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「基礎」とは思えない「基礎英語1」 [英語学習]

昔の「NHK基礎英語」の思い出について前回書いたが、ふと今の講座がどうなっているか興味を持ち、本屋で4月号のテキストを見たら驚いた。開講の月なのに、「基礎」とは思えないような高度な内容だったからだ。


NHK ラジオ 基礎英語1 CD付き 2013年 04月号 [雑誌]

NHK ラジオ 基礎英語1 CD付き 2013年 04月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2013/03/14
  • メディア: 雑誌


1日目から、数行の会話が示される。日常ですぐ使えそうな英語になっているのは、「コミュニケーション重視」という政府の英語教育の方針に沿ったものか。文法事項に縛られず、自然な英語を毎日聞いたもらうことで、日本語とは違う音に慣れてもらうのが狙いなのだろう。

しかしそれにしては、英語を初めて学ぶ人にとっては単語が多すぎ、そのレベルや発音・聞き取りの難易度も高すぎるのではないかと感じた。

1日目には、日本語にない /v/ 音が、発音の仕方について(少なくともテキストでは)詳しい説明もなく重要ポイントとして取り上げられている。少し先を見たら、「私は~で生まれました」という形で過去形も出てくる。命令形もある。

年間のカリキュラムを見ると、5月以降は中心となる文法事項が毎月設定されているようなので、4月は入門として、英語に親しみを感じてもらうことを優先し、あえてレベルや文法的なワクを設けていないのかもしれない。しかし、これでまごついてしまう初学者はいないのだろうか。

とはいえ、テキストだけでは判断はできない。そこで、講座のオフィシャルサイトで利用できるようになっているストリーミングで実際の放送を聞いてみた。

講師やゲストは、英語を教えるというより、トーク番組あるいはDJ調といった語りで軽妙にレッスンを進める。それは親しみやすいのかもしれないが、とにかく細かい説明がほとんどない。

先に書いたように、日本語にない v の音を含む private detective や th 音を含む month といった単語も、いきなりリピート練習が課される。同じように特段の説明がなく I am が I'm となることが示される一方で、Yes, I am は *Yes, I'm. とはならない、と注意される。

私だったら、この1回目のレッスンでいきなり挫折してしまうだろう。へたしたら英語ぎらいになってしまうかもしれない。

中高年の懐古談に聞こえてしまうのを覚悟で書くと、私が40年近く前に聞いた「基礎英語」は、方向性がこれと真逆ともいえる内容だった。

4月は、日常のあいさつを除くと、まるまる1か月使って教えられたのは、アルファベットと単語のみ。1回のレッスンでは、sheep と ship、hot と hat と hut というように、日本人には混同しがちな母音・子音を持つ単語がペアにして取り上げられた。

「聞こえた通りに発音してみましょう」というのでなく、音が日本人にどのように聞こえるか、どのように発音するのか、綴りに引きずられないようにすることを含めて、ていねいに説明されていたと記憶する。

それを補う意味もあったのか、毎日、英語の歌が流された。最初は「ABCの歌」のレベルだったが、月を追うごとに、単語が難しく、中学1年以降で学ぶ文法事項が出てくる歌になっていったが、気にせずに耳を傾けた。基礎的な発音は4月で説明が終わっているので、抵抗感なく英語の音に慣れることができた。

ちゃんとした文が取り上げられるようになったのは5月からだった。ゆっくりした歩みで、すぐに「コミュニケーション」につながる方法ではなかっただろうが、いま振り返っても、それまで英語にまったく触れたことない人でもついていける、たいへん親切な内容だったと思う。

話を今の「基礎英語1」に戻すと、4月号のテキストをさらに読んだところ、実はこの番組は、英語を初めて学ぶ人のための講座ではないことを知った。

現在のNHKの英語講座は、ヨーロッパで採用されている外国語学習の指標(?)に沿ったレベル分けがされていて、「基礎英語1」は、下から2番目に位置づけられていた。

その一つ下、つまりまったくの入門者向けとしては、小学校で導入された英語のレベルにあわせた(ラジオでなく)テレビの「プレキソ英語」という別の講座が設けられていた。

NHKの講座は、「コミュニケーション重視」や「小学校からの英語教育」にあわせて、たぶん何年も前からこうなっていたのだろう。知っている人から見れば、私は「浦島太郎」状態で、とんだお笑いということになりそうだ。

それでも、「これで大丈夫なのだろうか」と思わざるを得なかった。「基礎英語」はたいへん長い歴史を持つがゆえに、「実はすでに一つ下のレベルを学習していることが前提です」ということを初めて知って、えっと思う人がいるのではないか(特に、私のようにかなり前の講座で学んだ親御さんなど)。

前提となっているレベルに位置づけられている「プレキソ英語」は、ラジオでなくテレビだし、タイトルもカッコはいいが、ラジオとのつながりやレベルの違いがわかりずらく、ちょっと不親切ではと感じる。また媒体としてもラジオとテレビでは特徴が違い、集中して学ぶ点ではやはりラジオに軍配があがると思う(そうでないという人もいるかもしれないが)。さらに、この「プレキソ英語」も、テキストを見た限り、超初心者に親切とは言い難いように思えたが、ここでは深入りは避けることにする。

しかし、これが最近の「基礎英語」のスタンダードな姿ならば、むしろ私こそ昔の英語教育の観念に縛られた古い頭の持ち主なのかもしれない、と考えたりもする。どうやら「パラダイムの転換」が必要のようだ。今の普通の中学生が、こうした講座に難しさを感じず、苦もなくついていけるのだとしたら、英語に関しては日本人の将来は明るいということもいえるかもしれない。

ということで、何十年前に利用し英語への道を拓いてくれた講座のあまりの変貌ぶりに、本当に驚いていまった。

余談だが、NHKテキストの出版社のサイトには、80周年(2011年)を記念した「語学講座のあゆみ」というコーナーがあり、過去のテキストの表紙も紹介されている。私が利用していた年代のページには、「基礎英語」の写真はないが、やはり視聴していた「テレビ英語会話中級」のテキストが載っていた。
http://www.nhk-book.co.jp/recommend/80-02anni/gogaku/50.html

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近藤広一

中高生対象の英語教室を35年経営していますが、たしかに路線変更した「基礎英語」は使いにくいという印象を抱いています。

以前のような文法中心の内容で、初心者を対象にした以前の水準に戻したほうが、中学校での学校採用であれ、小学生の自習にせよ、幅広く活用されると期待できるからです。

ヨーロッパの外国語教育の基準を日本にそのまま持ち込むことは
単なる権威主義(西洋のものを無批判にありがたがる日本人の悲しい習性)にすぎません。

中学1年の英語は、1.語順 2.代名詞 3.加算・不可算名詞
が日本人には大きな壁として立ちはだかり、経験豊富な講師の
指導が不可欠です。

NHK語学部統括部長の篠原朋子さんにぜひこちらのブログを投稿されてはいかがでしょうか。
URL   http://www.nhk-ed.co.jp
by 近藤広一 (2013-09-10 22:38) 

tempus fugit

英語教育には素人の私ですが、なぜヨーロッパの外国語教育の尺度を、構造がまったく違う日本語を母国語とするわれわれに当てはめるのが、実は私もよく理解できません。日本人にとっての「外国語としての英語教育」を確立するうえで、むしろ逆行する動きにも見えます。とはいえこのブログを投稿をする勇気は小心者の私にはありません・・・。
by tempus fugit (2013-09-11 01:25) 

むーにー

わたしは娘と一緒に基礎英語きいてますが、昔と違ってとっつきやすくなったと思います。

文法とか、そういうのは学校が教えてくれるし、そもそも、いまは小学生のうちから英語の学習が始まっています。アルファベットや昔の中学1年生くらいの単語と簡単な発音くらいは習ってきています。

多くの人にとって、コミュニケーションツールとしての英語は必要です。文法学者になるわけではないので、難しいことを考えずに聞ける最近の語学番組は子供たちにはハードルが低くて導入には良いと思います。


by むーにー (2013-10-03 13:24) 

tempus fugit

むしろとっつきやすくなった、というのでしたら、それはそれで良いことだと思います。ただ、「すでに小学生で簡単な英語を習っている」ことが前提なのだとしたら、それをもっとはっきり示すべきだと思います(テキストやストリーミングではそのあたりが不明確だったと記憶しています)。また、そもそもそうした番組を「基礎」と呼ぶのが適切なのか、とも考えます。

「コミュニケーションツールとしての英語の重要性」は私も仕事などで実際に体験しているので、理解しているつもりです。ただ、それは文法学習と排他的な関係にあるとは考えていません。当時の「基礎英語」が英語のしくみをしっかりと教えてくれたおかげで(ついでですが発音の説明もていねいでした)、その後の「コミュニケーションツール」としての基礎を築くことができたと考えています。

by tempus fugit (2013-10-06 16:40) 

じまーちょ

 この春から小6になる息子は、あまり語学的なセンスがなく、言葉を覚えるのが苦手なタイプなので、一年先取りで基礎英語1から親子で始めようと思いましたが、ちょっと困ってます。
 それはいきなりドラマが始まって、何の基礎もない子供にこれをいきなり繰り返し聞けとか、発音しろと言ってもちんぷんかんぷんだと思いました。すでに塾に通っている子向けなのかなあ?しかも、5歳児とか大人の会話とか・・・あまり中学生がわくわくしそうもないんですけど・・・。(私自身おもしろくない。)
 ためしにプレキソのテキストも買ったけど、テレビありきでCDがないので繰り返し練習には向かないような・・・。
 小学校の英語はALTの先生とゲームしたりあいさつ程度のことはしてますが、それで基礎の基礎が定着してるとは思えないし、家庭学習のテキストとしては親との認識のギャップをうめてくれないと親が教えるのは無理ですね。
 私自身趣味でポルトガル語講座で初級から勉強した経験があるのでNHKラジオ講座を信頼していていました。ゼロから詳しくやってくれるので、繰り返しのヒアリングと発音練習である程度自信がつきました。
 しかし、英語をゼロからスタートする子供と一緒にやるのにどこからどうやっていいのか混乱しています。確かに文法だけでしゃべれるわけではないけど・・・。
by じまーちょ (2014-03-27 06:49) 

tempus fugit

じまーちょ さん、コメントありがとうございました。
私は英語教育の専門家ではないので詳しくはわからないのですが、後天的に外国語を学ぶ場合、どういった方法があっているかは人によって違うのではないかと思っています。

私の時の講座は、「これがどういう意味を持つのか」「日本語の音とどう違うのか、どう発音したらいいのか」をしっかりと教えていたので、自分ができなくてもどこがダメなのかわかって安心感がありました。私にはあっていたスタイルだっと思います。

今の講座は、どこがわからないのか自体がわからず、もちろんどうしたらいいかもわからない、といった印象で、私だったらすぐに脱落するでしょう。一方で、こうした講座の方がいいという人もいるわけで、そこが難しいところですね。

いくつか違った方法論に基づいた複数の基礎講座があるといいのですが、現状はそうではなく、むしろ「コミュニケーションの英語」の名のもとに方針が硬直化して、「噛んで含める」スタイルが排斥されているのではないかとも感じてしまいます。



by tempus fugit (2014-03-28 13:12) 

zukko

今春から中学生になる娘を持つ、40代半ばの女性です。教員歴は短いですが、一応、英語科教員免許を持っています。

今春から娘と一緒に「基礎英語1」を聴き始め、私も、「基礎」とは思えない、という印象を持ちました。
娘は、本当の「基礎」から教えてくれる英語学校に2年半通ったので、今のところついていけていますが、全くの初心者のお子さんはついていけるのだろうかと心配になります。

ところで、NHKがレベル分けに使っている「CEFR(ヨーロッバ言語共通参照枠)」は、言語能力を評価する国際指標であり、現在世界中で、学習者の言語運用能力を客観的に評価するために使われています。
以下のページの説明が参考になると思います。
http://eng.alc.co.jp/newsbiz/hinata/2007/12/cefr.html
by zukko (2014-04-03 23:57) 

tempus fugit

zukko さん、コメントありがとうございました。

近年の「基礎英語」の内容は、「コミュニケーションのための英語」という近年の教育方針にも沿ったもの、と理解していますが、学校教育はこれでも足りないと、さらに前倒しするような方向にありますね。

子供は柔軟性があるといいますが、それでも、かえって英語がわからなくなり、英語嫌いの子供が増えるのではないだろうかと心配になります。

by tempus fugit (2014-04-05 19:24) 

NO NAME

30年前に基礎英語聞いていました。
ラジオを聞きながらテキストの文を追う作業について行けたのは最初の3ヵ月のみ
そもそも音と文字が合致しないので一向に読めないし書けない当然、声に出して読めない
1年の終わりには、ラジオで流れている文がどこの文章なのか途中からいつもわからなくなる状態で、全くついて行けなくなりました
カセットテープに録音して、リアルタイムで聞く以外に毎日1時間やっていましたが全く進歩無し
教師には声に出して何度も復唱するといいと言われましたが、そもそも聞き取れないのですから読みようがないのです

3年の2月まで聞いてましたが初期で英語を落ちこぼれた人間には苦痛な時間を無駄に過ごしただけで、何の役にも立ちませんでした

結局、英語が嫌いで苦手な子はどんなにレベルを下げたところですぐに脱落して聞かなくなるるのでテキストはすぐに買わなくなる、初期を簡単にし過ぎると今度は英語が好きな子が簡単すぎて興味を持たずテキスト定期購読者なってもらえない

そうなると誰も聞かない基礎英語の存続危機になるわけで
基礎英語は英語好きな中学生が食いつきやすいレベルにおさまるのは仕方ないと思います
by NO NAME (2016-03-09 16:49) 

tempus fugit

NO NAMEさんが聞かれたのよりもっと古い講座は、英語に触れるのが初めてだった私にもついていけるほど、本当に初歩から段階的に懇切丁寧に進んでいく、という感じでした。当時はもちろん英語が得意あるいは好きになるかどうか自分でもまったくわかりませんでしたが、なんとか1年間完走できました。30年前といえば、確か日本の英語教育が「コミュニケーションの英語」に舵を切っていた頃のはず、基礎英語もすでに私が聞いていた頃とは違った内容になっていたのかもしれませんね。
by tempus fugit (2016-03-09 22:23) 

ラジオ講座のおかげです

temupus fugitさん、もう数年前から変化が始まっていたのですね。自分は遅まきながら今年になって子どもの基礎英語1のテキストを買ってきて聞いていて、同じ驚きを感じています。
まったく、習うより慣れろ的な教え方で、アルファベットも教えない、発音の基礎も教えない、文法も体系的にやっている感じがしないときています。過去の基礎英語の内容をネットで確認したところ、1978年度の基礎英語では9月になってやっと一般動詞の三単現のSが出てきていました。(もっともその年度はまだ基礎英語では過去形も教えておらず、完全に中1の範囲でしたが。)
その頃はアルファベットも数も一から教わりましたし、それよりなにより個別の発音について発音記号も示しながら発音方法から丁寧に教えてくれていました。いくら似非コミュニケーション重視といっても、音声学的なアプローチもまったく無いのはどうかと思います。
by ラジオ講座のおかげです (2018-04-07 15:31) 

tempus fugit

ラジオ講座のおかげです さん、コメントを拝読して、私も書店で今年のテキストを見てみましたが、同じような印象(というか危惧)を持ちました。再度同じようなテーマについて何か書いてみようかとも思いましたので、少し考えてみることにします。
by tempus fugit (2018-04-09 01:00) 

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