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salaryman 「(日本の)サラリーマン」 (「エコノミスト」誌の記事より) [英語になった日本語]

私が英語を学び始めた数十年前、「サラリーマン」あるいは "salaryman" は、「和製英語で誤りであり、office (または white-collar) worker と言え」と教わった。ところがいつの頃からか、英語の本家でも堂々と salaryman が使われている例を目にするようになった。

安部首相が進めようとしている、「憲法解釈の変更による集団的自衛権の容認」について、英誌 The Economist の最新号が leader (「社説、論説記事」という意味のイギリス英語)で取り上げているが、そこに実例があったので引用しておこう。

日本は戦争放棄をうたった憲法第九条でのおかげで戦後の繁栄を享受することができた、という見方を紹介するくだりに、「軍服を脱ぎ捨ててサラリーマンの背広を選んだ」という形で出てきた。ちなみに「エコノミスト」誌は、今回の安部総理の路線を「正しい方向性にある」と評価している。

- This pledge helped reassure neighbours that Japanese militarism would never stalk Asia again, and it allowed the United States to lay down the law in the Western Pacific. That security guarantee, in turn, let the Japanese race down the path to prosperity, having thrown off the army uniform in favour of the salaryman’s suit. For many Japanese, the constitution is not just a source of pride. It is a national treasure.
("Collective insecurity" The Economist May 17, 2014
ttp://www.economist.com/news/leaders/21602216-japans-prime-minister-right-start-moving-country-away-pacifism-collective )

英和辞典で salaryman を引くと、「(主に日本の)サラリーマン」という記述がちゃんとある。逆にいえば、「日本のサラリーマン」という限定つきであり、広く一般的に使われるわけではないというところはおさえておかねばならないだろう。

日本の辞書のひとりよがりではない証拠に、英語圏の辞書にも見出し語がある。

- (Especially in Japan) a white-collar worker.
The streets were filled with the hustle and bustle of late afternoon as the office workers and salarymen flooded from their buildings onto the streets.
(Oxford Dictionaries)

- A Japanese corporate businessman.
ETYMOLOGY: Anglicization of Japanese sarariman, salaried man : English salary + English man
(American Heritage Dictionary)

- a Japanese white-collar businessman
Origin of SALARYMAN Japanese sarari--man, from English salary + man
First Known Use: 1962
(Merriam-Webster's Online Dictionary)

- (in Japan) a white-collar businessman.
Origin: 1960--65; < Japanese < English salary + man
(Dictionary.com Unabridged based on the Random House Dictionary)

2つ目の定義にある anglicize は「英語化する」ということで、日本語のカタカナ語が逆に英語に入ったわけである。1960年代前半にまでさかのぼれるとあるので、和製英語扱いされていた私の学習時代どころか、私が生まれた頃には使われ始めていたということになるが、本当だろうか。

以前、日本のサラリーマンを描いた山口瞳の昭和30年代の小説と、そこに出てくる英語のカタカナ表記について書いたことがあるが(→「ウェオ・アイム・ステオ・イン・マイ・アアリイ・サーリース」 (dark L と clear L))、この頃の日本の高度成長が欧米に伝えられた際に、salaryman もカギカッコつきで使われたのかもしれないと想像した。

もっとも、私が使っている電子辞書の「日本国語大辞典」には、谷崎潤一郎の「痴人の愛」(1925年)に「サラリーマン」が使われている用例が載っているので、カタカナ語はかなり古くから使われていた、ということになる。

話がそれたが、英語圏のオンライン辞書では、「サラリーマン」に込められたイメージあるいは実情を反映させた定義も目にとまった。なかなかキツい見方もある。

- a Japanese businessman who works very long hours every day
(Cambridge Advanced Learner's Dictionary & Thesaurus)

- An employee, a worker; now especially a Japanese white-collar worker who works long hours and has an insignificant position within the corporate hierarchy.
(Wiktionary)

- an essentially useless, often inebriated Japanese man, characterized by gray suit, blank expression, an inability to think for himself.
(Urban Dictionary)

これらに比べて、ちょっとどうかなと思う説明もあった。

- in Japan, a man who is a white-collar office worker, esp. an executive in a business organization
(Webster's New World College Dictionary)

また Wikipedia には "Salaryman" の項におもしろい記述があるが、記事の冒頭に「内容の検証が必要」という編集部のただし書きがあるし、末尾には日本語の「ウィキペディア」にある情報によっている、という断り書きもある。だから「英語の Wikipedia にもこう書いてあった」と無批評に考えるのはまずかろう。

日本語では、意味がよくわからないから辞書を引くことが多いだろうが、外国語の学習になると、「英語の辞書に日本語のこんな単語が収録されていた。だからこの言葉は英米人も知っているのだ」と、とたんに無邪気で幸せな誤解を抱く人がいるように思う。「辞書に載っている」ことと、「その言葉を母語とする人が知っている」ということは、別だと考えたほうが安全だろう。

その意味で言えば、「OL」の由来となった「オフィス・レディ」の office lady も、"(in Japan) a woman working in an office" のように一部の辞書に英単語として載っているが、収録している辞書の数は明らかに salaryman より少ないようで、「なじみがある」という人は一層限られている、といえそうである。

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