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「冬将軍」 Jack Frost と「フロスト警部」シリーズのこと [読書と英語]

前回はディケンズの「クリスマス・キャロル」から Jack Robinson という言葉の入ったイディオムを紹介したが、連想で Jack Frost 「霜」「厳しい寒さ」という言葉と、これを知るきっかけになった海外ミステリ「フロスト警部」について少し書くことにしよう。

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)

  • 作者: R.D ウィングフィールド
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1994/09
  • メディア: 文庫

もう二十年近くも前のことになるが、「クリスマスのフロスト」という翻訳ミステリが話題になっているのを知り、読んでみた。主人公はオヤジ丸出しの下品な中年刑事で、一見めちゃくちゃな見立てに基づいて捜査を進める。天才型の名探偵や人生経験豊かな渋い名刑事とは違い何ともユニークなキャラクターだが、軽い内容ではなく取り組むのはまともな難事件。評判通り大変面白く読めた。

翻訳の文庫本は、そのフロスト警部を描いたコミカルなイラストが表紙で、主人公の雰囲気とよくマッチしている。

それからどれくらい後のことだったか、書店の洋書コーナーで「フロスト警部もの」の作品(確か A Touch of Frost)を見つけた。翻訳は当時まだシリーズ第一作しか出ていなかったが、原書はすでに何作か出ていた。しかしペーパーバックの表紙は翻訳とは似ても似つかない、冬の風景を描いた寒々しいものだった。

次の瞬間、はっと気づいた。主人公の名前を「霜」や寒さにかけたタイトルにしてあるのだ。「クリスマスのフロスト」も読んだときは思いつかなかったが、やはりそうなのだろう。

家に帰ったあと、思い立って辞書で frost を引き、関連する表現を読んでいたら、Jack Frost が目にとまり、再度はっとなった。主人公の警部の名前が、まさに「ジャック・フロスト」だったからだ。

-(擬人化して)霜(Jack Frost が夜来て窓に霜を置いて行くと子供は教えられる);厳冬
Jack Frost nipping at your nose and ears 鼻と耳をじんじん凍らす冬将軍
(ジーニアス英和大辞典)

- FROST, considered as a person
Jack Frost was threatening to kill the new plants.
(OALD)

また、

- a way of describing FROST as a person - used especially when talking to children
(LDOCE)

のほか、Cambridge Advanced Learner's Dictionary も old-fashioned child's word という注をつけているので、もっぱら子供向けの語彙のようだ。

さらに、

- frost or cold weather personified as a mischievous person.
(Wordnik)

- Jack Frost is the personification of frost and cold weather, a variant of Old Man Winter held responsible for frosty weather, for nipping the nose and toes in such weather, coloring the foliage in autumn, and leaving fernlike patterns on cold windows in winter.

Starting in late 19th century literature, more filled-out characterizations of Jack Frost have made him into a sprite-like character. He sometimes appears as a sinister mischief maker.
(注:filled-out 肉付けされた、手を加えて完全にした)
http://en.wikipedia.org/wiki/Jack_Frost

といった説明も見つかり、mischief, mischievous というイメージがあるらしいということがわかる。ジャック・フロスト警部のキャラにまさにぴったりではないか。

英語圏の人は、主人公の名前とタイトル(そして表紙)を見ただけでニヤリとし、実際に読み進めてフロスト警部の性格と言動を知るにつれてますますニヤニヤする、という仕掛けになっているのではないだろうか。このへんは翻訳を読んだだけでわからず、私が読んだ作品にもこうしたことについての解説などはなかったと思う。

あらためて調べると、「フロスト警部もの」の原題は以下のとおり。先に書いたように、どの巻も frost にひっかけたタイトルになっている。

"Frost at Christmas”  (邦題「クリスマスのフロスト」)
"A Touch of Frost”  (「フロスト日和})
"Night Frost”  (「夜のフロスト」)
"Hard Frost”  (「フロスト気質」)
"Winter Frost”  (「冬のフロスト」)
"A Killing Frost”  (未訳)

ネットを見ると、今手に入る原書は私が見た時のものとは違っているが、相変わらずどれも寒々しい表紙だ。もう少し軽い雰囲気にしてもいいのではないかと思うのは日本人的な感覚、あるいは翻訳の装丁の影響というべきか。

私は翻訳で最初の2,3冊を読んだが、どれも面白かった。しかしその後はミステリ自体あまり買わなくなってしまったので途絶えたままである。面白いとはいえ、英語で読むのはしんどそうなので手は出していない。

そして数年前に、作者R.D.ウィングフィールドの訃報が伝えられた。もうそんなに高齢になっていたのかとちょっと驚いた。最後から2つ目の「冬のフロスト」の翻訳は今年出版され、やはり話題になったようだ。最後の1作もいずれ翻訳されるだろう。そのうちに、またフロスト警部に再会してみようか。


Frost At Christmas: (DI Jack Frost Book 1)

Frost At Christmas: (DI Jack Frost Book 1)

  • 出版社/メーカー: Transworld Digital
  • 発売日: 2010/09/30
  • メディア: Kindle版


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nana

参考になりました
by nana (2014-01-10 13:58) 

tempus fugit

nanaさん、参考になりましたら幸いです。ありがとうございました。

by tempus fugit (2014-01-12 13:27) 

Tom

勉強になりました。
by Tom (2020-05-07 10:27) 

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