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「チョウのように舞い、ハチのように刺す」 Float like a butterfly, sting like a bee. (モハメド・アリ死去) [英語文化のトリビア]

週末、車を運転しながら聞いていたAFNラジオでモハメド・アリの死去を知った。ボクシングとは無縁の私だが、子どもの頃は名作「あしたのジョー」の影響もあってか、さまざまなタイトルマッチをよくテレビで見たものだ。そして幼心にもモハメド・アリの印象は強烈なものがあった。

私が幼いなりにアリを認識したその当時、すでに彼の全盛期は過ぎつつあったが、昔の試合の記録映像をテレビで見て驚いたのを覚えている。ヘビー級なのに軽快なフットワークで動き回り、目にもとまらぬスピードでパンチを叩き込む姿は、子どもだった私も「すごい」と思った。Muhammad Ali と改名する前の名前であるカシアス・クレイ Cassius Clay をあわせて覚えているのも、見たのがドキュメンタリーか何かだったからだろう。

その後はリアルタイムの出来事としてもっとはっきりと思い出すことができる。ロープにもたれて防戦しつつ相手にパンチを打たせて消耗を誘う新戦術 rope-a-dope で George Foreman を倒し、チャンピオンに返り咲いた時は日本でも大ニュースになった。またプロレスラー(現・参議院議員)のアントニオ猪木と闘った「格闘技世界一」は、私もテレビに釘づけになった(「世紀の凡戦」に終わったが)。調べてみると1976年6月26日、今からちょうど40年前のことになる。

また高校生の時には、映画「スーパーマン」の封切りに合わせるように日本でもアメリカン・コミックスのミニブームが起きたが、「スーパーマン対モハメド・アリ」 Superman vs. Muhammad Ali という単行本が出版されたので読んだのも思い出である(アリ本人についてではないが)。

さて、アリの全盛期を形容する "Float like a butterfly, sting like a bee." はあまりにも有名だ。彼の死去を伝える数々の英文記事でもタイトルや本文に出てくるのは当然といえば当然だろう。

そして興味を持ったのは、この言葉が初めて使われたのはいつだったか、ということである。というのは、それが前述のジョージ・フォアマンとの対戦(1974年)であったかのような印象を与える書き方の記事が複数あったが、私には、フォアマン戦以前から、「モハメド・アリといえば、チョウのように舞い・・・」だ、と知っていたという記憶があるのだ。

そうした印象を与えるものとして、例えば、アリの語録を集めた記事に、

- The Rumble in the Jungle, 1974
"Float like a butterfly sting like a bee – his hands can’t hit what his eyes can’t see.”

とあった(なお "The Rumble in the Jungle" 「ジャングルでの乱闘」は、アフリカのザイールで行われたフォアマンとの対戦につけられた呼び名だ。まじめに考えると「アフリカといえばジャングル」という紋切型はいかがなものかと思うが、まあ興業として硬いことは言わないのが花だろうし、韻を踏んでいてうまいものだとも思う)。

そこで、この言葉についてさらにネットを調べてみたら、The Origin Of "Float Like A Butterfly, Sting Like A Bee" Proved Muhammad Ali's Greatness Early On という記事が目に留まった。それによると、

- In 1964, Ali was 22 years old, and still known by his birth name: Cassius Clay, Jr. In Miami Beach, Florida, Clay was the underdog in a matchup against Sonny Liston, who had been the world heavyweight champion since 1962. (中略)
Just before entering the ring, Clay said what would become one of his most famous quotes, and a phrase used to define his fighting style: "Float like a butterfly, sting like a bee. The hands can't hit what the eyes can't see." In the end, Clay won by technical knockout.
(http://www.bustle.com/articles/164846-the-origin-of-float-like-a-butterfly-sting-like-a-bee-proved-muhammad-alis-greatness-early)

ということだ。これは1964年、チャンピオンだったリストンに挑戦し、下馬評を覆してアリが勝って新王者となった対戦のことである。さらに Wikipedia は、アリのトレーナー Drew Bundini Brown がこの言葉の”原作者”だったとして、

- Brown was also one of Ali's speech writers. He wrote certain poems, including that which coined Ali's famous and oft quoted:
Float like a butterfly, sting like a bee, your hands can't hit what your eyes can't see.
Ali used the poem to taunt Sonny Liston at the press conference prior to his February 25, 1964 victory over the WBA andWBC champion to claim both titles.
(https://en.wikipedia.org/wiki/Drew_Bundini_Brown)

と書いている。

同じような主旨の記事は他にも見つかった。ということで、記念すべき1964年の対戦の際、すでにアリはこの言葉を使っていたこと、そして実際の考案者は彼自身ではなくトレーナーのブラウンだったらしいことがわかった。

ボクシングに詳しい人には常識なのかもしれないし、逆に興味のない人にとってはどうでもいいことだろうが、私としては雑学がまたひとつ増えた気分になったので、書いてみたしだいである。

余談だが、別の記事によると、フォアマン戦でアリが言った言葉は、もう少し長く引用すると、

- Float like a butterfly, sting like a bee. His hands can't hit what his eyes can't see. Now you see me, now you don't. George thinks he will, but I know he won't.

だったそうだ。「チョウのように舞い、ハチのように刺す。ヤツのパンチが当たるわけはない。ヤツにはオレが見えないからな」に続いて言った "Now you see me, now you don't." は、以前取り上げた、手品でモノを消す時に使うお決まりの表現(参考→ "Now you see it, now you don't.")のもじりといえるだろう。

アリは "Float like a butterfly..." のほか、"I'm the greatest." などの”名言”、さらに挑発的な言葉(参考→ trash talk, talk trash 「毒舌(を吐く)」「こきおろす」)を対戦相手に浴びせることでも知られていただけに、ネットには「モハメド・アリ語録集」といった記事も多い。

どれを読んでもおもしろいが、例えば「ザ・サン」の SunSport remembers Muhammad Ali’s greatest quotes は、思わず笑ってしまうユーモラスな発言から始めていて、親しみやすい。
(http://www.thesun.co.uk/sol/homepage/sport/boxing/7192892/Float-like-a-butterfly-sting-like-a-bee-His-hands-cant-hit-what-his-eyes-cant-see-SunSport-remembers-Muhammad-Alis-greatest-quotes.html)

また下記の映像は、前半に彼の数々の発言(肉声)が字幕つきで出てきてわかりやすい。



アリの死はアメリカで大々的に扱われているようで、単なる有名人以上の存在であったことがうかがえる。若くしてヘビー級のチャンピオンになった後、ベトナム戦争を批判し徴兵を拒否してタイトルを剥奪され、黒人差別反対の活動に取り組み、イスラム教に改宗して改名。リングでは何度か王座から転落したもののそのたびにカムバックを果たした。そして引退後はパーキンソン病と闘った。

そうしたモハメド・アリは、多くの人にとって、ボクシングだけでなく人生を闘い抜いた闘士として映っているのだろう。私にとって最も鮮明で印象的な記憶も、対戦相手をマットに沈める「世界最強の男」というより、ちょうど20年前の1996年、アトランタオリンピックの開会式で聖火リレーの最後に登場し、病で手を震わせながら火を灯したアリの姿である。

R.I.P. (Rest in peace.)

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