hug と embrace [単語・表現]
前回の続きである。hug は、私の使っている英和辞典では、いずれも「愛情をもって両腕でしっかりと抱き締める」というような記述を載せているが、私のお気に入りの「アンカーコズミカ英和辞典」には、「恋人どうしの濃密なものでなく、愛情・友情を示す、あいさつのような軽いもの」という説明が付け加えられていて、なるほどと思った。
また、前回 embrace という類義語にも触れたが、hug と違いがあるのか、と引き続き辞書で調べてみる。「アンカーコズミカ」には
という記述があった。その一方で、やはり私の愛用している「レクシス英和辞典」には、
とある。hug と embrace の愛情の度合いについては、2つの辞書で相反する解釈をしているとも受け取れる。どちらなのだろうか、お詳しい人がいらしたら教えていただけたら幸いである。
ところで embrace といえば頭に浮かぶのが、敗戦後の日本について書いたジョン・ダワー John Dower のノンフィクション「敗北を抱きしめて」"Embracing Defeat" である(と偉そうに書いたが、買って本棚には置いてあるものの、まだ読んでいない)。
内容は高い評価を受けているようだが、それは別にして、ひっかかるのはこの邦題である。英語を直訳したようになっているが、この embrace は「受け入れる」といったような意味ではないかと思う。
「ジーニアス英和辞典」は、「~に喜んで応ずる」という訳語を載せている一方で、「(不幸など)に厳然[毅然]として従う、~を甘受する」という語義もあり、ダワーがどういったニュアンスで使ったのか、それこそ中身を読んでいないこともあり、はっきりとはしない。いずれにせよ、「抱きしめて」は妙ではないか、と思った。
だがしかし、と考え直しもする。いくらなんでも、訳者が embrace イコール「抱擁」、と単純に考えているはずはないだろう。ここはあえて、むしろ人目をひくようなこうした直訳調を採ったのではないか。あるいは編集者が「敗北を受けとめて」というようなタイトルでは面白くない、と考えたのかもしれない。いろいろ想像をめぐらしたくなる邦題である。
(追記:書店で邦訳を見たところ、著者ダワーが日本版への前書きで、「日本人は世界で最も苦しい敗北を自己改革のきっかけにした。それを表すために、原題も日本版も一見矛盾した題名にした」という趣旨のことを書いていた。)
もうひとつ、embrace で頭に浮かぶのは、"Embraceable You" というスタンダードナンバーである。初めてこの曲を聞いた時、「embraceable とは面白い単語があるものだ」と思ったものだった。ガーシュウィンによる名曲である。
さらに余談、辞書を眺めていたら tree hugger という言い回しを見つけた。
また、前回 embrace という類義語にも触れたが、hug と違いがあるのか、と引き続き辞書で調べてみる。「アンカーコズミカ」には
hug が、たとえば家族の間のあいさつ代わりに抱き合うような、短いものをさすのに対して、embrace は感情のこもった濃密なものをさす
という記述があった。その一方で、やはり私の愛用している「レクシス英和辞典」には、
hug 愛情や友情をこめて強く抱き締める。くだけた語。
embrace 改まった語で、ふつう愛情のしるしに、ときに儀礼的に、抱き締める。「ひしと、強く、愛情を込めて」という語感は hug の方が強い。
とある。hug と embrace の愛情の度合いについては、2つの辞書で相反する解釈をしているとも受け取れる。どちらなのだろうか、お詳しい人がいらしたら教えていただけたら幸いである。
ところで embrace といえば頭に浮かぶのが、敗戦後の日本について書いたジョン・ダワー John Dower のノンフィクション「敗北を抱きしめて」"Embracing Defeat" である(と偉そうに書いたが、買って本棚には置いてあるものの、まだ読んでいない)。
内容は高い評価を受けているようだが、それは別にして、ひっかかるのはこの邦題である。英語を直訳したようになっているが、この embrace は「受け入れる」といったような意味ではないかと思う。
「ジーニアス英和辞典」は、「~に喜んで応ずる」という訳語を載せている一方で、「(不幸など)に厳然[毅然]として従う、~を甘受する」という語義もあり、ダワーがどういったニュアンスで使ったのか、それこそ中身を読んでいないこともあり、はっきりとはしない。いずれにせよ、「抱きしめて」は妙ではないか、と思った。
だがしかし、と考え直しもする。いくらなんでも、訳者が embrace イコール「抱擁」、と単純に考えているはずはないだろう。ここはあえて、むしろ人目をひくようなこうした直訳調を採ったのではないか。あるいは編集者が「敗北を受けとめて」というようなタイトルでは面白くない、と考えたのかもしれない。いろいろ想像をめぐらしたくなる邦題である。
(追記:書店で邦訳を見たところ、著者ダワーが日本版への前書きで、「日本人は世界で最も苦しい敗北を自己改革のきっかけにした。それを表すために、原題も日本版も一見矛盾した題名にした」という趣旨のことを書いていた。)
もうひとつ、embrace で頭に浮かぶのは、"Embraceable You" というスタンダードナンバーである。初めてこの曲を聞いた時、「embraceable とは面白い単語があるものだ」と思ったものだった。ガーシュウィンによる名曲である。
さらに余談、辞書を眺めていたら tree hugger という言い回しを見つけた。
[通例軽べつして]何でも環境保護第一の人、過激な環境活動家(切られるのを防ごうと木に抱きつくことから)→eco-warrior
(アンカーコズミカ英和辞典)
Embracing Defeat: Japan in the Wake of World War II
- 作者: John W. Dower
- 出版社/メーカー: W W Norton & Co Inc
- 発売日: 2000/06
- メディア: ペーパーバック
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私は「敗北を抱きしめて」を仲間と精読して4年になります。
参考文献、引用などを読みながら進めているので、あの戦争がなんだったのかについて多方面からの情報がつまっており、それら
を読者がどう受け止めていくか、深く考えさせられる。ダワーの文章には、難解な語句があって、四苦八苦しつつ、なんとか最後まで読み切りたいと続けています。 彼がなぜこの題名を選んだかについては、上巻の最初のあたりに書いてあったと思います。
半藤一利や保坂正康の歴史本も好きだし、加藤恭子の外交政策からの分析も面白いですが、ダワーほどの多方面からの分析の深さ、多様さには及ばないと思います。この本に引っ張られて、読書の幅が広がったように思っています。
by 愚円 (2018-05-21 03:04)
かなり昔の記事に目を留めていただきましてありがとうございます。参考文献や他の歴史書も読むことで、一層深い読書を進めておられるのですね。私は何でも読み散らし状態で、ダワーも依然仕舞い込んだままです。もっと分析的な読み方を身に着けなくてはいけないな、と恥じ入りました。
by tempus fugit (2018-05-21 10:17)