The penny dropped. 「やっとわかった」「合点がいく」 [単語・表現]
先日同様、イギリスの諜報機関 MI6 に潜んでいた大物スパイ、キム・フィルビーについてのノンフィクション A Spy Among Friends から取り上げよう。The penny (has) dropped. は、この貨幣単位から想像がつくようにイギリスで使われる表現である。
Philby の親友で MI6 で頭角をあらわしてきた Nicholas Elliott が保安担当者から身辺調査(原文では vetting、参考→閣僚の「身体検査」の英訳)のための質問を受けている場面に出てきた。
- Security officer: 'Does your wife know what you do?'
Elliott: 'Yes.'
Officer: 'How did that come about?'
Elliott: 'She was my secretary for two years and I think the penny must have dropped.'
Officer: 'Quite so.'
(A Spy Among Friends by Ben Macintyre)
エリオットの妻は MI6 で彼の秘書をしていたので知っていてもおかしくないはずだが、彼のケースはいわば例外で、こうした質問が用意されているということは、やはり諜報部員とは家族にも自分が本当は何をしているのか隠すものなのだろう。
そりゃ当たり前だろ、と言われればそれまでだが、妻に知られると困ることが何ひとつない平凡なサラリーマン生活を送っている私には、ワクワクするようなことに感じられ、何だかうらやましい。
それはともかく、この表現は、自動販売機に硬貨を入れると動くことから、「やっとわかる」「納得した」という意味であると辞書に書かれている。
drop にこじつけて訳せば「腑に落ちる」といえる場合があるかもしれないが、「腑に落ちない」からの逆成語 back-formation のはずで、正しい日本語とはいえないだろうから、改まった場や文章では控えたほうがよさそうだ。
念のため自分の学習ノートを見直したら、かつて読んだパティ・ボイド(ジョージ・ハリスンとエリック・クラプトンの元妻)の自伝でこの表現を目にしてメモしていたことがわかった。この本については数年前に何回か書いたことがあるが(→ go berserk 「怒り狂う」、Al-Anon 「アルコール中毒患者の家族会」、half 「2人組の一方、片割れ」)、その時には取り上げていなかったので、ここで引用しよう。
- When I showed it to George and others in the kitchen at the time, "Look at this weird letter," they laughed and dismissed it as I had.
I thought no more about it until that evening the phone rang. It was Eric. "Did you get my letter?"
"Letter?" I said. "I don't think so. What letter are you talking about?" And then the penny dropped. "Was that from you?" I said.
(Wonderful Tonight by Pattie Boyd)
ついでにイギリスの辞書にあった定義を書き留めておこう。
- If you say the penny dropped, you mean that someone suddenly understood or realized something. (mainly British, informal)
'Did he know who you are?'—'I think so. I think the penny dropped.'
(COBUILD Advanced British English Dictionary)
ネットの情報を見ると、20世紀初めの用例をあげて、確かに penny-in-the-slot mechanism に由来する表現だとしている説明がある一方で、公衆トイレを利用する際に硬貨を入れてドアを開けたことから、などといった異説もいくつかあるようだ。
しかし実のところ、自動販売機にせよ化粧室にせよ、なぜそれが「わかった」という意味につながるのか、今ひとつ飲み込めずにいる。私の頭の中の penny はなかなか drop してくれない。
過去の参考記事:硬貨が使われている英語表現
・two cents 「意見、考え」
・お金の数にからんだ表現
にほんブログ村
Philby の親友で MI6 で頭角をあらわしてきた Nicholas Elliott が保安担当者から身辺調査(原文では vetting、参考→閣僚の「身体検査」の英訳)のための質問を受けている場面に出てきた。
- Security officer: 'Does your wife know what you do?'
Elliott: 'Yes.'
Officer: 'How did that come about?'
Elliott: 'She was my secretary for two years and I think the penny must have dropped.'
Officer: 'Quite so.'
(A Spy Among Friends by Ben Macintyre)
エリオットの妻は MI6 で彼の秘書をしていたので知っていてもおかしくないはずだが、彼のケースはいわば例外で、こうした質問が用意されているということは、やはり諜報部員とは家族にも自分が本当は何をしているのか隠すものなのだろう。
そりゃ当たり前だろ、と言われればそれまでだが、妻に知られると困ることが何ひとつない平凡なサラリーマン生活を送っている私には、ワクワクするようなことに感じられ、何だかうらやましい。
それはともかく、この表現は、自動販売機に硬貨を入れると動くことから、「やっとわかる」「納得した」という意味であると辞書に書かれている。
drop にこじつけて訳せば「腑に落ちる」といえる場合があるかもしれないが、「腑に落ちない」からの逆成語 back-formation のはずで、正しい日本語とはいえないだろうから、改まった場や文章では控えたほうがよさそうだ。
念のため自分の学習ノートを見直したら、かつて読んだパティ・ボイド(ジョージ・ハリスンとエリック・クラプトンの元妻)の自伝でこの表現を目にしてメモしていたことがわかった。この本については数年前に何回か書いたことがあるが(→ go berserk 「怒り狂う」、Al-Anon 「アルコール中毒患者の家族会」、half 「2人組の一方、片割れ」)、その時には取り上げていなかったので、ここで引用しよう。
- When I showed it to George and others in the kitchen at the time, "Look at this weird letter," they laughed and dismissed it as I had.
I thought no more about it until that evening the phone rang. It was Eric. "Did you get my letter?"
"Letter?" I said. "I don't think so. What letter are you talking about?" And then the penny dropped. "Was that from you?" I said.
(Wonderful Tonight by Pattie Boyd)
ついでにイギリスの辞書にあった定義を書き留めておこう。
- If you say the penny dropped, you mean that someone suddenly understood or realized something. (mainly British, informal)
'Did he know who you are?'—'I think so. I think the penny dropped.'
(COBUILD Advanced British English Dictionary)
ネットの情報を見ると、20世紀初めの用例をあげて、確かに penny-in-the-slot mechanism に由来する表現だとしている説明がある一方で、公衆トイレを利用する際に硬貨を入れてドアを開けたことから、などといった異説もいくつかあるようだ。
しかし実のところ、自動販売機にせよ化粧室にせよ、なぜそれが「わかった」という意味につながるのか、今ひとつ飲み込めずにいる。私の頭の中の penny はなかなか drop してくれない。
過去の参考記事:硬貨が使われている英語表現
・two cents 「意見、考え」
・お金の数にからんだ表現
A Spy Among Friends: Philby and the Great Betrayal
- 作者: Ben Macintyre
- 出版社/メーカー: Bloomsbury Publishing PLC
- 発売日: 2015/03/12
- メディア: ペーパーバック
Wonderful Tonight: George Harrison, Eric Clapton, and Me
- 作者: Pattie Boyd
- 出版社/メーカー: Three Rivers Press
- 発売日: 2008/05/27
- メディア: ペーパーバック
にほんブログ村
にほんブログ村← 参加中です
コメント 0