水木しげると007~「おばけ」の英単語さまざま [英語文化のトリビア]
水木しげる氏の逝去は国内のニュースだと思っていたら、英語圏のメディアも取り上げていて、不謹慎ではあるが嬉しい驚きだった。水木氏といえばやはり「妖怪」、これに「亡霊」を意味する spectre の名を冠した007の新作を無理やり引っかけて、関連する英単語を整理してみよう。
子どもの時に水木氏の漫画で見た妖怪たちは怖かった。その後、「墓場の鬼太郎」が「ゲゲゲの鬼太郎」としてアニメ化され、キャラクターたちも monster と呼ぶにはずいぶん親しみのあるイメージを帯びるようになった。
それはともかく、英文記事での「妖怪」を見てみよう。
- yokai, the spirits and monsters of Japanese folklore
(Kyodo)
- His Gegege no Kitaro series features characters based on Japanese folklore and ‘yokai’ ghost tales.
(The Wall Street Journal)
海外メディアの追悼記事でとりわけ内容が充実していたのは The Financial Times と New York Times の記事だった。漫画だけでなく、水木氏の戦争体験についても長めに記述している。全文はウェブサイトで読んでいただければと思うが、まずは「フィナンシャル・タイムズ」の「妖怪」から、
- News of Shigeru Mizuki’s death drew expressions of grief from across Japan, where his nuanced depictions of ghouls and monsters are seen as the modern-day repository of the nation’s folklore and storytelling traditions.
(http://www.ft.com/cms/s/0/bef25186-9757-11e5-9228-87e603d47bdc.html#axzz3t9m5pCYv)
「ニューヨーク・タイムズ」は、さらに「妖怪」の言い換えが多い。
- (a) cartoonist with a talent for humanizing mythical monsters and dissecting the monstrous side of humanity
- (「ゲゲゲの鬼太郎」について) The series’ battles between fantastic creatures were the template for later Japanese fare, like Pokemon.
- Its characters were inspired by ghosts and demons from traditional Japanese folk tales
- Kitaro’s father is a phantasm with an eyeball for a head.
(http://www.nytimes.com/2015/12/02/arts/design/shigeru-mizuki-influential-japanese-cartoonist-dies-at-93.html)
国内英文メディアの記事が力を入れていたのは当然といえるが、単語学習の面では「河童の三平」が
-“Kappa no Sanpei” (Sanpei the kappa water sprite)
(The Japan News)
となっていたのが目にとまった。
水木氏および「妖怪」は英文の Wikipedia にも項目があり、英語面でどれくらいしっかりとした英文なのかは判断できないが、それはともかく後者はこう始まっている。
- Yokai (妖怪, ghost, phantom, strange apparition) are a class of supernatural monsters and spirits in Japanese folklore.
(https://en.wikipedia.org/wiki/Y%C5%8Dkai)
さらに和英辞典で「妖怪」を引くと、goblin, hobgoblin, bugbear, bogey など、まだまだ出てくる。
続いてジェームズ・ボンドの新作映画「スペクター」(アメリカ英語の綴りは specter)の同義語を辞書で調べると、上に出てきた単語のほか、wraith, shadow, spook, shade, revenant, wight などいろいろある(なお007の悪の組織 Spectre は Special Executive for Counter-intelligence, Terrorism, Revenge and Extortion を略したものだと原作に書かれている)。
こうした「おばけ」や「亡霊」「精霊」たちは海外のフォークロアでそれぞれ異なる存在だということで、日本の妖怪たちに負けないバラエティがあるようだ。
それをひとつひとつ見ていくのは無理だが、簡単な手がかりとして、以前の記事(→war to end all wars 「あらゆる戦争を終わらせる戦争」って何だ?)で取り上げたことがある「火星人ゴーホーム」というユーモアSFから引用しよう。小学生の時に何回も読んで笑い、社会人になって原書を見つけて読んだという思い出の小説である。
「火星人」が大挙して地球にやってきてハチャメチャな騒ぎを起こすという作品だが、その中に、「彼らは火星からやってきたとは信じない人たちもいた」として、次のような文章がある。
- なかでも多数を占めるのは、迷信家や狂信的宗教家であった。かれらは自称火星人の本体を、泣き妖精、色黒善魔、守護神、鬼神、魔王、小妖精、少仙女、おとぎの精、地の精、いたずら鬼、あるいはいたずら小鬼、鬼の子、霊魔、妖魔、堕落天使、小鬼、暗黒の王、あるいは邪悪の王、幽鬼、窟神、不浄魔神など、ありとあらゆる言葉できめつけた。
(「火星人ゴーホーム」 フレドリック・ブラウン 稲葉明雄訳)
実際には、それぞれの「おばけ」にカタカナのふりがなとカッコに入れた説明がついているのだが、さすがにそれは省いた。原文は次の通りである(うまい訳だと思う)。
- The most numerous of these were the superstitious and the fanatically religious who claimed that the self-styled Martians were really banshees, brownies, daemons, demons, devils, elves, fairies, fays, gnomes, goblins or hobgoblins; imps, jin, kobolds, peris, pixies, powers of darkness or powers of evil; sprites, trolls, unclean spirits or what-have-you.
(Martians, Go Home by Fredric Brown)
ここにある jin(または jinn)つながりで genie もあり、似た綴りを含めて「ジニー」や「ジーニー」として日本でも知られる魔女がいろいろな物語に出てくる。また troll はトーベ・ヤンソンの「ムーミントロール」でおなじみだろう。elves (単数形 elf)の形容詞 elfin は、今井美樹のアルバムのタイトルとなっていて、以前取り上げたことがある(→「雄鶏の尾」ではない rooster tail)
この他にも、上に出てきた単語のいくつかを以前取り上げた記憶があるのでこのブログを検索したら、関連表現を含めると結構いろいろ書いていることがわかったので、インデックス代わりに列挙したい。多めでお見苦しいがお許しいただきたい。
・devil にちなんだ表現
・続・devil にちなんだ表現 (devil's advocate など)
・「悪魔化する」って何だ? (demonize)
・さらなる悪魔 ghoul とその語源
・まだある悪魔 fiend、および goblin とogre
・「こんにゃく」と devil's tongue
・gnome と「展覧会の絵」
・Lucifer の正体は何か
子どもの時に水木氏の漫画で見た妖怪たちは怖かった。その後、「墓場の鬼太郎」が「ゲゲゲの鬼太郎」としてアニメ化され、キャラクターたちも monster と呼ぶにはずいぶん親しみのあるイメージを帯びるようになった。
それはともかく、英文記事での「妖怪」を見てみよう。
- yokai, the spirits and monsters of Japanese folklore
(Kyodo)
- His Gegege no Kitaro series features characters based on Japanese folklore and ‘yokai’ ghost tales.
(The Wall Street Journal)
海外メディアの追悼記事でとりわけ内容が充実していたのは The Financial Times と New York Times の記事だった。漫画だけでなく、水木氏の戦争体験についても長めに記述している。全文はウェブサイトで読んでいただければと思うが、まずは「フィナンシャル・タイムズ」の「妖怪」から、
- News of Shigeru Mizuki’s death drew expressions of grief from across Japan, where his nuanced depictions of ghouls and monsters are seen as the modern-day repository of the nation’s folklore and storytelling traditions.
(http://www.ft.com/cms/s/0/bef25186-9757-11e5-9228-87e603d47bdc.html#axzz3t9m5pCYv)
「ニューヨーク・タイムズ」は、さらに「妖怪」の言い換えが多い。
- (a) cartoonist with a talent for humanizing mythical monsters and dissecting the monstrous side of humanity
- (「ゲゲゲの鬼太郎」について) The series’ battles between fantastic creatures were the template for later Japanese fare, like Pokemon.
- Its characters were inspired by ghosts and demons from traditional Japanese folk tales
- Kitaro’s father is a phantasm with an eyeball for a head.
(http://www.nytimes.com/2015/12/02/arts/design/shigeru-mizuki-influential-japanese-cartoonist-dies-at-93.html)
国内英文メディアの記事が力を入れていたのは当然といえるが、単語学習の面では「河童の三平」が
-“Kappa no Sanpei” (Sanpei the kappa water sprite)
(The Japan News)
となっていたのが目にとまった。
水木氏および「妖怪」は英文の Wikipedia にも項目があり、英語面でどれくらいしっかりとした英文なのかは判断できないが、それはともかく後者はこう始まっている。
- Yokai (妖怪, ghost, phantom, strange apparition) are a class of supernatural monsters and spirits in Japanese folklore.
(https://en.wikipedia.org/wiki/Y%C5%8Dkai)
さらに和英辞典で「妖怪」を引くと、goblin, hobgoblin, bugbear, bogey など、まだまだ出てくる。
続いてジェームズ・ボンドの新作映画「スペクター」(アメリカ英語の綴りは specter)の同義語を辞書で調べると、上に出てきた単語のほか、wraith, shadow, spook, shade, revenant, wight などいろいろある(なお007の悪の組織 Spectre は Special Executive for Counter-intelligence, Terrorism, Revenge and Extortion を略したものだと原作に書かれている)。
こうした「おばけ」や「亡霊」「精霊」たちは海外のフォークロアでそれぞれ異なる存在だということで、日本の妖怪たちに負けないバラエティがあるようだ。
それをひとつひとつ見ていくのは無理だが、簡単な手がかりとして、以前の記事(→war to end all wars 「あらゆる戦争を終わらせる戦争」って何だ?)で取り上げたことがある「火星人ゴーホーム」というユーモアSFから引用しよう。小学生の時に何回も読んで笑い、社会人になって原書を見つけて読んだという思い出の小説である。
「火星人」が大挙して地球にやってきてハチャメチャな騒ぎを起こすという作品だが、その中に、「彼らは火星からやってきたとは信じない人たちもいた」として、次のような文章がある。
- なかでも多数を占めるのは、迷信家や狂信的宗教家であった。かれらは自称火星人の本体を、泣き妖精、色黒善魔、守護神、鬼神、魔王、小妖精、少仙女、おとぎの精、地の精、いたずら鬼、あるいはいたずら小鬼、鬼の子、霊魔、妖魔、堕落天使、小鬼、暗黒の王、あるいは邪悪の王、幽鬼、窟神、不浄魔神など、ありとあらゆる言葉できめつけた。
(「火星人ゴーホーム」 フレドリック・ブラウン 稲葉明雄訳)
実際には、それぞれの「おばけ」にカタカナのふりがなとカッコに入れた説明がついているのだが、さすがにそれは省いた。原文は次の通りである(うまい訳だと思う)。
- The most numerous of these were the superstitious and the fanatically religious who claimed that the self-styled Martians were really banshees, brownies, daemons, demons, devils, elves, fairies, fays, gnomes, goblins or hobgoblins; imps, jin, kobolds, peris, pixies, powers of darkness or powers of evil; sprites, trolls, unclean spirits or what-have-you.
(Martians, Go Home by Fredric Brown)
ここにある jin(または jinn)つながりで genie もあり、似た綴りを含めて「ジニー」や「ジーニー」として日本でも知られる魔女がいろいろな物語に出てくる。また troll はトーベ・ヤンソンの「ムーミントロール」でおなじみだろう。elves (単数形 elf)の形容詞 elfin は、今井美樹のアルバムのタイトルとなっていて、以前取り上げたことがある(→「雄鶏の尾」ではない rooster tail)
この他にも、上に出てきた単語のいくつかを以前取り上げた記憶があるのでこのブログを検索したら、関連表現を含めると結構いろいろ書いていることがわかったので、インデックス代わりに列挙したい。多めでお見苦しいがお許しいただきたい。
・devil にちなんだ表現
・続・devil にちなんだ表現 (devil's advocate など)
・「悪魔化する」って何だ? (demonize)
・さらなる悪魔 ghoul とその語源
・まだある悪魔 fiend、および goblin とogre
・「こんにゃく」と devil's tongue
・gnome と「展覧会の絵」
・Lucifer の正体は何か
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