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「侵略」と aggression と invasion ~安倍総理の「戦後70年談話」英語版を読む [注意したい単語・意外な意味]

この週末、首相官邸のホームページにある安倍総理の「戦後70年談話」を日本語と英語で読み比べてみた。

今回の「談話」は英語版が同時に公表されたとのことだが、日本のマスメディアも英語版を全文掲載したり、どのような英語表現が使われているかを記事にしたりと、対外発信に関心を持ったことがうかがえる。

マスメディアで報じられたように、今回の「談話」でポイントとなったのは、過去の政府の立場を引き継ぐことを明確に表明したことだろう。そのあたりを首相官邸サイトにある発表文で確かめてみよう。

- 二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。
 事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。
 先の大戦への深い悔悟の念と共に、我が国は、そう誓いました。
(中略)
 我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省心からのお詫びの気持ちを表明してきました。(中略)
 こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。

- We must never again repeat the devastation of war.
Incident, aggression, war -- we shall never again resort to any form of the threat or use of force as a means of settling international disputes. We shall abandon colonial rule forever and respect the right of self-determination of all peoples throughout the world.
With deep repentance for the war, Japan made that pledge.
(中略)
Japan has repeatedly expressed the feelings of deep remorse and heartfelt apology for its actions during the war. (中略)
Such position articulated by the previous cabinets will remain unshakable into the future.
(Statement by Prime Minister Shinzo Abe -- on the occasion of the 70th anniversary of the end of the war)

こうしたキーワードを表す英語は、過去の「総理談話」などで使われていた単語と同じであり、その点でも確かに「過去を引き継ぐ」ものとなっている。

さて、英語面で取り上げてみたいのは、aggression である。

「侵略」といえば、invasion, invade を思い浮かべる学習者が多いと思うが、日本政府は以前から、過去の「侵略」を表す場合にこうした単語は使っていない。

この invasion, invade については、私はブログを初めて間もない頃に取り上げたことがある(→invade は「侵略する」か?)。

詳しいことはその記事を参照していただけるとありがたいが、イラク政府についてアメリカ政府自身が invade を使っていた例などをあげて、日本語の「侵略」から受けるような価値判断的な意味合い、また否定的なニュアンスは薄いらしいことについて書いたものである。「侵攻」よりも「進攻」という感じだろうか。

それでは aggression には、どういうニュアンスがあるのだろか。英和辞典には invasion と同様「侵略」「侵攻」としか書かれていない。ここはやはり英語圏の辞書を見るべきだろう。

- the act of attacking a country, especially when that country has not attacked first:
unprovoked act of aggression
aggression against Athenian aggression against Persia
(LDOCE)

- the practice of making attacks or encroachments; especially : unprovoked violation by one country of the territorial integrity of another
(Merriam-Webster's Online Dictionary)

- the action of a state in violating by force the rights of another state, particularly its territorial rights; an unprovoked offensive, attack, invasion, or the like:
The army is prepared to stop any foreign aggression.
(Random House Unabridged Dictionary)

こうした定義を見ると、「他国の領土に軍隊を進める」という(だけの) invasion に比べて、aggression には「不当」というようなニュアンスがより強いことがうかがえる。そうであれば、invasion よりも日本語の「侵攻」に近い言葉だといえるのではないか。

もちろん、2つの単語の使い分けは明確に割り切れるという単純なものではなかろう。文脈にもよるだろうし、どちらの単語も形容詞や副詞を付加することでより細かい意味を表すことをできるはずだが、日本政府は上記のようなニュアンスを検討して、invasion よりも aggression の方が適切だと判断したのではないかと想像している。

いずれにせよ、どちらの単語にも「侵略」と英和辞典にあるのを見ただけで事足れりしては不十分だと思う。日本で生まれ育った学習者として、私は一部で提唱されている「英語で考える」ことなどできないとは思っているが、英語圏の辞書を引き、さらに実際にどのように使われているかに触れることが、より深い英語の理解につながっていくはずだ。

なお、今回の英語版は日本語版に沿って逐語的に表現されているので、翻訳したものであるのはまず間違いなく、内容は保ちつつ別個に書いたものではないだろう。

これも以前書いたことだが、今回のように日本語の原文から翻訳した長文の英文や対訳本は、往々にして話の展開が英語的な論理に沿っていないことがあるので、学習教材としてはあまり適切ではないと思っている。利用する際は、書かれている内容そのものに重点を置き、英語面では表現習得の参考にとどめるなど目的を絞って読むべきだろう。

今回の「談話」は内外でおおむね評価されていると言ってよさそうだが、内閣にも諮って政府の公式な立場を示すものにしたこともあって、「安倍カラーを抑えた」という論評が当たっているとは感じた。


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