Only Nixon could go to China. 「むしろ強硬派の方が事態を打開できる」 [辞書に載っていない表現]
近く予定されている安倍総理と中国・韓国との首脳会談と直接の関係はないが、何となく連想したのが、世界を驚かせた1972年のニクソン電撃訪中にからむ言葉 "Only Nixon could go to China." だ。今もマスメディアなどで比喩的に使われることがあるが、見た範囲では英和辞典には載っていないようだ。
当時アメリカと対立していた共産主義国の中国を訪問し、国交樹立を成し遂げたのは、「反共の闘士」として鳴らしたニクソン大統領だった。
ここから、政治家が従来の立場にそぐわないような意外な行動を取って課題を解決する、あるいは、ハト派ではなくタカ派の方が、かえって対立相手との交渉を実現して事態を打開できる、と言いたい場合に使われる表現のようだ。逆説めいたことが実際に起きることがあるのは、歴史が示す現実である。
- The metaphor is often expressed as the observation "Only Nixon could go to China" or "It took Nixon to go to China".
(https://en.wikipedia.org/wiki/Nixon_goes_to_China)
私は学生時代から何となくこうした表現に気づいていたが、はっきりと印象づけられたのは、私の好きなSFドラマ「スター・トレック」の映画第6作 Star Trek VI: The Undiscovered Country によってだった。
上記の Wikipedia にも言及があるが、この映画では、ある登場人物が主人公に対して、敵対する宇宙人との和平交渉が必要だと説くシーンで "Only Nixon could go to China." が出てくる。映画館で観た時に「おっ」と思ったのを今も覚えている。
ニクソンだからこそ中国と国交を結べた、というような逆説的な歴史上の出来事として、Wikipedia は、「公民権法を成立させたのは保守的な南部テキサス州出身のジョンソン大統領だった」、「イスラエル右派のベギン首相がエジプトとの和平を締結した」などの類例をあげている。いったんハラを決めた保守派の指導者の方が、皆の意見を聞く穏健派よりも、いざとなったら身内の反対派を黙らせることができる、ということもあるのだろう。
安倍総理と近隣諸国の関係についてこの表現が使われていないかウェブを検索したら、いくつか実例があった。下記は1年以上前に書かれたものだが、韓国および朴槿恵大統領との関係に言及した記事からの引用である。
- Ironically, given that both heads of government have burnished their domestic, nationalist credentials recently, they both are now perhaps ideally situated to reach out to one another. If only Nixon could go to China, it may be that only Abe can go to the Republic of Korea and only Park can go to Japan.
("It's Not History, East Asia, It's the Stories We Tell"
http://smallwarsjournal.com/jrnl/art/it%E2%80%99s-not-history-east-asia-it%E2%80%99s-the-stories-we-tell)
なお上記 Wikipedia によると、この言葉を使い始めた人物に(考案したということではない)、何とマイク・マンスフィールド民主党上院院内総務がいたそうだ。「何と」と書いたのは、マンスフィールド氏は後に日本大使となり、私くらいの年代の日本人にはおなじみの人物だからである。少し引用しよう。
- The phrase originated prior to Nixon's actual visit to China. An early use of the phrase is found in a December 1971 U.S. News & World Report interview with then-United States Senate Democratic Leader Mike Mansfield, in a section summary lead that read "'Only a Nixon' Could Go to China". The actual quote from Mansfield (which he prefaces by noting he had heard it said before) was "Only a Republican, perhaps only a Nixon, could have made this break and gotten away with it."
最後に余談だが、映画「スター・トレック6」は、今回の言葉の他にも、シェイクスピアの名セリフが出てきたり、キューバ危機でアメリカの国連大使がソ連を非難した際の名文句が流用されたり(参考→ アドレイ・スティーブンソンと大衆文化)、英語文化の背景を知っているとより楽しめる要素が詰まっている。たかがSF映画と侮るなかれ、である。
当時アメリカと対立していた共産主義国の中国を訪問し、国交樹立を成し遂げたのは、「反共の闘士」として鳴らしたニクソン大統領だった。
ここから、政治家が従来の立場にそぐわないような意外な行動を取って課題を解決する、あるいは、ハト派ではなくタカ派の方が、かえって対立相手との交渉を実現して事態を打開できる、と言いたい場合に使われる表現のようだ。逆説めいたことが実際に起きることがあるのは、歴史が示す現実である。
- The metaphor is often expressed as the observation "Only Nixon could go to China" or "It took Nixon to go to China".
(https://en.wikipedia.org/wiki/Nixon_goes_to_China)
私は学生時代から何となくこうした表現に気づいていたが、はっきりと印象づけられたのは、私の好きなSFドラマ「スター・トレック」の映画第6作 Star Trek VI: The Undiscovered Country によってだった。
上記の Wikipedia にも言及があるが、この映画では、ある登場人物が主人公に対して、敵対する宇宙人との和平交渉が必要だと説くシーンで "Only Nixon could go to China." が出てくる。映画館で観た時に「おっ」と思ったのを今も覚えている。
ニクソンだからこそ中国と国交を結べた、というような逆説的な歴史上の出来事として、Wikipedia は、「公民権法を成立させたのは保守的な南部テキサス州出身のジョンソン大統領だった」、「イスラエル右派のベギン首相がエジプトとの和平を締結した」などの類例をあげている。いったんハラを決めた保守派の指導者の方が、皆の意見を聞く穏健派よりも、いざとなったら身内の反対派を黙らせることができる、ということもあるのだろう。
安倍総理と近隣諸国の関係についてこの表現が使われていないかウェブを検索したら、いくつか実例があった。下記は1年以上前に書かれたものだが、韓国および朴槿恵大統領との関係に言及した記事からの引用である。
- Ironically, given that both heads of government have burnished their domestic, nationalist credentials recently, they both are now perhaps ideally situated to reach out to one another. If only Nixon could go to China, it may be that only Abe can go to the Republic of Korea and only Park can go to Japan.
("It's Not History, East Asia, It's the Stories We Tell"
http://smallwarsjournal.com/jrnl/art/it%E2%80%99s-not-history-east-asia-it%E2%80%99s-the-stories-we-tell)
なお上記 Wikipedia によると、この言葉を使い始めた人物に(考案したということではない)、何とマイク・マンスフィールド民主党上院院内総務がいたそうだ。「何と」と書いたのは、マンスフィールド氏は後に日本大使となり、私くらいの年代の日本人にはおなじみの人物だからである。少し引用しよう。
- The phrase originated prior to Nixon's actual visit to China. An early use of the phrase is found in a December 1971 U.S. News & World Report interview with then-United States Senate Democratic Leader Mike Mansfield, in a section summary lead that read "'Only a Nixon' Could Go to China". The actual quote from Mansfield (which he prefaces by noting he had heard it said before) was "Only a Republican, perhaps only a Nixon, could have made this break and gotten away with it."
最後に余談だが、映画「スター・トレック6」は、今回の言葉の他にも、シェイクスピアの名セリフが出てきたり、キューバ危機でアメリカの国連大使がソ連を非難した際の名文句が流用されたり(参考→ アドレイ・スティーブンソンと大衆文化)、英語文化の背景を知っているとより楽しめる要素が詰まっている。たかがSF映画と侮るなかれ、である。
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