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ネイティブにとっても使い方がメンドウな単語 fulsome [注意したい単語・意外な意味]

トランプ政権にとっての地雷であるロシア疑惑の捜査が大詰めを迎えていることもあってか、米英メディアのサイトには関連の記事が目立つ。そのひとつで目にとまった fulsome という形容詞について書いてみたい。

この疑惑では、トランプ大統領の元側近が司法取引に応じて捜査に協力しているが、それについてモラー特別検察官が書面を裁判所に提出したことを報じるCNNの記事である。

- On Friday, President Donald Trump (and the rest of us) got the most fulsome look into the inner workings of special counsel Robert Mueller's investigation yet. And what Trump saw has to terrify him.

What was on display (中略) was the depth and breadth of what Mueller and his team are investigating, what they already know and just how close they are to the President himself.
("Friday was a very, very bad day for Donald Trump" CNN Dec. 8, 2018)

fulsome は私にとって見慣れない単語で、目にしたことがあったとしても読み飛ばしていたことになる。今回は記事の冒頭にあったので気づいたのだろう。

字面から、そして文脈からも full に似た意味がありそうに思った。手持ちの英和辞典を引くと確かにそうした語義が載っていたが、それとは違う意味を最初の方に載せている辞書が目立った。例えば、

- 1a(言葉遣い・賛辞など)あくどい、しつこい、いやらしい、鼻につく (offensive);追従的な
b(食べ物など)むかつくような、不快な
2(度が過ぎて)(古)悪趣味な
3 完全な、全体の (complete)
4(廃)豊富な (copious);太った、みだらな
(研究社英和大辞典)

他の英和辞典も、まずは「鼻につく」「くどい」「いやみな」といった訳語を先に書いている。しかしCNNの英文は「完全な」とか「豊富な」の方に取ったほうがいいように思える。

えらく異なった意味、正反対ともいえそうなニュアンスを持ち合わせていて、面白い単語だなと思い、今度は英語圏のオンライン辞書を引いてみた。

イギリスの辞書に比べると、アメリカの辞書は概して語法の説明に力を入れていないという印象があるが、Merriam-Webster.com はこの単語に「どちらの意味にも取れるのに注意が必要」という注釈をつけていた。長いので一部分のみ引用しよう。

-(略)...The chief danger for the user of fulsome is ambiguity. Unless the context is made very clear, the reader or hearer cannot be sure whether such an expression as "fulsome praise" is meant in sense 1b(注・generous in amount, extent, or spirit) or in sense 4(注・ excessively complimentary or flattering).

例としてあげられている fulsome praise は、文脈がはっきりしないと「絶賛」にも「ほめ殺し」にも取られる、ということになる。

次に引用する American Heritage Dictionary は、注意すべき用法の記述が詳しいことをウリにしている辞書で、当然?のようにこの語に usage note をつけていた。こちらも長文なので、最初の3分の1だけ引用しよう(それでも長いが)。なおこの中に出てくる the Usage Panel とはこの辞書が語法検討のために設けている専門家グループのことである。

- The original meaning of fulsome was "copious, abundant." But fulsome is now most often used of remarks that involve excessive praise or ingratiating flattery, as in Their fulsome compliments were viewed as an awkward attempt at winning approval. This narrower application of the word has become its sole meaning for many educated speakers, to the point where a large majority of the Usage Panel disapproves of the use of fulsome to mean simply "full" or "copious."

「full の意味でこの言葉を使うのはマズイ」ということらしい。CNNがこちらの意味に使ったのだとしたら反面教師的な実例ということになるのだろうか。

イギリス系の辞書では Oxford や Collins に注意書きがあった。同じような内容なので引用は見合わせるが、代わりに Online Etymology Dictionary の記述を紹介しよう。

それによると、この単語はもともと "abundant, plentiful" の意味であったが、そこから「ふくよかな」「太った」「不快な」と転じ、15世紀に「悪趣味な」、そして17世紀には "excessively flattering" として使われるようになった。しかし言葉は生き物、20世紀には原点回帰の動きがあり、

- Since the 1960s, however, it commonly has been used in its original, favorable sense, especially in fulsome praise.

ここではウェブスターと同じ fulsome praise が例にあげられているが、CNNの記事も、「このところの原点回帰の実例」と、位置づけが変わってくることになる。

重要なのは、前後関係で意味を明確にして使え、ということだろう。その意味では、ある辞書にあった

- I was disgusted by his fulsome flattery.
彼の度を越したお世辞にはうんざりだった

という例文は良いだろうが、同じ辞書にある

- the fulsome splendor of certain passages of D.H. Lawrence's prose
D・H・ロレンスの散文の一部に見られるあくどいほどの華美さ

は、この文だけだと純粋な褒め言葉にも取れそうだ(私はロレンスには不案内なので、彼の作品に詳しい人なら迷うことなくこの訳のように解釈するのかもしれないが)。

いずれにせよ、私が触れた範囲では英語圏の辞書のような注意喚起をしている英和辞典は見当たらず、ちょっと残念に感じた。また「大げさな」という語義だけに触れていて、「ふんだんな」の方は載せていない英和辞典も複数あった。

ただこれは日本の辞書だけの話でなく、定評ある学習辞典の LDOCE と OALD も、割り切ったのか前者の語義しか載せていなかった。ネイティブにとっても扱いがややこしい単語であるのは確かなようだ。


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