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balaclava 「目出し帽」 (イスラム国「ジハーディ・ジョン」の身元特定か?) [ニュースと英語]

少し前に日本人人質殺害事件を取り上げた時に、「イスラム国」のビデオに出ている覆面の男が Jihadi John (聖戦士のジョン)というニックネームで呼ばれ、正体もわかっているらしいと書いたが、このほどBBCなどが、その人定を実名入りで報じた。

クウェート生まれでロンドン西部に住んでいたイスラム教徒のイギリス人、Mohammed Emwazi という27歳の男だという。

- The masked Islamic State militant known as "Jihadi John", who has been pictured in the videos of the beheadings of Western hostages, has been named.

He is Mohammed Emwazi, a Kuwaiti-born British man in his mid-20s from west London, who was previously known to British security services.
('Jihadi John' named as Mohammed Emwazi from London
http://www.bbc.com/news/uk-31637090 )

詳細はこうした記事を読んでいただくとして、この男の描写に使われていた balaclava という単語を取り上げたい。

- In each of the videos, the militant appeared dressed in a black robe with a black balaclava covering all but his eyes and top of his nose.
(ibid.)

- In each, he is dressed in all black, a balaclava covering all but his eyes and the ridge of his nose. He wears a holster under his left arm.
(Jihadi John’: Islamic State killer is identified as Londoner Mohammed Emwazi
http://www.washingtonpost.com/world/national-security/jihadi-john-the-islamic-state-killer-behind-the-mask-is-a-young-londoner/2015/02/25/d6dbab16-bc43-11e4-bdfa-b8e8f594e6ee_story.html )

大文字で始める Balaclava という表記もある。スポーツをやる人にはおなじみなのだろうが、英和辞典には、「バラクラヴァ帽(頭から肩の一部まですっぽりはいるウールの大型帽;主に軍隊用・登山用」(リーダーズ)と説明されているが、

- A close-fitting garment covering the whole head and neck except for parts of the face, typically made of wool.
The man with the gun, clad from head to toe in black clothing and wearing a balaclava underneath the hood of his coat, asked for money.
(Oxford Dictionaries)

- A knitted cap covering the head and neck with an opening for the eyes or face, used as cold-weather gear especially by soldiers, mountain climbers, and skiers.
(AHD)

といった英語圏の辞書の説明や、この帽子の絵を見ていると、要は「目出し帽」でもいいのではないか、という気がしてくる。そこで和英辞典で引くと、確かに ski cap, balaclava とあった。

しかし、英語らしくない、不思議な響きのある単語である(強勢は -cla- のところにある)。由来を見ると、

- 1881. ウクライナの港市 Balaklava にちなむ;おそらくクリミア戦争中に兵士がつけていたことから
(ランダムハウス英和大辞典)

- Late 19th century (denoting a garment worn originally by soldiers serving in the Crimean War): named after the village of Balaclava in the Crimea (see Balaclava, Battle of).
(Oxford Dictionaries)

Online Etymology Dictionary の情報は、さらに詳しくおもしろい。

- "woolen head covering," especially worn by soldiers, evidently named for village near Sebastopol, Russia, site of a battle Oct. 25, 1854, in the Crimean War. But the term (originally Balaclava helmet) does not appear before 1881 and seems to have come into widespread use in the Boer War. The British troops suffered from the cold in the Crimean War, and the usage might be a remembrance of that conflict.

さて、「ジハーディ・ジョン」の正体は、治安・情報当局は以前から特定していたというが、こうした事案のならいで、正式発表や確認はしていない。今回の報道についても、

- British police declined to comment, citing ongoing investigations.
(BBC)

- A spokeswoman for the British Embassy in Washington said:(中略)“There is an ongoing police investigation into the murder of hostages by ISIL in Syria. It is not appropriate for the government to comment on any part of it while this continues."
(Washington Post)

としている。

以下は余談だが、以前から「ジハーディ・ジョン」の”有力候補者”のひとりとして、あるイギリスの元ラッパーがあげられていたが、どうやら違っていたようである。

私が最近読んだ「イスラム国」関連のある本では、正体はこの元ラッパーだとすでに断定されているかのような書き方をしていたうえ、「ジハーディ・ジョー」という表記を何回も使っていた。

著者名と書名はあえて書かないが、こうした基礎的情報の詰めが甘いとは、専門家が書いているからといって全幅の信頼を置いていいというものでもなさそうだ。

気になったことといえばもうひとつ、今回の報道について日本の某新聞に、

- 同容疑者は日本人人質事件でも、殺害映像などに登場したとみられている。ただ、ロンドン警視庁は26日、「身元の確認はしない」との声明を発表した。

とあった。しかしこうした書き方だと、当局がジハーディ・ジョンの身元確認作業をしていないかのようにも受け取られるのではないだろうか(そんなことはあるまい)。The police declined to confirm the reported identity. というような英語の情報を訳したのではないかと思うが、これはつまり「ノーコメント」と同じような意味のはずだ。日本語も気にし出すときりがないが、やはり気になった。

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