「運命」ではない fate (マレーシア機行方不明) [注意したい単語・意外な意味]
行方不明のマレーシア機にからんで書いた前回の英文に fate が出てきたが、ふと気になってこの単語を辞書で見たら、「運命」やそれに類する訳語や例文ばかりが目につくように思ったので、これについて取り上げたい。
fate は英文のニュース記事ではよく目にする単語だが、手持ちの電子辞書を見ると、「運命」のほか、「宿命」「天の定め」「末路」「最終結果」「死」「破滅」、meet [go to] one's fate 「最期を遂げる、破滅する」、などなど、哲学的というか宗教的というべきか、重々しい言葉が並んでいる。
それでは、ニュースで目にする fate とはどのようなものだろうか。今回のニュースについて、見出しや本文の例を拾ってみよう。
- Race for Clues in Malaysia Airlines Jet's Fate
(Wall Street Journal)
- Fate Of Missing Malaysia Airlines Plane Still A Mystery
(NPR)
- More than 48 hours after Malaysia Airlines Flight MH370 vanished, the mysteries over its fate have only multiplied.
(New York Times)
他の例として、北朝鮮の拉致問題でもこの単語をよく目にする。
- Disagreements over issues like the fate of Japanese citizens abducted by North Korean agents decades ago had led Japan to cut off all trade and ties with the North.
(New York Times)
- He urged the government to take prompt action, including dispatching a mission to North Korea, to find out the fate of 10 missing Japanese that Pyongyang has said have either died or never entered the country.
(Japan Times)
こうした fate には、「運命」「宿命」「定め」などの訳語はそぐわない。「(マレーシア機や拉致被害者に)何が起きたのか、どうなったのか」を指しているのではないか、ということに気づく。
辞書にある訳語では「結果」「結末」「末路」になるだろうが、文脈によっては、「行方」「消息」「安否」「生死」などと訳したほうがいいのではないかと思う。
また手持ちの辞書を見る限り、ニュースでよく見る上記のような例文をあげているものが見当たらず、これまたちょっと不満である。
fate という単語が、別に人生論や運命論ばかりに使うわけではないことを知るためには、次のような英語圏の辞書にある説明が役に立つだろう。
- 3 a : final outcome
b : the expected result of normal development
prospective fate of embryonic cells
c : the circumstances that befall someone or something
did not know the fate of her former classmates
(Merriam-Webster's Online Dictionary)
このあとはまったくの余談だが、「運命」といえばベートーヴェンの交響曲第5番につけられたニックネームが有名だ。
クラシック音楽を本格的に聴き始めてまもなく、「この作品を『運命』と呼んでいるのは日本ぐらいのものだ」と何かの本で読んで、へえっと思ったが、その後、今度は「『運命』と呼んでいるのは日本だけ、と一部でまことしやかに言われているが、それは誤りだ」という文を読んだ。
ネットで検索すると、なるほど非日本人による英文でも、この作品に "Fate" というタイトルを冠して呼んでいる例が確かにいくつか見つかった。ただ数は限られており、日本での「運命」ほどではないと感じる。
私が実際に目にしたことがあるのも Beethoven's Fifth といった言い方ばかりだ。ついでだが高校生の時にヒットしたジョン・トラボルタ主演の映画「サタデイ・ナイト・フィーバー」 Saturday Night Fever には、「運命」のテーマを編曲した A Fifth of Beethoven という曲があった(邦題は「運命’76」)。不定冠詞がついている。
「運命」あるいは "Fate" は、あの有名な出だしの主題についてベートーヴェンが「運命はこのように扉を叩く」と言ったとされる(疑問も持たれている)逸話に由来するが、いずれにせよ彼自身がつけた正式な曲名ではなく、日本でもクラシックファンであれば、この呼び方を使う人は少数派だと思う。
さらに fate と音楽にまつわる余談だが、「宿命」で連想するのが、故・丹波哲郎が主演した映画「砂の器」の音楽である。
この映画に出てくる作曲家の作品のタイトルになっているが、実際に映画の中で流れ、クライマックスはこの曲の初演コンサートになっている。刑事ドラマの形をとって日本の社会問題を美しい風景を織り込みつつ取り上げたこの映画は、松本清張の原作をも超えて、涙なしに観ることはできない名作だ。音楽もその内容にぴったりと沿ったもので、すばらしい。
(拉致問題関連の参考記事)
・外国生まれの日本人は「帰国(return)」するのか
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2007-11-19
・relative は「親類」でいいのか?
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2007-11-18
fate は英文のニュース記事ではよく目にする単語だが、手持ちの電子辞書を見ると、「運命」のほか、「宿命」「天の定め」「末路」「最終結果」「死」「破滅」、meet [go to] one's fate 「最期を遂げる、破滅する」、などなど、哲学的というか宗教的というべきか、重々しい言葉が並んでいる。
それでは、ニュースで目にする fate とはどのようなものだろうか。今回のニュースについて、見出しや本文の例を拾ってみよう。
- Race for Clues in Malaysia Airlines Jet's Fate
(Wall Street Journal)
- Fate Of Missing Malaysia Airlines Plane Still A Mystery
(NPR)
- More than 48 hours after Malaysia Airlines Flight MH370 vanished, the mysteries over its fate have only multiplied.
(New York Times)
他の例として、北朝鮮の拉致問題でもこの単語をよく目にする。
- Disagreements over issues like the fate of Japanese citizens abducted by North Korean agents decades ago had led Japan to cut off all trade and ties with the North.
(New York Times)
- He urged the government to take prompt action, including dispatching a mission to North Korea, to find out the fate of 10 missing Japanese that Pyongyang has said have either died or never entered the country.
(Japan Times)
こうした fate には、「運命」「宿命」「定め」などの訳語はそぐわない。「(マレーシア機や拉致被害者に)何が起きたのか、どうなったのか」を指しているのではないか、ということに気づく。
辞書にある訳語では「結果」「結末」「末路」になるだろうが、文脈によっては、「行方」「消息」「安否」「生死」などと訳したほうがいいのではないかと思う。
また手持ちの辞書を見る限り、ニュースでよく見る上記のような例文をあげているものが見当たらず、これまたちょっと不満である。
fate という単語が、別に人生論や運命論ばかりに使うわけではないことを知るためには、次のような英語圏の辞書にある説明が役に立つだろう。
- 3 a : final outcome
b : the expected result of normal development
prospective fate of embryonic cells
c : the circumstances that befall someone or something
did not know the fate of her former classmates
(Merriam-Webster's Online Dictionary)
このあとはまったくの余談だが、「運命」といえばベートーヴェンの交響曲第5番につけられたニックネームが有名だ。
クラシック音楽を本格的に聴き始めてまもなく、「この作品を『運命』と呼んでいるのは日本ぐらいのものだ」と何かの本で読んで、へえっと思ったが、その後、今度は「『運命』と呼んでいるのは日本だけ、と一部でまことしやかに言われているが、それは誤りだ」という文を読んだ。
ネットで検索すると、なるほど非日本人による英文でも、この作品に "Fate" というタイトルを冠して呼んでいる例が確かにいくつか見つかった。ただ数は限られており、日本での「運命」ほどではないと感じる。
私が実際に目にしたことがあるのも Beethoven's Fifth といった言い方ばかりだ。ついでだが高校生の時にヒットしたジョン・トラボルタ主演の映画「サタデイ・ナイト・フィーバー」 Saturday Night Fever には、「運命」のテーマを編曲した A Fifth of Beethoven という曲があった(邦題は「運命’76」)。不定冠詞がついている。
「運命」あるいは "Fate" は、あの有名な出だしの主題についてベートーヴェンが「運命はこのように扉を叩く」と言ったとされる(疑問も持たれている)逸話に由来するが、いずれにせよ彼自身がつけた正式な曲名ではなく、日本でもクラシックファンであれば、この呼び方を使う人は少数派だと思う。
さらに fate と音楽にまつわる余談だが、「宿命」で連想するのが、故・丹波哲郎が主演した映画「砂の器」の音楽である。
この映画に出てくる作曲家の作品のタイトルになっているが、実際に映画の中で流れ、クライマックスはこの曲の初演コンサートになっている。刑事ドラマの形をとって日本の社会問題を美しい風景を織り込みつつ取り上げたこの映画は、松本清張の原作をも超えて、涙なしに観ることはできない名作だ。音楽もその内容にぴったりと沿ったもので、すばらしい。
(拉致問題関連の参考記事)
・外国生まれの日本人は「帰国(return)」するのか
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2007-11-19
・relative は「親類」でいいのか?
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2007-11-18
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