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トランプ大統領に通じなかった安倍首相の "Look at me." [ニュースと英語]

日米首脳会談は、トランプ大統領が無理難題を持ち出すこともなく(今後いろいろ具体的要求を出してくるのだろうと思うが)、まずは成功という印象を内外に与えたようである。週末のTVニュースを見ていたら、安倍総理とのやり取りでちょっとおもしろいシーンがあったので書いておきたい。

その場面とは、ホワイトハウスでの2人のフォトセッションである(photo session のほか、photo opportunity, photo shoot という言い方もある)。



2人に対して、日本側プレスから「こちらもお願いします」と声がかかる。こちらのカメラの方も向いていください、ということだろう。

そしてトランプ大統領が安倍首相に「何て言ったのか」に尋ねると、総理は "Please...look at me." と答える。これを受けて大統領は、"Ah." といって安倍首相をじっと見つめ、そのまま手を握り続ける。

見ていた私は思わず吹き出してしまった。総理は、こっちを向いてください、というカメラマンの求めを訳したつもりなのだろうが、大統領は文字通り「私を見て」という意味に取ったとしか思えない。つまり、安倍さんの英語はトランプ氏には正しく伝わらなかったようなのだ。

ここまで書いてネットを見たら、このシーンはすでに国内外で話題になっていた。上に載せた動画もそのひとつで、タイトルは

- Hilarious Handshake Trump VS Abe Japanese Prime Minister

となっていて、hilarious はホメ言葉とも取れるが、他の動画やネット記事のタイトルを見ると、

- Watch Trump and Abe's Awkward 18-Second-Long Handshake

- The Awkward handshake between Donald Trump and Shinzo Abe that everyone is talking about

- Awkward handshake between Donald Trump and Shinzo Abe

ー Donald Trump mocked for 'awkward' handshake with Japanese prime minister Shinzo Abe

などと、軒並み awkward な握手、と形容していた。

CNNの記事は、タイトルこそ

- Donald Trump shook the Japanese Prime Minister's hand for 19 seconds

としていて、

- Trump pulled Abe's hand closer, patted it several times and held on for 19 seconds.

When they completed the handshake, Trump pulled away and Abe made a regrettable facial expression.

"Strong hands," Trump said to Abe as the media left the room.
http://edition.cnn.com/2017/02/10/politics/trump-abe-awkward-diplomacy/

と書いているが、URLではやはり awkward を使っている。どうにも摩訶不思議な印象を海外のメディアには与えたらしいのだ。

さらにネットの記事を読んで知ったのだが、トランプは他人との握手を好まないそうだ(関連記事→ トランプ大統領の「手の大きさ」や「握手」はなぜ注目を集めているのか)。

アメリカでは政治家といえば hand-shaking baby-kissing をするものというイメージがある。有権者と握手をし、赤ん坊がいれば抱き上げてキスをして支持拡大を図る、というわけである。その点でもトランプ氏は異色なのだ。そして、そうした背景があるから awkward と形容されたということになるのだろう。

今回のシーンの状況を具体的に書き込んでいる記事もあった。

- Donald Trump has said he doesn’t like shaking people’s hands, and he seems to take his discomfort out on the people he has to greet. (中略)

Trump extended his hand, patted the back of Abe’s hand three times, and pulled the Japanese leader closer to ask (in reference to the Japanese-speaking photographers in the room) “What are they saying?”

“Please, look at me,” Abe answered.

Trump seems to have completely misunderstood Abe’s translation as an instruction,(中略) and began staring at the prime minister with a wide smile, even after Abe pointed at the cameras with his other hand to show Trump where he should be looking instead.
("HANDSHAKE JIUJITSU The power play behind Trump’s penchant for uncomfortably long handshakes" Quartz Feb.10, 2017)

事実その通りなのだが、この「ぎこちなざ」に拍車をかけた要因のひとつが、トランプ氏から見れば奇妙な "Look at me." という安倍総理の答えにあったのではないだろうか、と想像するのもおもしろい。

最後に、今回のエピソードについて私が考えたことを多少書くと・・・

安倍総理による英訳は、どうやら正しく伝わらなかった。トランプ氏が "What are they saying?" と尋ねたのであれば、日本語の流儀で主語を省略するのではなく、しっかりと they を主語にして答えたほうがコミュニケーション上は誤解を生まないだろう。

私は何も「上から目線」でこうしたことを書いているのではない。実は私もその昔、どんな状況だったか、またどのような英語の質問だったかもう記憶にないのだが、まさに同じように、とっさに全体的な主語を抜かした不明確な言い方をして理解してもらえなかった経験があるのだ。

状況によっては、問題なく意味が伝わり、その方が自然な場合もあるだろう。しかし、しっかりとした形で完全な文を言えるようにしておいた方がやはり英語学習の面では望ましいと思うのである。

今は学校英語でも「コミュニケーション」を重視しているが、その辺に危うさがあるのではないか。愚直なまでに整った文を習得し、そこから簡素な方にもっていくのは造作ないが、その逆は難しいはずなのだ。そう言えば以前、Because~. という英語について書いたことがあった(→ 会話重視の弊害? Because~だけでは英文にならない)。

もう一点、前述の内容と正反対のように聞こえるかもしれないが、今回のエピソードをめぐって安倍総理を批判したり嗤ったりするつもりは私にはまったくない。安倍氏は英語の教師ではないし、公式の外交交渉で即興の英語を使って失言をしたわけでもない。awkward と形容されたかもしれないが、Youtube にはこのシーンの動画が複数アップされ、いくつかの英語圏のメディアが取り上げた。害のない注目を集めたのは別に悪いことではないはずだ。

いずれにせよ、今回トランプ氏とスタッフが日本側を困らせるような会談にしなかったのは、何らかの考えがあると思っていたほうがよさそうだ。アメリカ側が日本に対して具体的にどのように出てくるのか、まさにこれからが問題になってくるのだろう。


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