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red line 「一線(を超える)」と thin red line 「少数精鋭」 [英語文化のトリビア]

"red line"という表現がさかんに使われていたシリアの化学兵器問題は、週末に国連決議が採択され、とりあえず当面は緊張は解けた(defuse)。この表現から連想したのが、映画のタイトルにもなっている thin red line である。

red line は、オバマ大統領が使っていた文脈からも「超えてはならない一線」ということではないかと想像がつくが、なぜか手持ちの英和辞典にはこの意味は載っていなかった。

- Obama’s warning in August 2012 that use of a “whole bunch” of chemical weapons would cross a “red line,” triggering “enormous consequences,” went much further than aides had planned, several told the New York Times earlier this year. Some reportedly wished Obama could have taken those words back.
http://abcnews.go.com/blogs/politics/2013/08/obamas-off-the-cuff-red-line-creates-syria-dilemma/

consequences は「実力(軍事力)行使」を示唆する婉曲語である。

Wikipedia には red line の見出し項目があり、

- Red line is a phrase used in both English and Hebrew to mean a figurative point of no return or line in the sand, or "a limit past which safety can no longer be guaranteed."
http://en.wikipedia.org/wiki/Red_line_(phrase)

とわかりやすい英語で書いてある。line in the sand は「これ以上先へは行けないライン」を意味する。ついでの連想だが、今回のシリア関連のニュースでも目にした boots on the ground は、以前取り上げたことがあるが、「地上軍(の投入)」。

この項目には、続いて、

- The origin of the phrase in English traces to a red-coated Scottish regiment at the Battle of Balaclava in the Crimean War, at an action known as The Thin Red Line. A journalist described a "thin red streak tipped with a line of steel" with the appearance of the 93rd (Highland) Regiment and parts of the Turkish army as they stood before (and repelled) a vastly superior force of Russian cavalry.

とあった。つまり red line はもろに thin red line と関係があることになる。

そこで、この「シン・レッド・ライン」だが、

-(攻撃に屈しない)勇敢な少数者
(リーダーズ英和辞典)

- (the or a)(ある場所・主義を守り通す)少数の勇敢な人々
(ランダムハウス英和大辞典)

- a small but valiant line of defense standing between victory and defeat.
(Wordcraft Dictionary)

由来については、上記 Wikipedia のような具体的な説明がある一方で、日本語の「ウィキペディア」では、映画「シン・レッド・ライン」の項目に次のような記述があった。

- ちなみにThin Red Line とは1815年のワーテルローの戦いで、フランス近衛兵の突撃をモン・サン・ジャンの高地で撃退した、イギリス近衛兵の横隊防御を讃えた言葉である。イギリス兵の上着が赤いことから名づけられ、この戦いの勝利を記念して、イギリス近衛兵は、壊滅させたフランス近衛兵が被っていたベア・スキン・キャップ(熊毛帽)を着用するようになった。

あれ?英語版と日本語版では説明が違う。「クリミア戦争」なのか、「ワーテルローの戦い」なのか。両者の間には数十年もの開きがある。

さらにネットを調べると、クリミア戦争の the Battle of Balaclava について、日本語版「ウィキペディア」には「バラクラヴァの戦い」という項目があり、

- ロシア軍の攻撃によりトルコ軍が潰走し、バラクラヴァ港へ向かう道に残されたのはクライド男爵コリン・キャンベル麾下の第93歩兵連隊(93rd (Sutherland Highlanders) Regiment of Foot)550人と少数のトルコ歩兵(及)びイギリス海兵隊のみであった。しかし、第93連隊は2列横隊でロシア軍の騎兵による突撃を防いだ。当時の歩兵の制服の色から、これはシン・レッド・ライン(The Thin Red Line)として知られる。

と書かれていた。同じ日本語版「ウィキペディア」でも違う記述があるわけで、ますますどっちなんだろう、と思う。

続いて the Battle of Waterloo と thin red line で検索したら、こちらもいくつものヒットがあった。ただ、ワーテルロー会戦を指揮したイギリスのウェリントン公爵 Arthur Wellesley, 1st Duke of Wellington が "thin red line" の戦法を取った、というような記述はあるが、この表現の直接の由来であるとまで書いている説明は、読んだ限りでは見つからなかった。

なおウェリントン公爵といえば、"The battle of Waterloo was won on the playing fields of Eton." (「ワーテルローの戦いは、イートン校の校庭で勝利が決まった」)という、パブリックスクールの教育の大切さを説いた名言が有名だが、これは同じナポレオンのフランスと海で戦ったネルソン提督について以前書いた時に紹介していた。

イギリスと関係が深い表現だけに、より古い戦争にさかのぼって後世の人が使うようになった可能性もありそうだ。しかしいずれにせよ、真相はよくわからなかった。

関係が深いといえば、英語 Wikipedia の "The Thin Red Line (Battle of Balaclava)" という項には、

- The Thin Red Line has become an English figure of speech for any thinly spread military unit holding firm against attack. The phrase has also taken on the metaphorical meaning of the barrier which the relatively limited armed forces of a country present to potential attackers.

The term "the thin red line" later referred to the Argyll and Sutherland Highlanders and their job to defend the Empire and the United Kingdom after the incorporation of the Argylls and Sutherlands into a single regiment now known as the Argyll and Sutherland battalion of the Royal Regiment of Scotland.
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Thin_Red_Line_(Battle_of_Balaclava)

という記述があり、この Argyll and Sutherland Highlanders は「イギリス文化の常識」であるらしいことがうかがえるが、これ以上調べるのはさすがに骨なので、このへんでとりあえず打ち止めにしたい。

「シン・レッド・ライン」は、日本にも関係がある映画だが、未見である。公開された時に、カタカナだけのわけのわからない邦題に「これはないだろう」と考えたことを覚えている。まあ、それがきっかけでこの表現を調べたので、英語学習上はご利益があったわけだからよしとしようか。

参考記事:
boots on the ground
Horatio さまざま・その1~ネルソン提督
「シューテム・アップ」~カタカナの題名について
「ファインディング・ニモ」と洋画の邦題のこと
「やられ役」を英語で何という?(redshirt)


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