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ピカード艦長の「クリスマス・キャロル」~ before you can say Jack Robinson 「あっという間に」 [固有名詞にちなむ表現]

落語版「クリスマス・キャロル」を前回紹介した際、この作品の映画版を以前観たことがあると書いたが、そのDVDを引っ張りだして久しぶりに観た。TVドラマ「スター・トレック」で宇宙船の指揮官を演じた舞台俳優パトリック・スチュワート Patrick Stewart が主人公スクルージを演じている。




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Star Trek には英語学習で大変お世話になってきたとあって(この連作ドラマのおかげで英語に興味を持ったと言ってもいいほどだ)、これまで何度も取り上げているが、スチュワート演じる「ピカード艦長」が活躍する新シリーズが始まった当初は、正直違和感を抱いたものだった。

イギリス人、そしてスキンヘッド(と書いてみたが、早い話が禿頭のおじさん)のためか、アメリカのSFドラマの主人公には何ともそぐわないと思ったからだ。

しかし現実の国際社会や異文化間コミュニケーションにも通じるテーマを扱った名エピソードが続き、シェイクスピア劇団出身のスチュワートの演技力、そして美しいイギリス英語にも引きこまれて、「アメリカン・ウェイ」の押し売りが鼻につくこともあった旧シリーズよりも好きになってしまった。

これも前に触れたことがあるが、スチュワートは「クリスマス・キャロル」の独り舞台をレパートリーのひとつにしている。そしてテレビ映画版を今回あらためて観て、その演技とイギリス英語を久しぶりに楽しんだ。

ストーリーもディケンズの原作に忠実で余計な脚色もなく、安心して見ていられる。冒頭には前回取り上げた as dead as a doornail もちゃんと出てくるが、今回は、この映画版から before you can [could] say Jack Robinson という表現を取り上げよう。

スクルージではなく、フェジウィッグという登場人物が店の奉公人たちに向かって「きょうはイブだから、とっとと店じまいするぞ」と呼びかけるセリフの中に出てきた。"Doors closed, shutters up, before you can say Jack Robinson!" と言っている。

ネットで調べたら原作の「クリスマス・キャロル」にも(多少言い方は違うが)ちゃんとこの表現が出ていた。

- "Yo ho, my boys!" said Fezziwig. "No more work to-night. Christmas Eve, Dick. Christmas, Ebenezer. Let's have the shutters up," cried old Fezziwig, with a sharp clap of his hands, "before a man can say Jack Robinson."
(Charles Dickens: A Christmas Carol)

この表現は、その昔「英語イディオム集」のような本で知ったが、「素早く」「あっという間に」という意味にしてはちょっと長めの姓を使った表現なのが面白く、すぐに覚えた。とはいえ実際に使った人を聞いたことはなく、どれくらい普通の表現なのかについてはよくわからない。

McGraw-Hill Dictionary of American Idioms and Phrasal Verbs はこの表現について、次のように「児童書によく見られる」という注と、ちょっと変形した用例を載せていた。

- Fig. almost immediately. (Often found in children's stories.)
And before you could say Jack Robinson, the bird flew away.
I'll catch a plane and be there quicker than you can say Jack Robinson.

しかし、なぜ Jack Robinson なのか。

- あっという間に、急に(Jack Robinson の代わりに Metro-Goldwyn-Mayer(米国の映画会社名)、knife, weather, scat なども用いる;句源は定かでないが、一説にはロンドン塔の看守長 Sir John Robinson に由来する;斬首刑で首と胴が一瞬のうちに離れることから)
(ジーニアス英和大辞典)

MGM まで使われることがあるというのは面白いが、肝心の由来については The Word Finder というサイトも、冒頭から白旗をあげている。

- It would be pleasing to be able to point to a historical figure called Robinson who was the source of this expression. Regrettably, we can't. It could well be that there was an actual Jack Robinson who was reputed to be quick in some way, but, if that's the case, any reliable record of him has disappeared.
http://phrases.org.uk/meanings/jack-robinson.html

そして、18世紀の終盤に見られる最初の使用例をあげたあと、「ロンドン塔の看守長と囚人の処刑」説に触れ、次のような懐疑的な見方を示している。

- Sir John Robinson was the Constable of the Tower of London for several years from 1660 onward. Some have suggested that he was the source of the phrase and have bequeathed him a reputation for hastily chopping off people's heads. There's no evidence to link the phrase with Sir John, or that he was in any way unusually quick in dispatching the Tower's inmates. That suggested derivation also fails to account for the hundred year gap between Sir John Robinson's career and the first appearance of the phrase in print.
(注:dispatch 処刑する
参考:「送る」ではない dispatch
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2008-02-06 )

さらに別の説もあげているが、これについても詳細不明としている。結局、由来はよくわからないままのようである。

なお手持ちの電子辞書では、この表現を Jack や before にぶら下げているものがあった。前者はいいとしても、Robinson にあるに違いないと思って探してみた私のような学習者はちょっとまごついてしまう。

(クリスマス関連の過去の記事)
落語調で訳した「クリスマス・キャロル」 (dead as a doornail)
「サンタは今どこにいる?」 (Track Santa)
"The Night Before Christmas" (「クリスマスのまえのばん」)
crooner と「ホワイト・クリスマス」
giddyup (続・ルロイ・アンダーソンの「そりすべり」)
クリスマスの名文 Yes, Virginia, there is a Santa Claus. 

(参考記事)
「情熱的」ではない passionate 
「送る」ではない dispatch

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