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ケネディ新駐日大使が引用した「日本の格言」? [ニュースと英語]

アメリカの次期駐日大使に指名されたキャロライン・ケネディ氏が、キング牧師の名演説 "I Have a Dream" の50周年を記念する催しで登壇し「日本の格言」を引用した、と報じられた。しかしどうにも心当たりのない言葉だった。



http://abcnews.go.com/US/video/caroline-kennedy-dream-legacy-water-flows-river-remains-20097415

英語学習者だったら知らぬ人がいないのではと思われるマーチン・ルーサー・キング牧師の演説、それが行われた「ワシントン大行進」の時の大統領は、公民権運動に尽力したケネディだった。そこで娘である次期大使が招かれたのだろう。

ある新聞は、今回のスピーチについて次のように伝えている。

- ケネディ氏は(中略)「われわれの兄弟や姉妹が人種差別による犯罪と銃の犠牲者となっている」と指摘。その上で、「日本の格言に“水は流れても川は残る”という言葉がある。今度はわれわれが、人種差別をなくすという親の世代の夢をひきつぐ番だ」と、切れ目ない努力を訴えた。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130829/amr13082909070003-n1.htm

短い演説でもあり、ぜひ原語の映像をご覧いただきたいが、文字情報として、この話を直接取り上げていた数少ない(唯一の?)アメリカのメディアである「ワシントン・ポスト」紙を引用する。

- “Fifty years ago our parents and grandparents marched for jobs and freedom,” she said. “We have suffered and sat by too much to let their dream become a memory. The children in our failing schools are all of our children. The victims of hate crimes and gun violence are our brothers and sisters. In the words of an old Japanese proverb, the water flows on, but the river remains.

“Now it’s our turn to live up to our parents’ dream to draw renewed strength from what happened here 50 years ago and work together for a better world,” she concluded.
http://www.washingtonpost.com/blogs/post-politics/wp/2013/08/28/at-march-caroline-kennedy-nominated-as-envoy-to-japan-quotes-japanese-proverb/

しかし、この "The water flows on, but the river remains." に当てはまりそうな格言は何だろうか。

以前、007の原作小説に出てきた英語の「俳句」は、元になったとみられる芭蕉の作品とはずいぶんとかけ離れていることについて書いたことがある。今回の「格言」も、もしかしたら元は似ても似つかない言葉かもしれないと意地悪く考えたりした。

しばらくして「方丈記」の冒頭「ゆく河の流れは絶えずして・・・」が頭に浮かんだ。しかしケネディ氏の言葉は、「・・・しかももとの水にあらず」とは、むしろ逆に聞こえる。

「ワシントン・ポスト」はこの「格言」の authenticity を疑っていないようだし、上記の日本の新聞記事も、「日本の格言を引用」という見出しにして、ケネディ氏を立てて(?)いる。

一方、同じ日本のマスコミでも、次に引用する共同通信の英文記事は、正直というべきか、やや慎重な伝え方をしており、かえって何だかおかしかった。この記者も「方丈記」を連想している。

- Kennedy cited what appeared to be a part of an old Japanese essay during an event Wednesday to mark the 50th anniversary of a historic speech by Martin Luther King Jr.

"In the words of an old Japanese proverb, the water flows on, but the river remains," she said after urging each generation in the audience to rededicate itself to "the unfinished work of building a free and just America."

Kennedy did not say what or whom she quoted. The starting part of the Hojoki essay written by Kamo no Chomei in the early 13th century: The flow of the river is ceaseless and its water is never the same.
http://mainichi.jp/english/english/features/news/20130829p2g00m0fe080000c.html

もう一点、ケネディ氏がこの「格言」を引用したのは、記事にあるように「切れ目ない努力を訴えた」とか rededicated itself to the unfinished work of...ということを表現したかったのだろう。

しかし、この前の部分から通して読む/聞くと、時が移り人も変わったが、いまも犯罪は続いているという流れは変わっていない、いぜんとして理想社会は遠い、と言いたいようにも取れてしまうように思える。

別の日本の新聞記事も、そのようにも取れる書き方をしていた。こちらも「方丈記」から取ったものとしている。

- ケネディ氏は、いまも人種間の憎悪による暴力や犯罪などが続いていることを指摘し、「日本の古い格言にあるように、水は流れ続けても、川は残っている」と述べた。鴨長明の随筆「方丈記」にある「ゆく河のながれは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」を引用したとみられる。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20130830-OYT1T00160.htm?from=navr

どう解釈すればいいのか、私の英語力と読解力の問題もあるだろうが、そんな点でも、どうもしっくりこない言葉であった。

参考記事:
・「タイム」の誤報? ジェームズ・ボンドと芭蕉(「007は二度死ぬ」)
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2012-10-31

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安岡孝一

金森徳次郎の名言「水は流れても川は流れない」ではないか、と思うのです。↑の「安岡孝一」から私の日記にリンクしておきますので、詳しくはそちらを御覧ください。
by 安岡孝一 (2013-08-31 17:39) 

tempus fugit

安岡様、リンク先を拝読させていただきました。このような言葉があるとは知らず、大変参考になりました。マスコミも気づいていないのではないでしょうか。

ケネディ(のスタッフ)も、昨今の改憲に向けた動きを受けて、ジョン・ダワーの著書に目を留めた、ということかもしれませんね。興味深いコメントに感謝いたします。
by tempus fugit (2013-09-01 00:46) 

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