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カズオ・イシグロがノーベル賞受賞#2~「日の名残り」の箱庭的世界 [読書と英語]

ひいきの作家カズオ・イシグロにノーベル文学賞が授与されると決まったことについて先日書いたが(→こちら)、喜んだ勢いで、名作 The Remains of the Day (邦題「日の名残り」)をまた読んでみた。

先日書いたように私もこれまで何度か取り上げたことがある作品だが、今回のノーベル賞決定を伝える国内外のいくつかの記事でもイシグロの代表作として扱われていた。

あらためて読んで感動を新たにしたが、先日のエントリでイシグロの”日本(人)的な特徴”について書いたこともあってか、今回の再読で感じたのは、この The Remains of the Day は一種の”日本庭園”あるいは”箱庭”のような作品だな、ということだった。

老いた執事の小旅行と過去の回想というこぢんまりとした舞台設定ながら、人生観照やイギリスの歴史・社会の変貌が描かれている。目に入るものは小さいながら、目を凝らしてよく見ると大きな世界が広がっている、という感じである。

そして、それは主人公の境遇とも重なるように思った。主人公は執事で、仕えている貴族の大邸宅で長い年月を過ごしている。しかし彼自身は、大邸宅で繰り広げられた名士たちの社交や政治外交の会合を通して、もっと大きく広い世界を見てきたという気持ちを持っている。

- ...those of our profession, although we did not see a great deal of the country in the sense of touring the countryside and visiting picturesque sites, did actually 'see' more of England than most, placed as we were in houses where the greatest ladies and gentlemen of the land gathered.
(The Remains of the Day by Kazuo Ishiguro)

- 'It has been my privilege to see the best of England over the years, sir, within these very walls.'
(ibid.)

しかし作品が終わりに近づくにつれ、そうした閉ざされた空間で培われた自分の姿勢や人生観に、主人公が疑問や後悔を抱いていることが明らかになってくる。そして、残りの人生に新たな気持ちで向かいあおうと決心する。

そしてイシグロ自身も、この「日の名残り」のあとは、作品ごとに違った印象を与える小説を書き続けている。過去(の作品)にとらわれないことをめざす姿勢には、主人公の執事が重なって見えてくる。

イシグロの名を広く知らしめることになった The Remains of the Day は、そうした意味でも、彼にとって転機となった作品といえるのだろう。

そして、新しい方向性を常に模索している作家として、「日の名残り」がいつまでも代表作として扱われることは、もしかしたらイシグロには不本意なことなのかもしれない、と思ったりもする。


The Remains of the Day

The Remains of the Day

  • 作者: Kazuo Ishiguro
  • 出版社/メーカー: Faber & Faber
  • 発売日: 2010/04/01
  • メディア: ペーパーバック



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