By the Stars of the Galaxy [翻訳・誤訳]
アイザック・アシモフ Isaac Asimov の「ファウンデーション」 Foundation をめぐる英語についての思い出をもう一つ。私が中学生の時に読んだ翻訳の解説に、SF小説の英語の特徴について次のような記述があった。
SFは遠い未来を描いたり異星人が出てきたりするので、本来なら "Oh, God!" のようになる感嘆や驚きの言葉では、god などの代わりに例えば galaxy とか space が使われることがある。だから間違って訳さないようにしなくてはならない。当時読んだ翻訳は手元になく正確には思い出せないが、確かそうした内容だった。
かなりの数のSFを読んでいた私は、当時すでにこのことに気づいていた。といっても当時まだ英語は読めなかったので、翻訳のおかげである。特に、以前冥王星の衛星 Charon の発音にからんで触れたことがあるエドモンド・ハミルトン Edmond Hamilton という作家のシリーズに、この手の語句がよく出てきた。
例えば「なんてこった!」という言葉に、「マイ・ギャラクシー」というようなルビがついていた。原語を振り仮名で示すやり方がいいかどうかは議論があるだろうが、「マイ・ゴッド」の代わりにこう表現しているのだな、ということを、原書を読んでいなくても掴むことができた(ちなみにこのシリーズの翻訳者、野田昌宏氏の訳文自体は、会話が自然な日本語になっていて楽しんで読んでいた。やや「超訳」の匂いもしたが)。
話を「ファウンデーション」に戻すと、先日書いたように、このシリーズでは、ある組織がどこにあるのかが謎解きのひとつになっている。そして、ある登場人物が、その組織の場所に気づいた時にこんなセリフをいう。
大学生の時に原書に挑戦し、ここを読んだ時、私はあれっと思った。というのは、印象深いシーンなので、翻訳では「『銀河の星』のそばですね」というようになっていたことを覚えていたのだが、原文を読んで、この by は「~のそばに」ではなく、「~に誓って」「~にかけて」ということではないか、と思ったのである(さらにいえば、最初に翻訳を読み、謎の正解を知った時も、この訳は意味がよく通らないと不審に思っていた)。
そして、"the Stars of the Galaxy" は、いわばSF世界での God の代わりなのではないか。「間違って訳さないように」と注意をうながしていた翻訳者本人が落とし穴にはまってしまったのではないか。そんな風に思った。
この部分はどう解釈するのが正しいのか。ネイティブスピーカーに聞いてみればいいのだろうが、そうしたこともせず30年近く経ってしまった。私が読んだ原書も手元になく、上にあげた原文は、今回書店に行ってこの作品のペーパーバックをあらためて見て書き写してきたものだ。
ついでに文庫本コーナーにも足を運んで現行の新訳を確かめてみたら(先日書いたように、私が読んだ旧訳はすでに絶版になっている)、ここのところは「銀河の星ぼしにかけて」となっていた。こちらの方が私の考えにあっているが、本当のところはどうなのだろうか。
ついでの連想で、by で始まる感嘆句で思いつくものに By George! があるが、以前、この言葉をブッシュ前大統領とからめて使った The Economist 誌の例について触れたことがあるので、参考までにあげておきたい。
過去の参考記事:
「水金地火木土天海冥」は英語で何というか
tin ear, "Stuff happens."
SFは遠い未来を描いたり異星人が出てきたりするので、本来なら "Oh, God!" のようになる感嘆や驚きの言葉では、god などの代わりに例えば galaxy とか space が使われることがある。だから間違って訳さないようにしなくてはならない。当時読んだ翻訳は手元になく正確には思い出せないが、確かそうした内容だった。
かなりの数のSFを読んでいた私は、当時すでにこのことに気づいていた。といっても当時まだ英語は読めなかったので、翻訳のおかげである。特に、以前冥王星の衛星 Charon の発音にからんで触れたことがあるエドモンド・ハミルトン Edmond Hamilton という作家のシリーズに、この手の語句がよく出てきた。
例えば「なんてこった!」という言葉に、「マイ・ギャラクシー」というようなルビがついていた。原語を振り仮名で示すやり方がいいかどうかは議論があるだろうが、「マイ・ゴッド」の代わりにこう表現しているのだな、ということを、原書を読んでいなくても掴むことができた(ちなみにこのシリーズの翻訳者、野田昌宏氏の訳文自体は、会話が自然な日本語になっていて楽しんで読んでいた。やや「超訳」の匂いもしたが)。
話を「ファウンデーション」に戻すと、先日書いたように、このシリーズでは、ある組織がどこにあるのかが謎解きのひとつになっている。そして、ある登場人物が、その組織の場所に気づいた時にこんなセリフをいう。
"By the Stars of the Galaxy--now, I know."
大学生の時に原書に挑戦し、ここを読んだ時、私はあれっと思った。というのは、印象深いシーンなので、翻訳では「『銀河の星』のそばですね」というようになっていたことを覚えていたのだが、原文を読んで、この by は「~のそばに」ではなく、「~に誓って」「~にかけて」ということではないか、と思ったのである(さらにいえば、最初に翻訳を読み、謎の正解を知った時も、この訳は意味がよく通らないと不審に思っていた)。
そして、"the Stars of the Galaxy" は、いわばSF世界での God の代わりなのではないか。「間違って訳さないように」と注意をうながしていた翻訳者本人が落とし穴にはまってしまったのではないか。そんな風に思った。
この部分はどう解釈するのが正しいのか。ネイティブスピーカーに聞いてみればいいのだろうが、そうしたこともせず30年近く経ってしまった。私が読んだ原書も手元になく、上にあげた原文は、今回書店に行ってこの作品のペーパーバックをあらためて見て書き写してきたものだ。
ついでに文庫本コーナーにも足を運んで現行の新訳を確かめてみたら(先日書いたように、私が読んだ旧訳はすでに絶版になっている)、ここのところは「銀河の星ぼしにかけて」となっていた。こちらの方が私の考えにあっているが、本当のところはどうなのだろうか。
ついでの連想で、by で始まる感嘆句で思いつくものに By George! があるが、以前、この言葉をブッシュ前大統領とからめて使った The Economist 誌の例について触れたことがあるので、参考までにあげておきたい。
過去の参考記事:
「水金地火木土天海冥」は英語で何というか
tin ear, "Stuff happens."
タグ:アイザック・アシモフ SF
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> 私が中学生の時に読んだ翻訳の解説に、
> SF小説の英語の特徴について次のような記述があった。
『永遠の終り』の訳者の深町真理子さんの解説でしたかね? たしか、それに続けて、やはり訳語について、「“生理時間”はいいとして、生理日となると女性として抵抗があるので、“生理学時間”とした」とかなんとか書いてあったような……いやあ、大昔の話で恐縮です。
by 6 (2010-07-15 22:05)
私の書き方が舌足らずでしたが、「翻訳」とは、まさに「銀河帝国の興亡」の邦訳のことです。創元の解説で翻訳者が書いていたはずですが、もう手元にないので確かめられません。
by 子守男 (2010-07-18 14:31)
あ、これも創元の訳者のお話だったんですね。まさか解説もパクリだったわけではないでしょうが、私も銀背の『永遠の終り』を探して確認しなくては……と言ってももう手もとにはないのですが。
アシモフのノンフィクションを集めていた時期があり、彼にはいろいろなことを教えてもらったものです。もう新作が読めないのが実に残念ですが。
by 6 (2010-07-21 12:41)