call 「(結果を)予測する」「判定する」 (”まさか”のトランプ当選) [アメリカ政治]
勤め先の学生アルバイト君の口調を借りれば「まじっすか?」と私もマジで言いたくなったアメリカ大統領選挙の結果である。トランプ候補の勝利を報じる米メディアも、客観性をかなぐり捨てて stunning とか shocking といった形容詞を躍らせていた。今年の国際ニュースでは Brexit に続く“番狂わせ“というべきだろう。
数日前のエントリで、事前の世論調査があてにならない可能性があることについて書いたが(→ likely voter 「実際に投票する可能性の高い人」)、それでも現実のものになるとやはり驚きである。
表立ってトランプ支持を表明しない「隠れトランプ」支持者の存在が以前から指摘され、それが実態のあるものなのか、疑問視する声も含めて論じる記事も目にしたが(「隠れトランプ」票は、英語でも文字通り hidden Trump supporters/voters などと呼ばれる)、結果的に各種の世論調査が外れた形になったのを見ると、やはりその要因が大きかったということになるのだろう。
その意味では、Brexit の番狂わせと似ているようで、実は少し違うのかもしれない。イギリスの国民投票は、「どうせ『EU離脱』という結果になるはずがないから、自分は離脱支持に入れてやろう」という“あまのじゃく票”もあったという。だから後に後悔の声がわきあがることにもなった。それとは違ってトランプの支持は積極的で強固、消極的な支持はむしろクリントン候補の方だったといえるはずだ。
そのヒラリーは、ヒスパニックやアフリカ系の得票がオバマ大統領の当選時には及ばなかったそうで、意外なことに女性の4割もがトランプに投票したということだから、女性票も固めきれなかったことになる。
さらなる選挙結果の分析や今後の展望は、専門家の記事を今後じっくり読むことにしたいが、これで終わりにするのも何なので、選挙がらみで目にすることがある call について少し書くことにしたい。ごくごく基本の単語だが、「(結果を)予想する、予報する」「当てる」「判定する」といった意味がある。
トランプ勝利を報じる TIME 誌のウェブ記事を読んだら、この単語が続けて出てきた。
- “I pledge to every citizen of our land that I will be president for all Americans,” Trump said in his victory speech after the Associated Press called the race for him at 2:30 am Wednesday morning.
("Donald Trump Wins the 2016 Election" TIME Nov. 9 2016)
AP通信が「トランプが当選すると予測した」「トランプの当選が確実になったと報じた」というように考えればいいだろう。なお「タイム」にもの申すのも何だが、am と言うのなら morning は不要ではないだろうか。
同じ記事から、次は「専門家はクリントン候補の勝利を予測していた(が、すべて外れた)」という文脈である。こちらは「激戦州の結果が固まる」というように訳せるだろう。
- “It was Donald Trump versus almost all the experts … it looks like Donald Trump was right,” Jake Tapper said on CNN at 10:40 pm on election night (before major battleground states had been called).
(ibid.)
以下、オックスフォードのウェブ辞書からも引用しよう。例文にある too close to call はイディオムとして考えてもよさそうだし、じゃんけんに相当するコイン投げで「表か裏か」を当てる際にもこの call が使われることがわかる。
- (of an umpire or other official in a game) pronounce (a ball, stroke, or other action) to be the thing specified.
‘The umpire called the ball out.’
Predict the result of (a future event, especially an election or a vote)
‘in the Northeast, the race remains too close to call’
‘few pundits risked calling the election for either Bush or Kerry’
‘In 2000, NBC was the first network to predict the result - calling Florida for Al Gore at 1949 EST.’
(the outcome) of tossing a coin.
‘Burnley called heads and won the toss’
‘“You call,” he said. “Heads or tails?”’
(Oxford Dictionaries)
なお、スポーツの「コールドゲーム」も called game である(*cold game ではない)。雨などで試合を中止することだが、この call は「(中止などを)宣言する」ということで、「判断・判定を宣する」と考えれば、今回の意味とつながっているとみることもできるのではないか。
さて、上記の TIME の記事にはさらに call が使われた個所がある。また「隠れトランプ」票が、ここでは secret や silent で表現されていた。全文の締めにもあたるので、引用しよう。
- Trump told his followers not to believe the polls showing him down and promised the pundits that there were secret Trump voters out there. “100%” his campaign manager Kellyanne Conway tweeted early Wednesday morning before the election was called, in response to a Washington Post writer tweeting, “There was a silent Trump vote. A big one.”
It turns out Trump was right.
(ibid.)
トランプ優勢が伝えられた時から日本を含め各国の株価は下がった。またイラク戦争当時、カナダに移住するアメリカ人が増えたそうだが、今回の選挙を受けて、カナダ政府の移住案内のウェブサイトにはさっそくアメリカからのアクセスが殺到しているという。たった1人でここまでの変化が起きるとは、アメリカ大統領の影響力はさほどに大きい。しかも今後トランプ氏が実際にどのような政策を行うのか、誰にも確かなことはわからない。
それにしても、「トランプ大統領」にせよ President Trump にせよ、この呼び名に慣れるまでには時間がかかりそうだ。
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数日前のエントリで、事前の世論調査があてにならない可能性があることについて書いたが(→ likely voter 「実際に投票する可能性の高い人」)、それでも現実のものになるとやはり驚きである。
表立ってトランプ支持を表明しない「隠れトランプ」支持者の存在が以前から指摘され、それが実態のあるものなのか、疑問視する声も含めて論じる記事も目にしたが(「隠れトランプ」票は、英語でも文字通り hidden Trump supporters/voters などと呼ばれる)、結果的に各種の世論調査が外れた形になったのを見ると、やはりその要因が大きかったということになるのだろう。
その意味では、Brexit の番狂わせと似ているようで、実は少し違うのかもしれない。イギリスの国民投票は、「どうせ『EU離脱』という結果になるはずがないから、自分は離脱支持に入れてやろう」という“あまのじゃく票”もあったという。だから後に後悔の声がわきあがることにもなった。それとは違ってトランプの支持は積極的で強固、消極的な支持はむしろクリントン候補の方だったといえるはずだ。
そのヒラリーは、ヒスパニックやアフリカ系の得票がオバマ大統領の当選時には及ばなかったそうで、意外なことに女性の4割もがトランプに投票したということだから、女性票も固めきれなかったことになる。
さらなる選挙結果の分析や今後の展望は、専門家の記事を今後じっくり読むことにしたいが、これで終わりにするのも何なので、選挙がらみで目にすることがある call について少し書くことにしたい。ごくごく基本の単語だが、「(結果を)予想する、予報する」「当てる」「判定する」といった意味がある。
トランプ勝利を報じる TIME 誌のウェブ記事を読んだら、この単語が続けて出てきた。
- “I pledge to every citizen of our land that I will be president for all Americans,” Trump said in his victory speech after the Associated Press called the race for him at 2:30 am Wednesday morning.
("Donald Trump Wins the 2016 Election" TIME Nov. 9 2016)
AP通信が「トランプが当選すると予測した」「トランプの当選が確実になったと報じた」というように考えればいいだろう。なお「タイム」にもの申すのも何だが、am と言うのなら morning は不要ではないだろうか。
同じ記事から、次は「専門家はクリントン候補の勝利を予測していた(が、すべて外れた)」という文脈である。こちらは「激戦州の結果が固まる」というように訳せるだろう。
- “It was Donald Trump versus almost all the experts … it looks like Donald Trump was right,” Jake Tapper said on CNN at 10:40 pm on election night (before major battleground states had been called).
(ibid.)
以下、オックスフォードのウェブ辞書からも引用しよう。例文にある too close to call はイディオムとして考えてもよさそうだし、じゃんけんに相当するコイン投げで「表か裏か」を当てる際にもこの call が使われることがわかる。
- (of an umpire or other official in a game) pronounce (a ball, stroke, or other action) to be the thing specified.
‘The umpire called the ball out.’
Predict the result of (a future event, especially an election or a vote)
‘in the Northeast, the race remains too close to call’
‘few pundits risked calling the election for either Bush or Kerry’
‘In 2000, NBC was the first network to predict the result - calling Florida for Al Gore at 1949 EST.’
(the outcome) of tossing a coin.
‘Burnley called heads and won the toss’
‘“You call,” he said. “Heads or tails?”’
(Oxford Dictionaries)
なお、スポーツの「コールドゲーム」も called game である(*cold game ではない)。雨などで試合を中止することだが、この call は「(中止などを)宣言する」ということで、「判断・判定を宣する」と考えれば、今回の意味とつながっているとみることもできるのではないか。
さて、上記の TIME の記事にはさらに call が使われた個所がある。また「隠れトランプ」票が、ここでは secret や silent で表現されていた。全文の締めにもあたるので、引用しよう。
- Trump told his followers not to believe the polls showing him down and promised the pundits that there were secret Trump voters out there. “100%” his campaign manager Kellyanne Conway tweeted early Wednesday morning before the election was called, in response to a Washington Post writer tweeting, “There was a silent Trump vote. A big one.”
It turns out Trump was right.
(ibid.)
トランプ優勢が伝えられた時から日本を含め各国の株価は下がった。またイラク戦争当時、カナダに移住するアメリカ人が増えたそうだが、今回の選挙を受けて、カナダ政府の移住案内のウェブサイトにはさっそくアメリカからのアクセスが殺到しているという。たった1人でここまでの変化が起きるとは、アメリカ大統領の影響力はさほどに大きい。しかも今後トランプ氏が実際にどのような政策を行うのか、誰にも確かなことはわからない。
それにしても、「トランプ大統領」にせよ President Trump にせよ、この呼び名に慣れるまでには時間がかかりそうだ。
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Tempus fugit様
ご無沙汰しております。
hidden Trump supportersのhiddenは、closetに言い換えられるのではないでしょうか。
callについても書かせていただきます。ビリヤードで最後に残った球が入る穴を予想することもcallと言うということをこの記事を通じて思い出しました。。
「隠れファン」について小生が書いたブログの記事がありましたので、URLを貼らせていただきます。
http://d.hatena.ne.jp/A30/touch/searchdiary?word=%22closet+fan%22
何かのお役に立てれば幸いです。
by Kawada (2016-11-10 10:49)
英語の勉強をしながら大統領選は何度も経験し、さまざまな場面のスピーチを聞いてきましたが、今回は聞く気が全く起こりません。先ほどヒラリーのConcession Speechをやっと見る気がおきました。彼女のは強い!でも素晴らしい女性だとわたしは思います。Trump勝利決定のとき、たまたま、イギリス人、イタリア人、カナダ人、フィンランド人が近くにいました。みな一様に落ち込んでいました。Brixitの次がこれか、という気持ちのようです。
さて、選挙戦で思い出すのが、2000年GoreとBushの時で、Too Close To Callという言葉がどのTV局の画面にも大きく表示されました。その時には、そのcallの使い方がよく分からず、もっと知りたかったのですが、今と違ってネットで検索しても、ものごとがすぐに解決できるわけではなかったため、歯がゆい思いをしていたのを思い出します。今は、同じ思いで勉強をしている方がいるということを知れる良い時代です。(今Wiki(日本語)で2000年大統領選のところをみてみましたら、Too Close To Callと各メディアで報じられたと書いてありました。驚きです。Wikiでなんでも知れるのですね。)
by Keeyo (2016-11-10 16:18)
Kawadaさん、ネットで検索すると確かに closet Trump voters という表現も見つかりますね。ありがとうございました。
by tempus fugit (2016-11-10 23:35)
Keeyoさん、コメントありがとうございました。ヒラリーはこれまで演説に人間味が感じられないとさんざん言われてきましたが、心に響くスピーチが敗北宣言だったとすれば何とも皮肉なものです。
ひるがえってトランプのスピーチは確かに「大統領の演説」として聞く気にはなれませんね。選挙戦だったいうこともあるのでしょうが、それでも来年の1月の就任演説で、話し方がガラリと変わって格調を感じさせるものになるとはとても思えませんね。
by tempus fugit (2016-11-10 23:45)
参考になりました
by nana (2016-11-11 10:35)
まさにわたくしも同じことを思いました。本当に皮肉なものです。
民主党の大統領候補に決まった時の演説に、PBSのコメンテイターたちは、ミッシェル夫人のスピーチは心に訴える素晴らしいものだったけれど、クリントンはもともとそうスピーチが上手じゃないしまあこんなもんでしょう、もっと心に訴えたほうがよかったけど、でも、このスタイルが彼女だから、ということを言っていました。わたしも同感でした。ですが、今回のConcession Speechはウルウルするような場面もあり、彼女の信念のつよさに圧倒され、そして女性としてその強さに尊敬できるという気持ちになりました。sometimes painfulと言ったときに、自分の人生のpainfulだったことを思い、まっすぐな信念があるにもかかわらず思い通りにならずにつらい・悔しい思いをしたことが容易に想像でき、長年に生きてきた人間として気持ちが伝わって涙がでました。
このスピーチを聞いて隠れTrump votersは、失敗したかもと思ったかもしれません。隠れTrump supportersは白人インテリの中の、何でもかんでも、PC、PCと大騒ぎの世の中に逆差別を感じfed upしている人たちなのだ、という記事がありましたが、かなり納得いたしました。やはり、民主党3期は続かず、揺り戻しがあるということも事実かもしれません。
今後も政治や時事に興味をもてる国になっていただき、英語学習者の意欲を掻き立てていただきたいと願うばかりです。
by Keeyo (2016-11-11 15:22)
nanaさん、ありがとうございました。
by tempus fugit (2016-11-11 20:02)
Keeyoさん、今回のヒラリー演説で私が連想したのが、1980年の大統領選挙で民主党内の指名を現職のカーター大統領と争って敗れた際のエドワード・ケネディ上院議員(当時)の敗北表明演説です(以前のエントリでちょっとだけ言及したことがあります↓
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2008-08-28)。
引き際・散り際の見事さに感じ入ってしまうのは、私が日本人だからかもしれませんが、見事な最後の輝きだったと思います。
一方、冷静になって考えると(私はアメリカ人ではないので正しいかどうかはわかりませんが)、オバマ氏の"change"や"Yes, we can."にあたるような、皆の夢をかきたてるような何かがやはりヒラリーには欠けていたのだと思います。また旧来の政治インサイダーというイメージやメール問題に加えて、「クリントン財団」や莫大な講演料と言ったカネにまつわる話も、生活に苦しむ有権者層からそっぽを向かれた要因のひとつでなのでしょう。
それでも、僅差でクリントンが勝つと思っていたので、本当に驚きました。
トランプが大統領に選ばれたことは変えようがないので、実際に就任してから、現実的な路線に立ち、ビジネスマンとしての感覚を良い方に生かして政権運営にあたってくれるようにと思うばかりです。
先に書いた1980年の大統領選挙で現職のカーターを破って当選した共和党のレーガンは、当初、「俳優上がりのタカ派」とさんざん叩かれ、ソ連と戦争を起こすのではとすら言われていました。しかし実際には彼は冷戦を終わらせるきっかけを作り、今ではここ数十年で最も評価された大統領となっています。トランプも、そうした良い意味でのサプライズをもたらしてくれる可能性がないとは・・・やっぱりないかなあ。
by tempus fugit (2016-11-11 20:42)