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反語にも使える be my guest 「好きにしろ」 (高橋留美子「めぞん一刻」英語版) [読書と英語]

先日 baptism of fire を紹介した時に書いたように、最近たまたまネイティブを交えて英語を少し話す機会があったが、その場で Be my guest. という表現を久しぶりに耳にした。そして、この表現は皮肉や反語としても使えることを日本のマンガの英訳版で以前知ったことを思い出したので、取り上げてみたい。

ご存知の人も多いと思うが、Be my guest. は「どうぞご遠慮なく」「ご自由にどうぞ」「お好きになさって下さい」という場合の決まり文句だ。先日の雑談の場でも、ネイティブはその意味で使っていた。

ところが、そういった素直な許可ではないケースに使われた例に英語のマンガで出会ったことがあった。今回の雑談でそれを思い出したので、家に帰って書棚の隅から本を引っ張り出し、ページを繰って探していたが、やっと見つけた。

そのマンガとは、高橋留美子の「めぞん一刻」である。私が十代~二十代の時に雑誌に連載されていて毎回楽しみに読み、単行本も全巻揃えた。

コメディでありながら徐々にシリアスな色合いを強めてしんみりと読ませた末、読者を幸せな気持ちにさせる大団円を迎える。当時は井上ひさしや平井和正などの小説家が賛辞を捧げるなど、大変な人気を博した。自分が若かった時に読んだというノスタルジーを差し引いても、マンガという枠を越えた名作だと思う。


めぞん一刻〔新装版〕(1) (ビッグコミックス)

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  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2007/04/27
  • メディア: Kindle版


Be my guest. は、コメディ色が強かった最初期のエピソードに出てくる。クリスマスパーティで、ある中年の男が作品のヒロインについて、「響子ちゃんとなら死んでもいいな」と言ったのに対して、主人公の若者「五代くん」が、「ひとりで死ね、中年が!」と心の中で毒づく、という場面である。

上記のセリフが、英語版では次のようになっていた。

- 中年男:I'd be willing to die for Kyoko here.
五代くん: (So be my guest!)

これを見た時、「be my guest はこんな風にも使えるのか」と思ったのだった。そもそもこの表現自体、私にはすっと口をついて出るようなものではないので、英語は難しく、かつ面白い。

あらためて辞書を引いてみると、「お好きにどうぞ」の意味しか載せていないものもかなりあったが、一方で下記のような記述も見つかった。

- 1. (人から頼みを受けて快諾する言葉)どうぞご自由に、いいですとも、ご遠慮なく(お使い・お召し上がりください)
"Do you mind if I use your word processor?" "Be my guest."
2. (レストランなどで人をもてなすときに)(勘定を)私持ちにさせてください
3. (戸口で)どうぞお先に(Go ahead.)
4. (反語的に)どうぞお好きなような、勝手にしなさい
(ジーニアス英和大辞典)

- You say "be my guest" to someone when you are giving them permission to do something, or inviting them to do something. This expression is sometimes used in a sarcastic way. For example, you might use it to invite someone to do something difficult or unpleasant.
"You want to take care of him? Be my guest."
(Collins COBUILD Dictionary of Idioms)

なお、今回の言葉が出てくるエピソードは、「勝手に聖夜(かってにせいや)」と題されているが、英語版はこれを Suit yourself, Santa というタイトルにしている。この suit yourself も「勝手にしろ」という意味になる。

「めぞん一刻」は、私がこのトシになっても単行本を捨てずに取ってある数少ないマンガである。英訳版があることを知ったのはずいぶん前のことだったが、当時すでに入手困難となっていて、残念ながら私も日本版と違って全巻揃えたわけではない(今ネットで見たら、中古だがとんでもない高い値段で出品されている巻もある)。

アメリカの出版社から出されたものだが、巻末に載っているスタッフのリストを見るとネイティブが翻訳に当たっていて、今回の例でもわかるように、元の日本語がうまく英語に訳されていると思う。こうした本は英語学習のうえからも役に立つだろう。


Maison Ikkoku: v.1 (Manga)

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  • 作者: Rumiko Takahashi
  • 出版社/メーカー: Gollancz
  • 発売日: 2006/02/06
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Kawada

Tempus fugit様
『オーレックス英和辞典』第2版(旺文社)には「1950年の米国ヒルトンホテルの宣伝より」とありました。
まさかホテルの宣伝から来ているとは思わず、驚きました。
高校生の時に聴いた”Be our guest”という曲を思い出しました。

https://youtu.be/afzmwAKUppU
by Kawada (2018-05-03 10:01) 

tempus fugit

英語圏のウェブ辞書を見ますと、初出は1955年という記述があり、その一方でヒルトンホテルの宣伝にからめて書いたものは見当たらず、由来はやや不確かな点があるように感じました。

いずれにせよ、20世紀後半に生まれた比較的新しい表現ですが、一時の流行ではなく辞書にも収録されるほど定着しているというわけで、けっこう珍しいケースではないかと思います。


by tempus fugit (2018-05-03 19:42) 

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