「転ばぬ先の杖」（「007 黄金の銃を持つ男」）

少し前に、安倍総理が使った「魔法の杖」をきっかけに magic wand などいくつかの英語表現を数回にわたって取り上げたが、その連想で「転ばぬ先の杖」にあたる英語について短く触れたい。

こう思ったわけはもうひとつある。先日書いたように最近007シリーズの原書を全巻読破したが、読み終わって間もない「黄金の銃を持つ男」（シリーズの長編最終作）に、この日本語に通じるような表現があったのだ。

The Man with the Golden Gun

• 作者: Ian Fleming
• 出版社/メーカー: Penguin Books
• 発売日: 2004/04/06
• メディア: ペーパーバック

ジェームズ・ボンドが変名でスパイをしていることが実は敵に気づかれていた。それを知ったCIAの協力者フィーリックス・ライターがボンドに警告するが、ボンドもすでにそれがわかっていた。

- 'I guess you've had it, James. They were talking Russian, but your name and number kept cropping up. Guess you'd better get out of here just as quickly as that old jalopy of yours'll carry you.'　(注：old jalopy ポンコツの車)
Bond smiled thinly. 'Forewarned is forearmed, Felix. I knew it already.'
(Ian Fleming: The Man with the Golden Gun)

この Forewarned is forearmed. （「事前の警告は事前の警戒」）を見て、状況によっては「備えあれば憂いなし」、あるいは「転ばぬ先の杖」として使えるように思った。

この表現は以前どこかで目にしたことがあるように思って電子辞書で調べると、ボンドが考えたものではなく決まった言い回しだとわかった。

ついでに和英辞典で「転ばぬ先の杖」を調べると、次のような表現が書かれていた。

- Look before you leap.
- Prevention is better than cure.
- An ounce of prevention is worth a pound of cure.
- A stitch in time saves nine.
- better (to be) safe than sorry

といっても、こうした表現イコール「転ばぬ先の杖」と短絡的にとらえないほうが良かろう。ことわざも単語と同様、日本語と１対１で覚えると足をすくわれることがある。文脈によって、他言語のことわざと結びつけられる場合もあれば、そぐわない場合もある、くらいに考えておいたほうがいいと思う。

イアン・フレミングが書いた007の原作について余談だが、個人的な感想では、最終作から３つ目の「女王陛下の007」 On Her Majesty's Secret Service がシリーズでもっともよくできており、続く「007は二度死ぬ」 You Only Live Twice で急に内容が落ち、死後 posthumous(ly) の出版となった最後の「黄金銃～」は失敗作、という印象だった。

この３作が書かれたのは、ちょうど007が映画になりシリーズ化された頃、さらにフレミングの持病である心臓病が悪化した時期に重なる。映画がヒットしシリーズ化されたことから、新作の執筆時には将来の映画化が否応なく頭にあっただろう。それが筆に影響を及ぼしたのか。あるいは健康状態の悪化が大きかったのか。

フレミングは56歳で死去しているので、健康だったらまだまだ新作を書いていたはずだ。もしそうだったら、原作や映画はどんなシリーズになっていたのだろうか。

参考記事：
・安倍総理と「魔法の杖（つえ）」 (magic wand)
・「住めば都」は There's no place like home. か

タグ：ジェームズ・ボンド 洋書