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past master 「達人、名人、匠(たくみ)」 (ビートルズ「パスト・マスターズ」) [音楽と英語]

ポール・マッカートニーが来日したりBBCライブの第2弾が出たりと、今もビートルズは話題を提供しているが、近くアメリカ独自編集アルバム「ヘイ・ジュード」が復刻されることを知った。編集盤といえば「パスト・マスターズ」が頭に浮かぶので、past master という言葉を取り上げることにしよう。

パスト・マスターズ vol.1&2

パスト・マスターズ vol.1&2

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMIミュージックジャパン
  • 発売日: 2009/09/09
  • メディア: CD

ビートルズのLPはCD化にあたって、本国イギリスで出たアルバムばかりが「正規盤」として対象になり、私が十代初めの時に親しんだアメリカや日本での独自編集盤はお蔵入りとなった。

独自編集盤は、以前ここで触れたことある「ミート・ザ・ビートルズ」 Meet the Beatles など初期の作品を集めたものが多く、「正規盤」にも収められていて聴くことができる。

しかし Hey Jude はLPに収録されていなかった中期から後期のシングルを集めたもので、正規盤と同じような位置づけができるアルバムだったので、対象外となったのは残念だった。

正規盤に収録されていないシングルは、CDとして入手できるように新たな編集アルバムが作られた。それが2枚の「パスト・マスターズ」である。もう二十数年前のことになるが、このタイトルを初めて見た時、past masters って何だろう、という疑問が湧いた。

past 「過去の」はいいとして、master がついて「過去の偉い人」というのは、どうもよくわからない。ここでは音楽作品を指して「偉業」とでもいう意味に使っているのだろうか。「過去の偉業」を集めたアルバム、うん、そんな感じだろう。

この組み合わせで英語としてよく使われる表現なのかは疑わしかったが、辞書で確かめてみたら、意外にもちゃんと出ていた。「過去の偉業」という見立てとはちょっと違っていたが。

辞書を引用すると、

- 1(…の)名人、達人、大家(in, at, of ...)
a past master at chess チェスの名人
a past master in the art of prevarication 言い逃れの名人
2(組合・協会・支部などの)長の経験者、前会頭(会長、支部長)
(ランダムハウス英和大辞典)

- someone who has a great deal of skill and experience in a particular activity
She is a past master at persuading people to help her.
(Macmillan Dictionary)

past masters という言葉はビートルズにとって何か特別の意味があるのかもしれないが、それはよくわからない。いずれにせよ、この表現を知ったものの、実際の例にはなかなかお目にかかれなかった。それだけに少し前に読んだ本で見つけた時はおおっと思った。

これまで何回か取り上げたことがある007ものの原作小説 You Only Live Twice 「007は二度死ぬ」のはじめの方で、ジェームズ・ボンドと上司Mとの会話に出てきた。ボンドはここで日本の秘密情報機関が持つ暗号解読機を入手するというミッションを与えられるが、Mがこんなことを言う。

- "Well now, the Japanese are past masters at it. They've got the right mentality for finicky problems in letters and numbers. Since the war, under CIA guidance, they've built incredible cracking machines -- far ahead of IBM and so forth."
(Ian Fleming: You Only Live Twice)

finicky は「いやに気にする、気難しい」、また「(作業や仕事などが)細心の注意を要する」という訳語が辞書に載っている。「日本人は暗号が得意だ。文字や数学のからむ問題は緻密さがないと扱えないが、あいつらはそんな才能があるんだ」というような意味だろう。日本人についてこのように評価されると小説とはいえうれしいものだ。

ところで、別に「過去の巨匠」というわけではないのになぜ past なのかと疑問がわくが、先にあげた英和辞典の定義2にある「前会長」が先で、これが転じて「名人」として使うようになったらしいという下記のような説明があった。master の女性形 mistress も使うが、昔はともかく今は減っているという、PC (politically correct, political correctness) 主義者が腹を立てそうなことも書かれている。

- This expression probably alludes to the original literal meaning, that is, one who formerly held the post of master in a lodge or other organization. Although past mistress was used for an exceptionally skilled woman in the mid-1800s, it is heard less often today, master serving for both sexes.
[Mid-1800s]
(The American Heritage Dictionary of Idioms)

検索すると past mistress のヒットは確かに数は少なかった。また、ためしに past masters and mistresses で調べたら、さらに数は少ないもののまったくないわけではない。past masters (and mistresses) とカッコに入れた例もあって、PC論者の目を気にしてあわてて付け加えたのかと妄想してしまった。

なお、他の辞書で alteration of passed master という説明も見つけたが、この passed master も見出し語にしている辞書はあまり多くなかった。

さて、ビートルズの「パスト・マスターズ」2巻は、名曲揃いにもかかわらず何だか影が薄いように感じる。タイトルが(ネイティブがどう受け取っているのかは別として)何だかなじめないし、ジャケットのデザインも、正規盤の後に出たアルバムとしては、通称「赤盤・青盤」のベストアルバムのに比べてインパクトがなく、手抜きとも感じてしまう(それは Let It Be... Naked にもあてはまる)。

ザ・ビートルズ 1962年~1966年

ザ・ビートルズ 1962年~1966年

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルミュージック
  • 発売日: 2013/11/06
  • メディア: CD

どうせ2点の新編集盤を作るなら、「ヘイ・ジュード」と、やはり非正規盤だが人気のあった「オールディーズ」 A Collection Of Beatles Oldies という編集盤の拡大版、という形にすれば良かったのに、と思うが、そううまくはいかないものなのだろう。

Hey Jude

Hey Jude

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Capitol
  • 発売日: 2014/01/21
  • メディア: CD

(参考記事)
「会う」と訳したくない meet
「タイム」の誤報? ジェームズ・ボンドと芭蕉(「007は二度死ぬ」)
「刷り込み」には勝てなかった~ビートルズの"Let It Be... Naked"

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