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「シャラップ」大使への失笑は英語が原因? [ニュースと英語]

日本の国連人権人道大使が公の場で「シャラップ!」とキレたとの報道には驚いた。自分の発言が失笑を買ったと考えたようだが、週末に新聞を読んでいたら、笑いが起きた理由は別のところにあるのではないかとする記事が目にとまった。

騒ぎをふりかえると、先月下旬、国連の委員会が日本の司法制度を取り上げた際、モーリシャスの委員が「日本は自白に頼りすぎて中世のようだ」と批判した。これに対する上田秀明大使の発言が Youtube にアップされている。



上田大使の英語は非ネイティブの発音で、書き取るのはたやすい。

- Certainly, Japan is not in the middle age.
We are one of the most advanced country in this field. (途中で笑い)
Don't laugh! Why you are laughing?
Shut up! Shut up!
We are one of the most advanced country in this field.
That is our proud, of course.
There are still shortages, of course shortcomings, every country has shortages and shortcomings, but we are trying our best to improve our situation.
(以下略)

今回の騒ぎでは、大使が「日本はこの分野で最も進んだ国のひとつだ」と反論したことに対して「笑止千万」と笑いが起きたのが発端であり、大使が取った言動はどうあれ、日本の制度を国際社会がどう見ているかに関わる問題であると思っていた。

ところが、この週末読んだ新聞記事には、次のようなくだりがあった。

- 大使が、英語で複数形の「ミドル・エイジズ(中世)」とすべきところ、単数形で「ミドル・エイジ(中年)」と発音したために、「日本は中年でない」と言ったと受け取って笑った人もいたとみられる。
(読売新聞 6月15日朝刊
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130614-OYT1T01097.htm )

なるほど、「中世ではないと反論した」と新聞・テレビで伝えられていたので思い込みがあったが、確かに middle age は「中年」である。「中世」なら the Middle Ages だ。日本の学校英語を学んだ私が反射的に出てくるのはむしろ medieval で、これを使った the Medieval Period が辞書に載っている。

そうか、笑いが起きたのは大使の反論内容ではなく、英語の間違いに対するものかもしれないのか(「読売」の記事は「単数形で発音したため」と配慮?した書き方をしているが、早い話が間違いということだろう)。ちょっと気が抜けたように感じた。

そう納得しかけたが、すぐに疑問も湧いた。モーリシャスの委員が「中世」をどう表現したかは画像にもなく不明だが、その場にいたら前後関係で大使が何を言いたいのかはわかりそうなものではないか。またこの誤りでそんなに笑いが起きるものだろうか。もしそうする人がいたらあまりマナーがいいとはいえまい。

ここで笑いが許されるとしたら、それは「大使がジョークを言った」と受け取った場合ではないだろうか。middle ages から s を取ると英語的・文脈的にジョークになるのかどうかはわからないが、仮にそうならば合点がいく。まじめそうな日本の大使が意外にも冗談を言ったので遠慮なく笑ったら「笑うな!」と怒号を浴びせられたのだとしたら、その人たちはさぞや驚いたことだろう。

そんなことも考えたが、やはり腑に落ちない。再度 Youtube を見返すと、"middle age" と大使が言ってから笑いが起きるまでやや間がある。ジョークだったらもっと早く笑いが起きてもいいのでは、という気もする。

疑問解消のために思いついたのは、英語圏のメディアがこれをどうとらえているか書いてはいないだろうか、それが参考になるのではないか、ということだった。

そこでネットでしばし調べたところ、そうした記事は見あたらなかったが、記事につけられたコメントで「これは」と思ったものが2つあった。別人が書いたものだが、どちらも同じような内容である。

個人のコメントなので直接の引用は避けるが、英語のネイティブとみられる2人が揃って指摘しているのは、"Japan is not in the middle age." の次の文の冒頭 "We are..." のあとに一瞬ポーズがあることだった。

このため、直前に言ったことが否定されて「日本は中年(中世)ではないが、われわれはそうだ」 "Japan is not in the middle age. We are (in the middle age)." とおかしなことをいっているように聞こえ、それが笑いを誘ったのだ、という。なるほど、と思った。

原文に興味がある方は下記のそれぞれの記事のコメントを探していただきたい。
http://www.japantimes.co.jp/news/2013/06/13/national/japanese-u-n-diplomats-shouts-of-shut-up-to-fellow-delegates-go-viral-inflame/#.Ub0gFJz5D1w

http://www.dailymail.co.uk/news/article-2341239/Japanese-UN-diplomat-faces-calls-quit-screaming-Shut-delegates-laughed-hearing.html#ixzz2WLboYdvY

しかし、結局のところ真相はやはりわからないままだ。笑いを漏らした人たちに何がおかしかったか尋ねるしかない。そうした人の中に非ネイティブもいたとしたら、みな先のネイティブの説明と同じような受け取り方ができる英語力を持っていたのだろうか。

また、笑ったのはいったいどういう立場の人たちだったのか。「読売新聞」の記事には、「日本のNGOメンバーらが座る傍聴席などで苦笑が広がり」とある。だとしたら、やはり英語よりも発言内容に対する笑いと考える方が自然なようにも感じる。

とはいえ、マスメディアの記事から一般のブログに至るまで、私が見た範囲では「誰が、なぜ笑ったのか」について詳しく書いたものは見当たらず、もやもやが晴れないままである。「読売」も、笑った人たちに直接取材はしていないようだ。「日本のNGOメンバー」もいたのなら、取材もしやすいように思えるのだが。

今回の騒ぎについては、この他にもいくつか考えたことがあるが、すでに長くなったので、簡潔に列挙して締めることにする。

・上田大使の言動は、やはり国際舞台で適切なものだったとはいえまい。意に染まないことを言われたのなら、伝統的日本人らしく真面目であっても、あるいはアメリカ人風にユーモアを交えてでも、スタイルはともかく冷静に反論することが大切なはずだ。笑いが起きた真の理由が何であれ、これに対して感情的な言葉を(しかも人道人権大使)が吐く、というのはどう考えてもプラスにはならないだろう。かえって「痛いところを突かれたので開き直った」という印象を与えはしまいか。

・外交官は必ずしも全員が英語の達人というわけではないことは、私自身も海外出張などで目にしたが、それにしては上田大使はちょっと情けない。それは発音が日本人的だから、ということではない。先の middle age 以外に、country を複数形にしていない(それも2か所)、Why you are ...? という語順、proud という品詞の間違い、といった中学生でもわかるミスがある。これでは、英語がそれほど得意でない日本人がたまたま使ったレベルとあまり変わりがないのではないか。Don't laugh! や Why are you laughing? という言い方もあまりしないのではないかという気がする(が、こちらは自信はない)。

・その大使の英語のまずさについて、「日本の英語教育の産物だからだ」とするブログ等の記事をいくつか目にした。しかし昨今のコミュニケーション重視の英語教育で、今回問題になった middle age と middle ages の違い、というような注意点がしっかり教えられているのだろうか、むしろ、これまで以上になおざりにされるのではないか、と気になる。「コミュニケーション重視」が、「細かい文法の規則や語法はいい、とにかく通じればいい」という傾向に拍車をかけるとしたら、むしろ逆効果ではないだろうか。

ともあれ、上田大使が(日本人的な発音であっても)しっかりした英語で的確な反論をした末にキレたのだったなら、日本人の英語学習という観点に限ればまだ救いがあったのだが、と思いたくなってしまったのもまた確かだ。

参考記事:
・トヨタの社長の英語
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2010-02-18

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コメント 1

kmetko改めP&G

やはりyoutubeで現場をみききできるのですね。

こういってはなんですが、同国人として
「恥」 という気持ちが抑えられないです。
人間性が 「疑われる」 気持ちに「余裕のない」
「外交官」 であるように思えます。
都知事のIさんと同類といっては失礼でしょうか。
by kmetko改めP&G (2013-06-18 08:50) 

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