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haiku は俳句か [日本の文化]

このところ英語の俳句に関連したことをいくつか書いてきたが、この連休、少し前に取り上げたアメリカの作家アイザック・アシモフの連作短編集「黒後家蜘蛛の会」を再読していたら、俳句について触れた一編があった。

黒後家蜘蛛の会3【新版】 (創元推理文庫)

黒後家蜘蛛の会3【新版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/08/10
  • メディア: 文庫

その短編「よくよく見れば」は、俳句がテーマの作品ではないが、登場人物たちの次のような会話が出てくる。

- 「そりゃあたしかに、英語では俳句を作ることはできる。でも、それは音節の数を合わせるだけの問題だよ。日本語のような含みのある表現はとうてい望めない」
「偏見もはなはだしいぞ。慣れの問題なんだ。アメリカの小学生に英語で俳句を教えてみろって、日本の子どもが日本語の俳句を理解するのと同じで、彼らはちゃんと英語の俳句を理解するようになるんだ」
「きみは、日本語の音節が英語にくらべてずっと規則的な響きを持っている事実をあまり考えていないね」
(アイザック・アシモフ「黒後家蜘蛛の会3」)

アシモフはこの連作短篇集のあちこちで該博な雑学的知識を披露しているが、「日本語のような含みのある表現はとうてい望めない」といったくだりには、うんうんとうなずきたくなる(といっても、作者本人が日本語を使いこなせるわけではないのだろうが。それにしてはこのくだり、原文ではどうなっているのか、読んでみたいなあ。残念ながら原書は絶版である)。

そして、ここにあるように英語圏でも俳句は広く知られているにせよ、英語の"haiku"は、たとえ「五・七・五」に従っていたとしても、やはり「俳句」とは別のものだ、と感じてしまう。

「含み」が表現できるのか、という以前に、たとえば haiku には俳句の特徴である季語が見当たらないことがままある。先日、英語の俳句をDVDに収めて火星探査機に搭載するプロジェクトを紹介したが、そのウェブサイトに載っていた入選作を見ても、はっきりとした季語を見つけることは困難だ。

そもそも、何にどの季節を感じるかという結びつきが万国共通でないことは容易に想像できるし、季節感が生活の中でどれほどの重みを持つかも文化によって違うだろう。

また、自分の学習ノートに次のようなメモがあった。以前読んだ、ブッシュ政権のイラク戦争について書かれたボブ・ウッドワードのノンフィクション State of Denial に、多忙なので日記代わりに英語俳句を書き留める情報将校が出てくるのだが、その作品が何度か紹介される。

State of Denial: Bush at War, Part III

State of Denial: Bush at War, Part III

  • 作者: Bob Woodward
  • 出版社/メーカー: Simon & Schuster
  • 発売日: 2007/09/03
  • メディア: ペーパーバック

- Pressed for time on many occasions, he summarized his thoughts and emotions with three-line haiku.

- Day after day, WMD scares provided inspiration for the haiku Rotkoff wrote in his diary;

Anthrax + smallpox
Gas masks, J-Lists at all times (J-List:ガスマスクつきジャンプスーツ)
Scary being here

- Rotkoff wrote a haiku;

Saddam Fadhayeen  (Saddam Fadhayeen:フセイン大統領の親衛隊)
Where the hell did they come from?
Everyone missed it

- Colonel Rotkoff summed up the situation;

Where is WMD?
What a kick if he has none
Sorry about that

- Just before he left the Middle East, he summarized his thoughts on the war, the fear, the stunning military victory, the failure to find any weapons of mass destruction, and the chaotic aftermath--in one of the final haiku in his journal.

We knew how to fight
Not so; building a NATION
We may lose the PEACE

(以上 State of Denial by Bob Woodward)

こういった作品を見ていると、英語の haiku は、むしろ「川柳」と言うべきものだという気がしてくる。

続いて Wikipedia を見たら、"Haiku" と "Haiku in English" という2つの項が立てられていた。やはり別物と認識されているということか。

前者は日本の俳句の説明だが、後者を見ると、

- A Haiku in English is a short poem which uses imagistic language to convey the essence of an experience of nature or the season intuitively linked to the human condition. It is a development of the Japanese haiku poetic form in the English language. (中略)

English haiku do not adhere to the strict syllable count found in Japanese haiku and the typical length of haiku appearing in the main English-language journals is 10-14 syllables.
http://en.wikipedia.org/wiki/Haiku_in_English

とあるので、「五・七・五」に必ずしも従わなくてもいいらしい。それにしては "the essence of an experience of nature or the season intuitively linked to the human condition" とは必ずしもいえない作品もあるようだが。

さらにネットを見たら、「ジャパンタイムズ」紙が設けている英語学習サイト "The Japan Times ST" に「英語俳句の作り方」というページがあった。
http://st.japantimes.co.jp/special/eigo_haiku.htm

ジャパンタイムズが行っている「高校英語俳句選手権」に応募する上で、表現上注意すべき点、または工夫してほしい点について紹介したものということで、次のような9か条があげられている。カッコ内は私のつぶやきや補足説明である。

- 1.文頭であっても大文字は用いず、文末にピリオドを打たない
2.3行で書くこと
3.3行それぞれの音節は2-3-2くらいをめどにすること
(なんと!そうだったのか)
4.一句の中に切れ字を入れること
(英語俳句では行末に ―(ダッシュ)や : (コロン)を置いて感動の余韻を表します、という説明がある)
5.できるだけ "I" を使わない
6.be 動詞、冠詞、前置詞は省略してよい
(新聞の見出しに似ているな。しかし前置詞まで省いても大丈夫なのか)
7.時制は現在形を用いる
8.正確な文法に必ずしもこだわらなくてよい
9.季節感を盛り込む
(それにしては無視されているようだが)

これは自社のイベントについての説明だから、必ずしも英語俳句の一般的定義というわけではない。しかし日本の俳句と違うということがますますはっきりする。Wikipedia のいう "10-14 syllables" よりもさらに少ない「2-3-2」でもいいということは、とにかく長いと「それらしい響きがしない」ということだろうか。

なお、先の「黒後家蜘蛛の会」で登場人物たちは、「俳句」を英語の「リメリック」 limerick(五行戯詩)との関連で話題にしている。この「リメリック」は、英語圏の小説などを読んでいると時おり出てくることがある。

また私が子どもの時に人気があったアメリカのテレビドラマ「刑事コロンボ」でも、一見風采のあがらない主人公の Lieutenant Columbo はリメリックをたしなむ、という設定だった(もっともこの趣味はシリーズ後半になって登場したような記憶があり、得意分野がどんどん付け加えられていったコロンボは初期のイメージとはかけ離れてしまい、私は好きではなかった)。

この「リメリック」、私は詳しくないが、ユーモラスな内容でオチがあり、韻を踏むなどの決まりがあるという。型があるという点では haiku も limerick の一種の同類のように認識され、もっぱら言葉遊びとして受け止められているのかもしれない。と書くと、真剣に英語俳句に取り組んでいる人から抗議が来そうなので、素人はこのへんで退散することにしたい。

(参考記事)
・英文混じりの翻訳から英語を学ぶ (アシモフ「黒後家蜘蛛の会」)
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-10-07
・火星に運ばれる英語の俳句
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-10-26
・ボブ・ウッドワードの新著 State of Denial
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2006-10-26

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にゃんきち

はじめまして。

いつもとおりすがっては、記事を楽しく読んでおりますです。
ささやかなお礼に、というかたまたま手元に本があるので、
原文どうぞ。(大文字箇所は、原書では斜字体です)

For heaven's sake, you can write HAIKUS in English; it's just a matter of counting syllables; but it doesn't have the same EFFECT as in Japanese.

Subjective nonsense. It's what you're used to. Teach American children HAIKU in grade school and they'll appreciate it in Emglish as Japanese children learn to appreciate it in Japanese.

You underestimate the difference involved in the fact that syllables in Japanese are more regular in sound than those in English.

出典はThe Casebook of the Black Widowers P.156-157
Panther Granada Publishingです。

ちなみにこの直後に「anarchy」とあって、なんじゃらほいと思ったら、「無原則」の原語でした。

黒後家は全巻持ってますので、いつでも原文ご紹介しますよ。

アシモフは、リメリック本いっぱい出してるようで、
シャーロッキアン・リメリックもあるみたいです。
http://www.goodreads.com/book/show/1176234.Sherlockian_Limericks
面白そうですね~。

by にゃんきち (2013-11-18 23:20) 

tempus fugit

にゃんきちさん、本当にありがとうございます。「含み」は原文ではeffectなのですね。うまい訳だと思いました。アシモフ自身、リメリックが好きだったということも知りませんでした。

「黒後家」全巻お持ちとのこと、うらやましいですね。アシモフほどの作家の作品が絶版になるとは以前は思ってもいなかっただけに、最近の再読で原書が軒並み手に入らなくなったことを知り、ちょっと衝撃を受けています。

「黒後家」はミステリの大傑作とはいえないでしょうが、ひとときの読書の楽しみを味わわせてくれる、珠玉の作品だと思います。少しづつ翻訳を再読していますので、またここで取り上げた時は原文を教えていただければうれしいです。よろしくお願いいたします。

by tempus fugit (2013-11-22 00:33) 

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