers for centuries, and that have been disavowed by every thoughtful usage manual.
( http://www.nytimes.com/2009/01/22/opinion/22pinker.html )

ちなみに hyper- は super のように「過度に」「超~」ということで、英英辞典には over, beyond, exceeding, excessively, above normal などと書かれている。私は子供の時、SF小説に出てくる「ハイパースペース」(超空間)という言葉で出会った。hyper 単独では hyperactive or unusually energetic という意味の形容詞になる。

「サンダーバード」で余談だが、英語版を見るようになって、日本語版で黒柳徹子が声をあてた女性貴族ペネロープ Lady Penelope は原音では「ペネロピー」のような発音だったり、パーカーは鼻の大きい人物で nosy parker と呼ばれていて、「おせっかい屋」を意味するこの言葉を知ったりと、他にもいろいろ発見があった。

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コメント 4

Hirosuke

hyper は悪い意味での「超」なんですね。
http://www.ldoceonline.com/dictionary/hyper-
by Hirosuke (2009-03-11 17:17) 

子守男

hyper そのものが悪い意味を持つのかどうか私にはわかりませんが、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ということなのでしょうね。

by 子守男 (2009-03-12 21:41) 

ETCマンツーマン英会話

コックニーなまりを調べていて、こちらに辿りつきました。

サッカー選手のベッカムが、アメリカに移住して以後、かつてコックニー訛りだった彼の英語が、ポッシュな英語に変わったという記事を読んだことがあります。
1つの事例として、「H音が脱落していたのが、今は意識的にHを発音しようとしている」と言うものでした。
一方で、「必要のないところまでH音を発音している」という指摘もありました。

www.bbc.co.uk/news/uk-england-22179969

hypercorrectionの意味がよくわかりました。感謝です。


by ETCマンツーマン英会話 (2013-08-22 11:25) 

tempus fugit

昔ロンドンに行った時、パブに連れ行ってもらったのですが、周囲の英語がまったく聞き取れなかったという思い出があります。「ネイティブの英語」といっても本当にさまざまあるんだなと感じました。hypercorrection とは関係ありませんが、そんなことを思い出しました。コメントありがとうございました。

by tempus fugit (2013-08-24 11:42) 

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