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「007 ロシアより愛をこめて」(イアン・フレミング) [007 ジェームズ・ボンド]

007の映画が去年50周年を迎えたことにちなんで、イアン・フレミングの一連の原作を順番に原文で読んでいる。前回取り上げた From Russia with Love 「ロシアより愛をこめて」もそのひとつだ。それまでの4つの作品とはかなり趣きの違った作品になっていると感じた。

初期の3作(「カジノ・ロワイヤル」「死ぬのは奴らだ」「ムーンレイカー」)では、冒頭から007が登場するが、続く「ダイヤモンドは永遠に」では、第1章がボンド以外の描写にあてられた。その次の「ロシアより愛をこめて」は、全体の3分の1をまるまる費やしてまず敵の作戦立案を描くという、さらに大胆な構成を取っている。

その後ようやく登場してイスタンブールに飛んだジェームズ・ボンドも、自分からはほとんど行動を起こさず、諜報機関のトルコ支局長につき従い、囮である敵の美女からの連絡を待つ。007らしさをみせるのは、敵と直接対決する最終場面になってからである。こうした展開も、それまでの作品には見られなかったものだ。敵は、007ものにしばしば登場する「怪人物」系ではなく、ロシアの諜報機関であり、その策略も非常にリアルに描かれている。

先日も紹介した、トルコ支局長とともに敵を射殺する場面では、ジョークを言う映画とは対象的に、自分は何と因果な仕事についているのかと嫌な気持ちに襲われるという描写がある。ボンドが仕事に疑問を持つ場面は、すでに第1作「カジノ・ロワイヤル」で描かれていたが、その後敷衍されることはなかったはずだ。今作で、再びボンドに内省的な面を与えようとしたのだろうか。

むかし翻訳で読んだ時には、地味であまりおもしろい作品とは思えなかったが(ちなみに「ロシアから~」と題されていたが、ここでは映画の方を使うことにする)、今回は、派手さはないもののじりじりと緊張を高めながら進んでいく展開が、フレミングお得意の細部の描写とあいまって愉しく読めた。私も少しは大人になったのか。

策謀立案の部分を後の方で回想シーンにするなどして短くしたり、活劇をもっと盛り込んだりしたら(原作にかなり忠実な映画に付け加えられた要素がまさにそれだった)、よりスリリングな作品になっただろう。しかしフレミングは、そんなことは承知のうえで、過去の作品とは違った新しい試みを押し通したのではないかと妄想したくなる。

英米では007の作品は装丁を変えてひんぱんに出版されていて、原作も息が長い人気シリーズであることがうかがえるが、amazon を見たら、この作品が Johnathan Cape 社の1957年初版と同じ表紙を使って近く再版されることがわかった。シリーズの中でも人気作ということだろうか。

From Russia With Love

From Russia With Love

  • 作者: Ian Fleming
  • 出版社/メーカー: Ishi Press
  • 発売日: 2013/02
  • メディア: ペーパーバック

余談だが、007ものを続けて読んでいると、作品が違っても共通してよく使われる単語や表現がいくつかあることに気づく。フレミングの気に入った言葉なのだろうか、同じ作家の作品をまとめて読んでいくおもしろさはこんなところにもあるのかもしれない。


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