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add insult to injury 「傷に塩を塗る」「追いうちをかける」「踏んだり蹴ったり」 (泥仕合と化したアメリカ大統領選) [アメリカ政治]

きのうは祝日だったので、自宅でアメリカ大統領選挙の第2回テレビ討論をインターネットラジオのライブで聞いた。本来なら候補者が政策論争を交わし有権者に訴える一騎打ちの場のはずだが、もう完全にショーと化してしまったなと感じた。

2人とも脛に傷を持ち突っ込み突っ込まれる弱点を抱えており、「史上最低の大統領選挙」とまで言われていたが、それでも投票日が近づけば、さすがに政策論争が中心になるだろうと思っていた。しかし甘かったようだ。

アメリカ人なら敏感であろう脱税をめぐる問題がトランプに持ち上がり、続いてすっぱ抜かれた過去の下品な発言がとどめを刺したような気がする。大統領選挙では毎回、政策と並んで「大統領としての資質」が問われるが、今回は当の共和党内部から今の今になって「トランプ降ろし」の声が出るほどになった。案の定、討論会では政策論争は霞んでしまった、というより付け足しのようになってしまった。

はじめから件の発言が取り上げられたのは仕方がないだろうが、トランプは "locker room talk" (ロッカールームで男が交わす下ネタ話)に過ぎないと抗弁したうえ、唐突に「イスラム国」に話を振り、格好のネタを提供した。聞いていた私も、「あれ、何でISISなんだ?そんな質問が出ていたっけ?」と自分のリスニング力に不安を感じたが、後でウェブを見たらアメリカ人たちからも当惑の声が出ていることを知り、安心すべきなのか嘆くべきか悩んでしまった。

その後もトランプは、質問に正面から答えなかったり、司会者の注意を無視して話し続けたり、さらにペンス副大統領候補と政策をすりあわせていないと取れる発言をしたりと、とてもアメリカ大統領の候補者とは思えなかった。

対するクリントンは落ち着いていたが、やはり政策面の発言より相手への非難の方が印象に残ってしまった。かといって徹底的な攻撃には至らず安全圏に留まっていたように感じたのは、そうした攻撃をした結果トランプがメール問題に集中して反撃に出れば、ヒラリーもその弁明に追われてボロを出すリスクが高まるので、それを避けるために“寸止め”にしたのではないかと勘ぐりたくなった。

さて今回は、このディベートについての記事から add insult to injury という表現を取り上げよう。評論家のコメントを集めたCNNの "Who won the town hall debate?" にあったものだ。

トランプが突然「イスラム国」の話を持ち出し、さらに「自分が大統領になったら検察にメール問題を調べさせ、クリントンは刑務所行きだ」と述べたこと(この発言も今回の討論会が提供した話題のひとつ)について、David Gergen 氏が次のように書いている。

- But his apology was limited in scope, seemed slightly dismissive, and went off track when he mixed ISIS into the conversation.
Adding insult to injury, he then went into an incredulous rant about Hillary's deleted emails. It was an entirely legitimate attack until he vowed that if elected, he would "instruct" his attorney general to appoint a special prosecutor to pursue her and that if he were President today, she would be in jail.
("David Gergen: Trump blows a big one" CNN, Oct. 10, 2016)

もうひとつ実例を引用しよう。以前読んだビリー・ジョエルの伝記で目にとまってメモしていたもので、1982年に起きた彼のオートバイ事故について書いた部分に出てきた(それにしても現在のビリー・ジョエルは若かった頃の面影もなく別人のような風貌になってしまい、彼の数々のヒット曲を愛聴していた私にはいささかショックである)。

- An elderly local Long Island resident, Cornelia Bynum (who, to add insult to injury, would later sue), "hit him right in the front of the motorcycle, which turned the wheel and jammed his hand between the handlebar and the gas tank. Butit knocked him off the bike too."
(Billy Joel: The Definitive Biography by Fred Schruers)

私が使っている電子辞書の英和辞典でこの表現を見ると、「ひどい目にあわせた相手にさらに侮辱を加える」「踏んだりけったりの目にあわせる」といった訳が並んでいる。ただ、上記トランプの文章は、相手(クリントン)をさらにひどい目にあわせたということではなく、「自分の状況がますます悪くなった」と取る方が自然だと思う。

英語圏の辞書の説明や例文を見ると、確かに自分にかかわることについても使えるらしいことがわかる。

- to make a bad situation worse; to hurt the feelings of a person who has already been hurt.
First, the basement flooded, and then, to add insult to injury, a pipe burst in the kitchen.
My car barely started this morning, and to add insult to injury, I got a flat tire in the driveway.
(McGraw-Hill Dictionary of American Idioms and Phrasal Verbs)

- Hurt a person's feelings after doing him or her harm; also, make a bad situation worse.
For example, Not only did the club refuse him, but it published a list of the rejected applicants-that's adding insult to injury , or The nearest parking space was half a mile away, and then, to add insult to injury, it began to pour.
(The American Heritage Dictionary of Idioms)

この単語は insult と injury の頭が韻を踏んでいて覚えやすいが、insult から salt をおやじギャグ的に連想して「傷口に塩をすり込む」と意味を覚えることもできそうだ。

そう考えたとたん、まさに意味もぴったり同じの rub salt into the (someone's) wound というイディオムがあるのを思い出したので、参考まで。

大統領選挙の討論会はもうあと1回あるが、次も同じような非難合戦となるのは必至のような気がする。それも、ヘタするともっと程度が下がった形で。


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