parlor trick 「かくし芸」 (刑事コロンボ「殺人処方箋」) [刑事コロンボ]
前回 play Botticelli という言葉を取り上げたTVドラマ「刑事コロンボ・殺人処方箋」 Prescription: Murder から、もうひとつ表現を紹介しよう。登場人物のひとり精神分析医フレミングとコロンボ警部の会話に、parlor trick という言葉が出てくる。
フレミング博士は有能な精神分析医で、相手の性格や特徴をやすやすと見抜ぬいてしまう。とぼけたふりをして虚を突く質問を繰り出すコロンボの意図もずばりと指摘する。感心したコロンボが言う。
- Columbo: Boy, you've got me pegged pretty good, doctor. I'm gonna have to watch myself with you because you figure out people pretty good.
Fleming: Now you're trying flattery.
Columbo: No, really I'm serious, doctor. You've got a gift there. I know it's your job and I know you studied for years, but still it's, well it's amazing that a person will come in here and sit down and in a couple of hours you know all about him.
Fleming: Not quite. psychiatry isn't a parlor trick.
この parlor trick を載せている辞書はほとんど見当たらず、「かくし芸、座興」(ジーニアス英和大辞典)、"cheap magician trick" (Urban Dictionary) とある程度だった。さらにウェブを調べると、Wordnik というサイトにコメントとして書かれていた説明が詳しかった。
- parlor trick is a reference to a magic trick or slight of hand trick performed in a home (i.e., in the parlor of a home), usually by a guest or family member for the entertainment of other guests or family members, such as after dinner.
(中略)
... it is often used in reference to simple tricks (as opposed to professional magician's acts) capable of being performed by amateurs, i.e., in the phrase "a simple parlor trick" to denigrate the sophistication of someone's apparent ability to do something not obviously possible.
( https://www.wordnik.com/words/parlor%20trick )
つまり、家にお客さんが来た時に室内でやるような、高度な技量を必要としない、アマチュアレベルのマジックを指して使う言葉ということらしい。
また Wikipedia でこの言葉を調べると platform magic という言葉に転送されるので、それを読むと、
- Platform magic (also known as parlor magic, club magic or cabaret magic) is magic that is done for larger audiences than close-up magic and for smaller audiences than stage magic.
( http://en.wikipedia.org/wiki/Parlor_trick )
とあるので、こうした言葉と同義なのだろう。
なお細かいことだが、引用したように「診察を受けに来た人がどんな人かじきに見抜いてしまう」とコロンボがフレミングに感心するセリフは "a person will come in here ... you know all about him" と、a person を男性の him で受けていて、時代を感じさせる。1968年の作品なので、無理はないかもしれない。しかもおもしろいことに、この作品の中で重要な役割を果たす患者は女性である。
余談だが、この Prescription: Murder はアメリカのテレビドラマ史に残るであろう名シリーズの主人公 Lieutenant Columbo が初めて登場する作品だ。といっても舞台劇の原作に基づいて単発のTVドラマとして製作されたもので、当時はシリーズ化が決まっていたわけではなかった。
このため、後のエピソードと比べると主人公がより若く見えるだけでなく、キャラクター設定も微妙に異なっている。シリーズのファンの中には違和感を持つ人もいるようだが、私はこちらのコロンボ警部も大好きである。
「一見したところうだつがあがらない」点はシリーズと共通しているが、同時に「つかみどころのない謎の刑事」として描かれていて、ある意味で探偵と犯人の立場が逆転しているところがおもしろい。コロンボが物証を求めて捜査をしている描写はなく、代わりに徐々に深まる犯人の心理的動揺がコロンボとの会話を通じてあぶり出されていく。
こうなっているのは、原作の舞台劇ではもともと犯人を主人公としていたからだということで、なるほどと納得した。シリーズ化されたあと、コロンボの謎めいた性格が消えていったのは、こうした設定を毎回のエピソードを通して続けていくのは難しいと判断されたためだろう。
なお日本語版タイトル「殺人処方箋」は、一見、原題をそのまま訳したように見えるが、 Prescription: Murder とは、診断した医師が下す処方を模したものだろう。つまり「殺人の(ための)処方箋」ではなく、カルテの「処方」欄に「殺人」と書かれている、といった感じである。
ついでだが、シリーズとしての第1作にあたる Murder By the Book (邦題「構想の死角」)というエピソードについては以前いくつかのエントリで書いたことがあるが(例えば→by the book 「教科書通りの」「定石に従った」)、作中に出てくるミステリ小説のタイトルが Prescription: Murder となっているという"お遊び"がある。
フレミング博士は有能な精神分析医で、相手の性格や特徴をやすやすと見抜ぬいてしまう。とぼけたふりをして虚を突く質問を繰り出すコロンボの意図もずばりと指摘する。感心したコロンボが言う。
- Columbo: Boy, you've got me pegged pretty good, doctor. I'm gonna have to watch myself with you because you figure out people pretty good.
Fleming: Now you're trying flattery.
Columbo: No, really I'm serious, doctor. You've got a gift there. I know it's your job and I know you studied for years, but still it's, well it's amazing that a person will come in here and sit down and in a couple of hours you know all about him.
Fleming: Not quite. psychiatry isn't a parlor trick.
この parlor trick を載せている辞書はほとんど見当たらず、「かくし芸、座興」(ジーニアス英和大辞典)、"cheap magician trick" (Urban Dictionary) とある程度だった。さらにウェブを調べると、Wordnik というサイトにコメントとして書かれていた説明が詳しかった。
- parlor trick is a reference to a magic trick or slight of hand trick performed in a home (i.e., in the parlor of a home), usually by a guest or family member for the entertainment of other guests or family members, such as after dinner.
(中略)
... it is often used in reference to simple tricks (as opposed to professional magician's acts) capable of being performed by amateurs, i.e., in the phrase "a simple parlor trick" to denigrate the sophistication of someone's apparent ability to do something not obviously possible.
( https://www.wordnik.com/words/parlor%20trick )
つまり、家にお客さんが来た時に室内でやるような、高度な技量を必要としない、アマチュアレベルのマジックを指して使う言葉ということらしい。
また Wikipedia でこの言葉を調べると platform magic という言葉に転送されるので、それを読むと、
- Platform magic (also known as parlor magic, club magic or cabaret magic) is magic that is done for larger audiences than close-up magic and for smaller audiences than stage magic.
( http://en.wikipedia.org/wiki/Parlor_trick )
とあるので、こうした言葉と同義なのだろう。
なお細かいことだが、引用したように「診察を受けに来た人がどんな人かじきに見抜いてしまう」とコロンボがフレミングに感心するセリフは "a person will come in here ... you know all about him" と、a person を男性の him で受けていて、時代を感じさせる。1968年の作品なので、無理はないかもしれない。しかもおもしろいことに、この作品の中で重要な役割を果たす患者は女性である。
余談だが、この Prescription: Murder はアメリカのテレビドラマ史に残るであろう名シリーズの主人公 Lieutenant Columbo が初めて登場する作品だ。といっても舞台劇の原作に基づいて単発のTVドラマとして製作されたもので、当時はシリーズ化が決まっていたわけではなかった。
このため、後のエピソードと比べると主人公がより若く見えるだけでなく、キャラクター設定も微妙に異なっている。シリーズのファンの中には違和感を持つ人もいるようだが、私はこちらのコロンボ警部も大好きである。
「一見したところうだつがあがらない」点はシリーズと共通しているが、同時に「つかみどころのない謎の刑事」として描かれていて、ある意味で探偵と犯人の立場が逆転しているところがおもしろい。コロンボが物証を求めて捜査をしている描写はなく、代わりに徐々に深まる犯人の心理的動揺がコロンボとの会話を通じてあぶり出されていく。
こうなっているのは、原作の舞台劇ではもともと犯人を主人公としていたからだということで、なるほどと納得した。シリーズ化されたあと、コロンボの謎めいた性格が消えていったのは、こうした設定を毎回のエピソードを通して続けていくのは難しいと判断されたためだろう。
なお日本語版タイトル「殺人処方箋」は、一見、原題をそのまま訳したように見えるが、 Prescription: Murder とは、診断した医師が下す処方を模したものだろう。つまり「殺人の(ための)処方箋」ではなく、カルテの「処方」欄に「殺人」と書かれている、といった感じである。
ついでだが、シリーズとしての第1作にあたる Murder By the Book (邦題「構想の死角」)というエピソードについては以前いくつかのエントリで書いたことがあるが(例えば→by the book 「教科書通りの」「定石に従った」)、作中に出てくるミステリ小説のタイトルが Prescription: Murder となっているという"お遊び"がある。
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