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"alternative facts" ~ トランプ側近が使った「ウソ」の言い換え? [アメリカ政治]

トランプ新大統領の就任演説について何か書こうと思っていたら、彼の顧問が発した "alternative facts" という言葉が物議を醸していることを知った。「2016年の言葉」のひとつに選ばれ、私も先日取り上げた単語 post-truth 「事実の軽視」(→こちら)ともつながりがあるように感じられる。

この言葉が飛び出すきっかけとなったのは、「就任式の観衆の数はオバマ前大統領の時よりも少なかった」と報じられたことだ。これについてトランプ側は、「マスコミはウソをついている」と攻撃した。

新任の Spicer 報道官も、初登場の場で縷縷コメントした。その内容はホワイトハウスのサイトで読めるが(余談ながら、大統領の交替にあわせて公式サイトの内容も一挙に変わってしまったのが当然とはいえ何とも寂しい)、次のように「過去最大の人出だった」と言い切っている。

- This was the largest audience to ever witness an inauguration -- period -- both in person and around the globe. (中略) These attempts to lessen the enthusiasm of the inauguration are shameful and wrong.
https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/01/21/statement-press-secretary-sean-spicer

この "period."という物言いがこれまたマスメディアで伝えられたが、その程度のことに報道官がムキになって反論していたことに驚いた。

国家の抱えるさまざまな問題に比べれば、観衆の数などやはり「その程度のこと」と言っていいだろう。ウェブを見ても、「trivial なことなのにトランプにとっては Size matters. らしい」と書いている記事があった。私がアメリカ人に抱いているステレオタイプ的なイメージでは、こうした時は何かうまいジョークを言ってかわすように思えるのだが。

それはともかく、上空から撮った写真の比較で見ると、今回会場に集まった観衆はオバマ氏の時より明らかに少ない。僅差であればまだ反論したくもなるかもしれないが、そんなレベルではない違いである。報道官は「ネット視聴者も含めれば」とも言っているが、その数を一体どうやって調べたのか。いずれにせよ、客観的に確認できる事実とはいえないはずである。

スパイサー報道官のこの発言を擁護する形で、大統領顧問の Kellyanne Conway がNBCの報道番組「ミート・ザ・プレス」 Meet the Press で述べたのが alternative facts である。

アンカーの Chuck Todd が、「なぜ報道官はそうした本当ではないことを言ったのか」とコンウェイ顧問に何度も問いただす。



- TODD: You did not answer the question.

CONWAY: I did answer your question. Yes I did.

TODD: No you did not. You did not answer the question of why the president asked the White House press secretary to come out in front of the podium for the first time, and utter a falsehood. Why did he do that? It undermines the credibility of the entire White House press office on day one.

CONWAY: Don’t be so overly dramatic about it, Chuck. You’re saying it’s a falsehood, and they’re giving Sean Spicer, our press secretary, gave alternative facts to that.

TODD: Wait a minute, alternative facts? (中略) Look, alternative facts are not facts. They’re falsehoods.

ただでさえアメリカのメディアは突っ込むことを存在意義と考えているような印象があるが、マスコミにはケンカ腰のトランプ政権にナメられるわけにはいかないということか、"alternative facts" という言葉が飛び出すと、アンカーも「冗談じゃない」といった感じですかさず Alternative facts are not facts. と言い返す。 映像に見られるように、なんともスリリングなやり取りである。

他社のメディアも、事実ではない、あるいは少なくとも疑念が持たれていることを「代わりとなる事実」と表現したのを黙ってはいられなかったのだろう、こぞって取り上げていた。コメント記事も目についたが、例えばCNNのサイトにあったのは、

- If Trump and his administration are going to continue lying to us, how can we trust any information they release? How can we trust the administration's statements on issues like the unemployment rate, GDP growth or numbers of people signing up for government programs like Obamacare?

And even more concerning, how can we trust anything the Trump administration states about national security issues? When Trump officials tell us that they know who committed a terrorist attack or that they have eliminated terrorists, how can we believe them?
("Dear team Trump,'alternative facts' are lies" CNN Jan.22, 2016)

として、今後トランプ政権が公にすることに信頼が置けなくなるような出来事だと位置づけている。

また「ガーディアン」紙の記事は、トランプが観衆の数にこだわったのは、オバマケアの見直しや反対デモなど論議を呼びそうな他の出来事から目をそらすのが狙いだった、と受け取れるような分析を載せていた。

- Through a provocative tweet or gross insult, he could ignite a firestorm on social media and in the press. The timing is always interesting because when these storms blew, it was often to obscure a deeper and more serious menace.

All the attention paid to the number of people at the inauguration obscured the import of both the executive order on healthcare he signed on Friday and the huge women’s protests on Saturday.
("Sorry, Kellyanne Conway. 'Alternative facts' are just lies" The Guardian Jan.23, 2016)

そして辞書の「メリアム・ウェブスター」のサイトは、"alternative facts" 発言のあと、単語 fact のオンライン検索がうなぎのぼりになったと伝えている。
("Conway: 'Alternative Facts'"
Lookups for 'fact' spiked after Kellyanne Conway described false statements as 'alternative facts')

fact というごく基本的な単語の意味を思わず確かめたくなった人が多かったということだろうか。本来は動かしがたく、alternative が存在しないのが fact のはずなのに、それを疑わなくてはいけない時代がやってきたようである。

それにしてもこの "alternative facts" 発言、2017年は始まったばかりだが、もしかしたら今年の Word of the Year の候補のひとつを早くも提供したことになるのかもしれない。

参考記事:
・真実なんて意味ないさ ~ post-truth (オックスフォード版・2016年の英単語)
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2017-01-12
・alt-right 「オルタナ右翼」とトランプ新政権
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2016-11-25


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綿棒派

少なくとも、就任式の時の群衆は報道されていたほど少ないとはおもえません。
https://m.facebook.com/IvankaTrump/photos/a.388300042681.168752.120745732681/10155048040707682/?type=3&source=48
by 綿棒派 (2017-02-04 02:02) 

tempus fugit

マスコミも「(絶対数が)少なかった」と報じているわけではないと思います。いただいたリンク先の写真よりさらに高い所から広い範囲を撮った画像をオバマ就任式の時と比べているサイトを見る限り、「より少なかった」のは明白であるように感じます。交通機関の混み具合からもそういえるといった情報もありました。

いずれにせよ、今回波紋を呼んだのは観衆の多寡それ自体ではなく、報道官が根拠を示さずに「過去最大」と断言し、それを側近がalternative factsという言葉で擁護したという、トランプ政権のそうした危うさにあるのだろうと思っています。

by tempus fugit (2017-02-04 13:16) 

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