「ウェオ・アイム・ステオ・イン・マイ・アアリイ・サーリース」 (dark L と clear L) [発音]
「ワーラー」「ベラー」のように聞こえる発音について先日書いたが、たまたま立ち寄った古本屋で、こうした「耳で聞こえた通りの英語のカタカナ表記」で印象に残っている本に久しぶりに出会った。山口瞳の「江分利満氏の優雅な生活」という小説である。
週刊誌の長期連載コラムで知られた故・山口瞳のデビュー作で、題名になっている主人公の名前は everyman にかけてある。日本が高度成長期にあった昭和30年代のサラリーマン生活を描いたものだが、昭和は遠くなりにけり、今や「1960年前後」と西暦で言った方がまだ想像しやすいかもしれない。
読書に目覚め、何でも読んでみようという中学生の時に手に取ったが、私の父親の世代を描いたものだったし、何せサラリーマン生活を知らないので、おもしろく読めるはずはなかった。
そんな本なのに妙に記憶に残っているのは、スペリングではなく、聞こえたままに英語をカタカナで表記したくだりがあるからだった。
古本屋で何十年かぶりに再会した作品をぱらぱらめくって探したら、あった。主人公が、母親に死なれたことについてアメリカ人に英語で話す、ちょっとほろりとさせられる場面である。江分利満が話した言葉は、
- 「ウェオ・・・アイム・ステオ・イン・マイ・アアリイ・サーリース」 (Well, I'm still in my early thirties.)
というものだった。
中学生になって英語の学習を始めた私は、NHKラジオ講座の「基礎英語」「続基礎英語」(当時の番組名)を熱心に聞いていたが、well などの語尾の /l/ がどうしても「オ」に聞こえるので不思議に思った。
しかし、いくらなんでも l が母音と同じ発音になるはずはない。「l の音 は舌先を歯茎の裏に押しつける」というように説明されていたので、練習用の単語や文を読んでテープレコーダーに録音してみた。しかし自分の発音は、どうしても「オ」のようにはならない。
実は、母音を伴う語頭・語中の l と語尾の l では発音が微妙に違うということなのだが、当時はそんなことは知らず、ずっと謎の現象のひとつだった。
そんな段階にあった初学者の私にとって、いかにも耳でとらえたままのカタカナで表記していた「江分利満氏」の一節は、小説の内容以上に印象的だった。
その後、「l 音 は『ウ』や『オ』のように聞こえる場合がある」という説明を目にするようになったが、そのたびに「江分利満氏」のことが頭に浮かんだ。
それにしても江分利満の耳は英語の特徴をよくとらえていて感心する。つまり、山口瞳自身が英語をこういうように聞き取っていたということになるのだろう。
さて、/l/ は "dark L (または l)" と "clear L" といわれる、異なる2種類がある。今回ネットであらためて調べたら、「オ」と聞こえる dark L には、それを表す発音記号もあることを知った。
2つの /l/ については、例えばカナダはマニトバ大学の先生による次のような簡潔な説明があった。
http://home.cc.umanitoba.ca/~krussll/phonetics/narrower/dark-l.html
また Wikipedia とその日本語版には、dark L が、難しい言葉が並ぶタイトル項目で説明されていた。
Velarized alveolar lateral approximant
http://en.wikipedia.org/wiki/Velarized_alveolar_lateral_approximant
軟口蓋歯茎側面接近音
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%9F%E5%8F%A3%E8%93%8B%E6%AD%AF%E8%8C%8E%E5%81%B4%E9%9D%A2%E6%8E%A5%E8%BF%91%E9%9F%B3
参考記事:
・やめてほしい電子辞書の「ワーラー (water)」
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-03-18
週刊誌の長期連載コラムで知られた故・山口瞳のデビュー作で、題名になっている主人公の名前は everyman にかけてある。日本が高度成長期にあった昭和30年代のサラリーマン生活を描いたものだが、昭和は遠くなりにけり、今や「1960年前後」と西暦で言った方がまだ想像しやすいかもしれない。
読書に目覚め、何でも読んでみようという中学生の時に手に取ったが、私の父親の世代を描いたものだったし、何せサラリーマン生活を知らないので、おもしろく読めるはずはなかった。
そんな本なのに妙に記憶に残っているのは、スペリングではなく、聞こえたままに英語をカタカナで表記したくだりがあるからだった。
古本屋で何十年かぶりに再会した作品をぱらぱらめくって探したら、あった。主人公が、母親に死なれたことについてアメリカ人に英語で話す、ちょっとほろりとさせられる場面である。江分利満が話した言葉は、
- 「ウェオ・・・アイム・ステオ・イン・マイ・アアリイ・サーリース」 (Well, I'm still in my early thirties.)
というものだった。
中学生になって英語の学習を始めた私は、NHKラジオ講座の「基礎英語」「続基礎英語」(当時の番組名)を熱心に聞いていたが、well などの語尾の /l/ がどうしても「オ」に聞こえるので不思議に思った。
しかし、いくらなんでも l が母音と同じ発音になるはずはない。「l の音 は舌先を歯茎の裏に押しつける」というように説明されていたので、練習用の単語や文を読んでテープレコーダーに録音してみた。しかし自分の発音は、どうしても「オ」のようにはならない。
実は、母音を伴う語頭・語中の l と語尾の l では発音が微妙に違うということなのだが、当時はそんなことは知らず、ずっと謎の現象のひとつだった。
そんな段階にあった初学者の私にとって、いかにも耳でとらえたままのカタカナで表記していた「江分利満氏」の一節は、小説の内容以上に印象的だった。
その後、「l 音 は『ウ』や『オ』のように聞こえる場合がある」という説明を目にするようになったが、そのたびに「江分利満氏」のことが頭に浮かんだ。
それにしても江分利満の耳は英語の特徴をよくとらえていて感心する。つまり、山口瞳自身が英語をこういうように聞き取っていたということになるのだろう。
さて、/l/ は "dark L (または l)" と "clear L" といわれる、異なる2種類がある。今回ネットであらためて調べたら、「オ」と聞こえる dark L には、それを表す発音記号もあることを知った。
2つの /l/ については、例えばカナダはマニトバ大学の先生による次のような簡潔な説明があった。
http://home.cc.umanitoba.ca/~krussll/phonetics/narrower/dark-l.html
また Wikipedia とその日本語版には、dark L が、難しい言葉が並ぶタイトル項目で説明されていた。
Velarized alveolar lateral approximant
http://en.wikipedia.org/wiki/Velarized_alveolar_lateral_approximant
軟口蓋歯茎側面接近音
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%9F%E5%8F%A3%E8%93%8B%E6%AD%AF%E8%8C%8E%E5%81%B4%E9%9D%A2%E6%8E%A5%E8%BF%91%E9%9F%B3
参考記事:
・やめてほしい電子辞書の「ワーラー (water)」
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-03-18
タグ:ラジオ・テレビの英語講座 和書
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