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「技術的に」ではない technically [注意したい単語・意外な意味]

かなり前に redshirt というアメリカ語を取り上げたことがある(→「やられ役」を英語で何という?)。SFテレビドラマ「スター・トレック」に由来する。

ピンチの時に死ぬのは決まって保安部という部署(赤い制服)に所属する”その他大勢”の隊員で、レギュラー俳優陣が演じる上級士官は絶対に死なない。当然とはいえ理不尽なこの設定を利用した、その名も Redshirts というSF小説があり、先日読了した。

この作品に、「技術的に」と直訳しては意味をなさない technically の実例が複数出てきた。よく見聞きする使い方なのでご存知の方も多いだろうし、自分もこのブログですでに取り上げたと思っていたが、過去のエントリを検索したら記憶違いでそうではなかったので、今回の本をきっかけに書いてみよう。

Redshirts: A Novel with Three Codas

Redshirts: A Novel with Three Codas

  • 出版社/メーカー: Tor Books
  • 発売日: 2012/06/05
  • メディア: Kindle版

宇宙船に配属されて日が浅いダール少尉 Ensign Dahl は船内の実験室で働く科学者だが、ブリッジ詰めの科学士官が away mission (惑星上陸など離船して行う任務)で死亡したので、その後任に選ばれることになった。

- "You're not part of this lab anymore. Ensign Dee, the junior science officer on the bridge, fell to her death a week ago, on an away mission. (中略) You start tomorrow. Technically, it's a promotion. Congratulations."
(Redshirts by John Scalzi)

階級は少尉のままだが、栄えあるブリッジ士官に抜擢されるのは昇進に等しい、という内容が読み取れる。

もうひとつ引用しよう。ある士官について Dahl と同僚が話しているシーンである。

- "He's part of the bridge crew," Trin said. "Technically, he's an astrogator."
"The captain and Q'eeng said he was part of an away team, collecting samples. (中略) Why would they send an astrogator for that?" Dahl said.
"Now you know why I said 'technically,'" Trin said.
(ibid.)

その士官は astrogator (navigator からの造語だろう)、つまりブリッジの操縦席に座るのが任務のはずなのに away team、つまり惑星上陸班のメンバーになった。任務は土壌サンプルを集めることだ。どうして操縦士が、といぶかる Dahl に同僚は「だから technically だって言っただろ」と話す。

いずれも、「技術的には」と訳しては何のことかわからない。先に答えを書いてしまうと、この technically は、「理屈からいえばそうなる(しかし実際にはそうではないことがある)」「形の上ではそうなる」「表向きは一応そういうことになっている」といったニュアンスを表す。

この意味は、よく見聞きする割には、有名どころの大型英和辞典や英語圏の辞書の記述を見ても今ひとつ明確には書かれていない。むしろ比較的新しい英和辞典の記述が役に立つ。

- (通例文修飾)厳密に(いえば)、建て前としては、理論上は
(レクシス英和辞典)

- (しばしば文修飾語)規定(定義)上は、厳密には、たてまえでは
(ルミナス英和辞典)

さらに秀逸だったのは、私がひいきしている「アンカーコズミカ英和辞典」の説明だった。

- (文全体を修飾して)専門的(法的)に言えば,厳密に規則を守るとすれば(→規則と実際とにずれがある,あるいは何らかの抜け道があるというニュアンスで用いる
Online gambling is technically illegal, but it is very popular.
ネット上のかけ事は厳密には違法であるが,広く行われている

英語圏のオンライン辞書で記述がわかりやすいと思ったのは Vocabulary.com である。「トマトは野菜か果物か」などを例に「理屈と実際のずれ」というニュアンスを説明している。

- Something technically true is actually, really true or correct but it may not be the way people think about it. For example, although people call a tomato a vegetable, technically, it’s a fruit.

A birth father may technically be your father -- according to a DNA test -- but if you've lived with a stepfather your whole life, he’s your dad. Things that are technically true fulfill some exact requirement. Technically, a swing set might be in your neighbor’s yard, but since their kids are grown up, they consider it yours.

なお、「建て前としては」などは確かにうまい訳語だが、上記の「生みの親」の説明にはそぐわないだろう。一般論として、やはり英単語は日本語との1対1の対応で覚えるのではなく、ニュアンスを押さえておくことが大切だ。辞書に載っている訳語が必ず当てはまるとは限らないので、訳す必要がある時は、文脈に沿ったふさわしい言葉を考えるべきだろう。

自分の学習ノートに書きつけてあった実例をひとつ紹介しよう。「21世紀は西暦何年から始まるのか」という古い内容だが、お許しいただきたい。

- The 2000s decade refers to the years from 2000 to 2009, inclusive. Technically, however, the millennium began in 2001 because there is no such thing as the "year zero", but in informal and non technical settings the millennium usually began in 2000.
(Wikipedia)

今回の technically をすでに取り上げたと勘違いしていたのは、似たような「気をつけたい単語」を、かつてある程度まとめて書いたことがあるためだと思うが、復習を兼ねて列挙してみることにしよう。

過去の参考記事:
「哲学の」ではない philosophical
「数学の」ではない mathematical
「科学の」ではない scientific
「仮の」ではない tentative
deceptively にだまされるな
arguable とは反対の arguably

追記:今回取り上げた本が、「レッドスーツ」というタイトルで翻訳されていることを知った。

レッドスーツ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

レッドスーツ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 作者: ジョン スコルジー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/02/07
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コメント 8

たんご屋

こういう technically は virtually とセットで考えるとわかりやすいような気がしています。

ただ、正反対の意味のはずなんですが、意外にも、文脈によっては、同じように感じられることがあるのは不思議といえば不思議です。ご紹介の最初の例文では virtually のほうがよいのでは、という気もしますね。
by たんご屋 (2015-08-31 18:04) 

tempus fugit

確かに virtually でもよさそうな場合もありますね。ただ technically はこの語ならではのニュアンスがあるのか、あるいは一種の"流行"なのか、よく目にするという印象があるのがおもしろいと思っています。

ところで、たんご屋さんは以前コメントをよくいただいていたのと同じたんご屋さんでいらっしゃいますでしょうか。そうでしたらお久しぶりです。
by tempus fugit (2015-09-01 00:26) 

たんご屋

はい。どうもお久しぶりです。子守男さんはハンドルを変えられたのですね。

「technically = 表向きは」と「virtually = 実際のところは」ですからまるっきり逆の意味ですよね。

でも、どっちにしても建前と実際が少し「ずれている」ということですから、「何が表向きか」という解釈が人によって違うような状況なら人によってどちらを使うこともあり得る、ということですかね。
by たんご屋 (2015-09-01 06:38) 

tempus fugit

たんご屋さん、ありがとうございました。technically については、実際に使われている例にさらに触れてみる必要がありそうで、英語に接する際は今後気をつけていきたいと思いました。

by tempus fugit (2015-09-01 08:04) 

通りすがり

すごくためになりました!
あるアニメの英訳で「一応は英語教師」の「一応」にtechnicallyが当てられていて、はて?と思ってたどり着きました。辞書にはこの訳は無いのですが、この記事で納得いきました。
「一応」は日本語学習者にとって難しいようですが、この文脈の場合には的を射ていますね。つまり(内容、能力等の実質はともかくとして)建前上、名目上、法律上はのような意味がうまく当てはまっていると思います。そこから「厳密に言えば」のような日本語訳が出て来るのも理解できます

by 通りすがり (2018-02-25 02:26) 

tempus fugit

通りすがりさん、お役に立ったのでしたらうれしいです。ありがとうございました。

by tempus fugit (2018-02-25 20:51) 

JJ

このtechinicallyという単語、ドラマを見ていると実によく出てくるのですが今まで深く調べておらず、今回こちらのブログのご説明で納得した次第。手元のLongman Dictionaly of Contemporary English では、according to the exact details of a rule or law.という記載がありましたが、ちょっとニュアンスがつかめませんでした。 ありがとうございました。
by JJ (2018-06-14 23:08) 

tempus fugit

technically、確かによく見聞きしますよね。お役に立てたのでしたらうれしいです。

by tempus fugit (2018-06-15 00:47) 

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