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「祝福」ではない blessing [注意したい単語・意外な意味]

映画のカタカナ題名を利用した単語・熟語の学習について先日触れたが、翻訳を読んでいて意味が通らないところがあったら原文を確かめて英語を学ぶという、ちょっと意地悪な手段もある。そんな例として blessing を取り上げたい。

タイトルを聞けば、誰でも知っているはずの有名な映画がある。この作品は、ある作家とのコラボレーションで小説と同時並行的に構想された(だから novelization と呼ぶのは正しくないだろう)。

いま手に入る小説版の翻訳は、初めて出版されて20年後に作者が書いた序文を新たに収めた新版だが、その序文には当時の様子がいろいろと書かれていておもしろい。

その中に、こんな一節がある。

- スタンリーが撮影中、わたしは最終的な最終稿を仕上げるのに精出したが、出版にこぎつけるには、もちろん彼の祝福がいる。これが大変な難事だということがそのうちわかってきた。

「スタンリー」とは映画監督の名前で、これでタイトルがわかってしまうかもしれない(この作品については以前何度か取り上げたことがある)。

それはともかく、「出版するにはもちろん祝福が必要」とは、一種のユーモアだろうか。しかし、このあと監督の「祝福」を得るための苦労が長々と説明され、ちょっと変だなという気持ちになってくる。

ここで辞書を引く手間を惜しまなければ、blessing には「承認」「賛同」とか approval, support という意味があることがわかり、疑問が氷解する。have the blessing of とか give someone's blessing to あるいは with or without someone's blessing といった言い回しも載っている。

実際には、私がこの翻訳を読んだ時はすでにこの語義は知っていたので、原文に blessing が使われているのだろうとすぐに想像した。後日、書店にこの序文を収めた新版のペーパーバックがあったので確かめたら、やはりそうだった。ついでに原文をメモし、何かの参考にと学習ノートに転記しておいた。

- the final version of the novel, which of course had to receive his blessing before it could be published

今回この単語を取り上げようと思ったのは、読み終わったばかりのノンフィクションで、同じ誤訳にお目にかかったからである。

日本のジャーナリストがアメリカについて書いたこの作品は、現地での取材と独自の研究をもとに高い見識を示した読み応えのあるものだったが、それはそれとして、イラク戦争についてアメリカの文化人がどのような見方を示したかを紹介した部分に、新聞のコラムを次のように翻訳したところがあった。

- 国連の祝福なしにイラクに侵攻したブッシュ大統領の決定自体には、なにも悪いことはない。

元のコラムについての情報も書かれていたので、それを頼りにネットを検索すると、原文を見つけることができた。やはり blessing だった。

- There was nothing wrong with President Bush's decision to invade Iraq without United Nations blessing.
http://www.nytimes.com/2003/08/03/opinion/america-and-the-un-together-again.html

余談だが、私が blessing のこの意味を知ったきっかけは、今でもよく覚えている。それは1989年の「ベルリンの壁崩壊」を記念して指揮者レナード・バーンスタインが演奏したベートーヴェンの交響曲第9番「合唱つき」だった。

私も当時テレビの生中継で見たこの演奏会では、歌詞に出てくる Freude 「歓喜」という言葉は、もとは Freiheit 「自由」だったという真偽不明の言い伝えに基づいて、そのように改変して歌われた(これについては以前取り上げたことがある)。

この演奏会についてバーンスタイン自身が書いた文章に、この blessing が出てくる。以前も取り上げたが、再度引用すると、

- But legend or not, I feel this is a heaven-sent moment to sing "Freiheit" wherever the score indicates the word "Freude." If ever there was a historic time to take an academic risk in the name of human joy, this is it, and I am sure we have Beethoven's blessing.

後に日本で出た演奏会のCDもこの文章をブックレットで紹介しているが、次のように訳されていた。

- その真偽はともかく、スコアに「よろこび」と記されている個所は、今こそ「自由」という言葉と置き換えて歌うべく、天から与えられた機会であるように思われてならない。人間の真のよろこびのためには学説の真偽を無視してよい歴史的な時点があるとすれば、今こそそのときなのだ。そしてベートーヴェンはわたしたちにそのことをよろこんで許し、祝福してくれると思わずにはいられない。

これを読んだ時、原文に忠実とはいえない個所もあるが、うまい訳だなと思った。take an academic risk は「あえて学問上の誤りを犯してもかまわない」といった意味だろうが、今回の行動の説明としては「学説の真偽を無視」と言い切るくらいのほうが、いかにもバーンスタインらしいと感じる。また、「祝福」の前に「よろこんで許し」を付け加えているのも、なるほどと思った。

しかし、ふと blessing には「許し」という意味もあるのかもしれない、と思って辞書を引いて見つけたのが「承認」だった。もしかしたら「よろこんで許し」を補ったのではなく、訳者は「承認」と「祝福」のどちらに取ったらいいのか迷い、結局両方を入れることにしたのではないか、と一転して意地悪な考えも頭に浮かんだ。

このように、blessing は私にとっていろいろ思い出のある単語である。

参考記事:
invade は「侵略する」か?
blessing in disguise 「つらいと思っても最後にはプラスになること」 (「ファミリーヒストリー~オノ・ヨーコ&ショーン・レノン」)
not to be sneeze at と Bless you
Elysium と「自由の第9」のことなど
「借りた時間を生きる」とは? (live on borrowed time) 


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