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「美」ではない、皮肉の beauty (トランプ、BBCにイヤ味) [注意したい単語・意外な意味]

この週末、オバマ氏の退任演説とトランプ氏の当選後初会見にネットで接した。練り込んだスピーチと即興の応答がある会見は単純には比較できないが、それでも2人のキャラやスタイル、さらに品格の違いが今さらながら印象的だった。

今回は後者から beauty について書いてみたい。単語自体は初歩の初歩だが、表面的な意味を捉えただけではダメということを思い知らされた実例があったからだ。

まず会見全体の書き起こしをウェブで読んでみた。その中に次のようなやりとり(質疑応答)があった。

QUESTION: From BBC news. Ian Pannell from BBC news.
TRUMP: BBC news. That’s another beauty.

この程度なので、ここは読み流し状態である。beauty は「美人」だとすれば、女性記者にトランプらしい賛辞というかお世辞を言ったのかと一瞬思っただけで、すぐに先へと読み進んだ。

ところが、全部を読み終わった後で会見の動画を見て「あっ」と思った。BBCの記者は女性ではなく男性だったのだ。画面には映っていないが、声から男だとわかる。

気を取り直して考えると、動画を見なくても transcript を読んだだけで、「また美人が出てきましたね」のような解釈はヘンだとすぐに気がつかなくてはならなかった。

Ian は男の名前である。そして "BBC news. That's another beauty." をまとまりとして考えれば、仮に女性記者だったとしても美貌についての反応としてはおかしい。指している対象はBBCのはずだ。読み流しだったからという言い訳は通用しないお粗末な間違いである。

では beauty は何を意味しているのだろうか。また何を受けて another なのか。

今回の会見で日本のマスメディアでもよく取り上げられていたのは、質問しようと食い下がるCNNの記者をトランプが何度もさえぎって "Not you." "Quiet." "Don’t be rude." また"Your organization is terrible." "You are fake news." と批判した部分だ。

BBCの質問は、この荒れたシーンのしばらくあとに出てくる。またトランプが既存メディアを嫌っているのはよく知られている。そこで、先に出てきたCNNにひっかけてBBCに皮肉を言った、とは考えられないだろうか。「やれやれ、今度は天下のBBCさんのお出ましですか」といった感じである。

BBC自身が今回の会見をどう伝えたのか、サイトの記事を読んだところ、私の考えを裏づけるような記述があった。

- CNN, which published a multi-sourced reported article about the intelligence briefing Mr Trump received based in part on that dossier, is "terrible" and trafficks in "fake news". The president-elect verbally sparred with CNN reporter Jim Acosta, refusing to take his questions.(中略)
The president-elect even took a swipe at BBC News. "That's another beauty", he said when BBC correspondent Ian Pannell introduced himself.
("Trump press event a theatre of the absurd" BBC Jan. 11, 2017)

swipe は今やスマホの”スワイプ”やカードを読み取り機に通す動作の方が知られているかもしれないが、そもそもは「横殴り」ということで、転じて「批判」「辛辣な言葉」を指す。 take a swipe at は「打つ、叩く」の他に「非難する」(さらに「試みにやってみる」という意味も辞書に載っている)。

またこの部分には Beat the press という小見出しがついている。つまりここは大げさに言えば、「トランプはCNNを非難しただけでなく、返す刀でBBCもなで斬りにした」というようなことを書いているわけである。

beauty は「美人」「美貌」「美容」「美観」などの「美」のほか、「見事なもの」「長所、優れた点」「利点、取り柄、ミソ」という意味もある。今回は、そうしたほめ言葉を反語的に使ったものと考えればいいのだろう。

逆の意味で使われることを明確に書いている辞書もあった。

- (話/主に皮肉)とんでもないこと;異常なこと
My sunburn was a real beauty. 日焼けは本当にひどいものだった
(ランダムハウス英和大辞典)

- You got a real beauty of a black eye in the fight. けんかで目のまわりにひどい黒あざができた
(ジーニアス英和大辞典)

- His mistake was a beauty. 彼の失敗は傑作だった(皮肉を込めた言い方)
(アンカーコズミカ英和辞典)

最初の2つは、たとえば「すばらしくひどい」とか「感心するほどひどい」のような訳にすれば、beauty 本来の意味を多少なりとも生かすことができるのではと思ったが、まあこれは趣味の問題だろう。

ところで今回私のくやしさを倍増をさせたのは、この反語的な意味には三十年以上も前に類例で出会っていたことである。

これまで何度か書いたことがあるが、私は小学生の時に Star Trek というTVドラマのファンになった(近年、設定を刷新して作られている同名の映画の元祖である)。当時はビデオがなかったので代替物として映画やドラマの小説化が盛んだったが、このシリーズのペーパーバックも日本の洋書店に置かれていて、高校生になると何冊も買い求めた。私にとってはこれが英語の教科書のような存在となった。

そのノヴェライズ版9作目に収録されている Obsession というエピソードは、主人公である宇宙船指揮官が過去に倒せなかった危険なガス状生物に再び出会い、今度こそと執拗に追跡するというストーリーである。宇宙空間を飛んでいた生物に宇宙船がようやく追いつき、モニタースクリーンに相手が映しだされたという場面で、次のようなくだりがある。

- On the screen, now only a small subject, the strange creature seemed to be pulsating. Kirk said, "Hello, beautiful."
(Obsession in Star Trek 9 adopted by James Blish)

ここでは beauty ではなく beautiful だが、本来の「美しい(人、もの)」の逆のような意味であることは高校生の私にもわかった。「(皮肉)ひどい、ひどく嫌な」という語義をつけている辞書もある。

余談だが、こんな細かい箇所をなぜ今でも覚えているかといえば、別に私が凄い記憶力の持ち主だからではなく、この Obsession はシリーズの中でも私のお気に入りのエピソードのひとつで、小説版も何度も読んだからだ。

まず小学生の時にテレビで日本語版を見て非常におもしろいと思った。ペーパーバックの Star Trek 9 を買うと、このエピソードに集中的に挑戦したのは当然だった。上記のようなストーリーなので、obsession の意味もこれですんなりと覚えた(邦題は子ども向けの「復讐!ガス怪獣」となっているのが悲しいが)。

さらに後年、メルヴィルの名作 Moby-Dick (参考→ Call me Ishmael. 「まかりいでたのはイシュメールと申す風来坊だ」(メルヴィル「白鯨」))の内容を下敷きにしていると知り、英語文化の一端に触れたような気がしたものだ。

なお、映像をディスクで見られるようになってから、本来のドラマには上記の "Hello, beautiful." がないことに気づいた。カットされたのでなければ小説化にあたって作家ブリッシュが創作したのだろう。

余談が長くなったが、「皮肉にも使う」ことを知らなくても、辞書の用例や「スター・トレック」の例は、表面的な意味とは逆のことを表していると内容や文脈からわかるだろう。しかしトランプの記者会見のような場合でも一発で見抜けなければ、とうてい英語の上級者とはいえまい。私は今回その”試験”に通らなかったわけで、これからも修業の道が続くことになる。

まあ、そんな難しくお堅いことは考えずに、「美人にはどんなウラがあるかわからない、だから用心を」、そこで「beauty にもご注意」というように覚えた方が、実際の役に立つかもしれないな。




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by 矢田@医療職兼業トレーダー (2017-01-17 22:47) 

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