ケータイがないと落ち着かない!~ nomophobia 「携帯依存症」 [Word of the Year]
英誌 The Economist が "Johnson" というタイトルで英語についてのコラムを設けていることは前に触れたことがあるが(→こちら)、最近の回では Word of the Year 「今年の言葉」の選定をネタにしていた。その中に nomophobia という見慣れない単語があったので、取り上げてみよう。
英語圏のいくつかの団体が年末から年始にかけて発表している Word of the Year は、私も毎回楽しみにしていて、年明けにこのブログで必ず取り上げるようにしている。
今年もすでに発表が始まっているが、「エコノミスト」誌の今回の記事は次のように始まっている。「ケンブリッジ英語辞典」の選定についてである。
- Cambridge Dictionary recently selected "nomophobia" as its word of the year, via a poll of readers.
("Johnson: Signs of the time" The Economist Dec. 8, 2019)
英語のネイティブスピーカーでもなじみがない人がいる単語のようで、執筆者もそうだったと書いている。そんな人でも「心当たりはあるはず」ということか、記事はこう続ける。
- Those lucky enough not to have heard of this condition are nonetheless probably familiar with its symptoms: it refers to the fear of not having your mobile phone. (中略) Your columnist had never heard of the term before the announcement.
(ibid.)
ここで大もとの「ケンブリッジ英語辞典」のサイトを見てみると、これより多少長めの定義が載っている。なお選定は The People's word of 2018 と銘打たれていて、先の引用にあるように利用者の投票で選ぶものだ。
- nomophobia noun [U]
fear or worry at the idea of being without your mobile phone or unable to use it
(中略)
Like many modern coinages, nomophobia is what’s called a blend: a new word made up of syllables from two or more words, in this case ‘no mobile phone phobia.’
https://dictionaryblog.cambridge.org/2018/11/29/the-peoples-word-of-2018/
つまり、自分が使っている携帯電話が手元にない、あるいは使える状態にないと、不安で仕方がない状態を指す言葉である。nomo- はここにあるように no mobile から取ったものだ。
発表の記事によると、この単語は2008年までさかのぼることができるそうだ。すでに少なくとも10年の歴史があることになるが、「ケンブリッジ」辞典がオンライン版に収録したのは今年になってからだと書かれている。携帯といっても以前はともかく今はガラケーではなくスマートフォンだろう。
今年は(今年も、というべきか)いろいろなことが世界で起きたが、今回はずいぶんと日常生活にかかわる言葉が選ばれたものだ(ちなみに「ケンブリッジ」の去年の選定は populism だった)。
トランプ大統領の登場に象徴されるような、世界のさまざまな激動に「ケンブリッジ」の読者も疲れてしまい、もっと個人レベルの単語に目が行くようになったのだろうか。また(は)携帯依存症がいよいよ無視できないものになった(少なくとも読者の多くにとっては)、ということかもしれない。
nomophobia は Wikipedia にも載っていて、次のようなおもしろい記述があった(読みやすいように改行を入れた)。
- Language classicists do not like this word or approve of it, because of its inherent confusion with the existing, though rare, nomophobia, a fear of laws, rules or regulations.
The latter derives from the Greek nomos (a law, rule or regulation) seen in such other words as astronomy (rules about the stars), gastronomy (rules about food and eating), autonomy (ruling oneself), economy (rules governing the finances of the state or household)(以下略)
https://en.wikipedia.org/wiki/Nomophobia
no mobile からこしらえた nomophobia だが、同じ綴りで別の意味の(しかも言語面からはずっと正統性があるといえそうな)言葉がすでにあるので、専門家には新語の方は不評だ、ということになる。
「ナニナニ -nomy」という英単語が「~学」を意味するのはおなじみが、これが「法、法則、規則」を意味する nomos というギリシャ語から来ているとは知らなかった。何かについての法則の体系だから学問の分野を指しているわけだ。
また、あらためて辞書を見ると、nomo- という接頭辞もあって、これがつく言葉がいくつか見つかるが、凡人の私にはいずれも縁がなさそうな難しいもので、似て非なる mono- とは比べようにない。
上記 Wikipedia には携帯依存症の実証研究についてもいろいろ記述がある。しかし生まれた時からスマホがある世代にとってはもう体の一部のようなものだろう。
そうした趨勢を止めることはできず、旧世代が嘆いても仕方がないとは思うが、大災害などでスマホが使えなくなった場合、心理的精神的に不安定になる人が大勢出てくるだろうことは想像に難くない。私にはこちらの方がちょっと怖く、monophobe の phobia になりそうだ。
なお -phobia は「~嫌い」「~恐怖症」を表し、これを使っていろいろな言葉が作られるのは英語中級者なら知っている人が多いと思う。過去に下記のような言葉を取り上げたことがあるので、ご参考まで。
(参考)-phobia 関連の過去の記事:
・triskaidekaphobia 「数字の13を嫌がる」「13恐怖症」
https://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-12-14
・tetraphobia 「不吉な数字4を嫌うこと」
https://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2017-01-20
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英語圏のいくつかの団体が年末から年始にかけて発表している Word of the Year は、私も毎回楽しみにしていて、年明けにこのブログで必ず取り上げるようにしている。
今年もすでに発表が始まっているが、「エコノミスト」誌の今回の記事は次のように始まっている。「ケンブリッジ英語辞典」の選定についてである。
- Cambridge Dictionary recently selected "nomophobia" as its word of the year, via a poll of readers.
("Johnson: Signs of the time" The Economist Dec. 8, 2019)
英語のネイティブスピーカーでもなじみがない人がいる単語のようで、執筆者もそうだったと書いている。そんな人でも「心当たりはあるはず」ということか、記事はこう続ける。
- Those lucky enough not to have heard of this condition are nonetheless probably familiar with its symptoms: it refers to the fear of not having your mobile phone. (中略) Your columnist had never heard of the term before the announcement.
(ibid.)
ここで大もとの「ケンブリッジ英語辞典」のサイトを見てみると、これより多少長めの定義が載っている。なお選定は The People's word of 2018 と銘打たれていて、先の引用にあるように利用者の投票で選ぶものだ。
- nomophobia noun [U]
fear or worry at the idea of being without your mobile phone or unable to use it
(中略)
Like many modern coinages, nomophobia is what’s called a blend: a new word made up of syllables from two or more words, in this case ‘no mobile phone phobia.’
https://dictionaryblog.cambridge.org/2018/11/29/the-peoples-word-of-2018/
つまり、自分が使っている携帯電話が手元にない、あるいは使える状態にないと、不安で仕方がない状態を指す言葉である。nomo- はここにあるように no mobile から取ったものだ。
発表の記事によると、この単語は2008年までさかのぼることができるそうだ。すでに少なくとも10年の歴史があることになるが、「ケンブリッジ」辞典がオンライン版に収録したのは今年になってからだと書かれている。携帯といっても以前はともかく今はガラケーではなくスマートフォンだろう。
今年は(今年も、というべきか)いろいろなことが世界で起きたが、今回はずいぶんと日常生活にかかわる言葉が選ばれたものだ(ちなみに「ケンブリッジ」の去年の選定は populism だった)。
トランプ大統領の登場に象徴されるような、世界のさまざまな激動に「ケンブリッジ」の読者も疲れてしまい、もっと個人レベルの単語に目が行くようになったのだろうか。また(は)携帯依存症がいよいよ無視できないものになった(少なくとも読者の多くにとっては)、ということかもしれない。
nomophobia は Wikipedia にも載っていて、次のようなおもしろい記述があった(読みやすいように改行を入れた)。
- Language classicists do not like this word or approve of it, because of its inherent confusion with the existing, though rare, nomophobia, a fear of laws, rules or regulations.
The latter derives from the Greek nomos (a law, rule or regulation) seen in such other words as astronomy (rules about the stars), gastronomy (rules about food and eating), autonomy (ruling oneself), economy (rules governing the finances of the state or household)(以下略)
https://en.wikipedia.org/wiki/Nomophobia
no mobile からこしらえた nomophobia だが、同じ綴りで別の意味の(しかも言語面からはずっと正統性があるといえそうな)言葉がすでにあるので、専門家には新語の方は不評だ、ということになる。
「ナニナニ -nomy」という英単語が「~学」を意味するのはおなじみが、これが「法、法則、規則」を意味する nomos というギリシャ語から来ているとは知らなかった。何かについての法則の体系だから学問の分野を指しているわけだ。
また、あらためて辞書を見ると、nomo- という接頭辞もあって、これがつく言葉がいくつか見つかるが、凡人の私にはいずれも縁がなさそうな難しいもので、似て非なる mono- とは比べようにない。
上記 Wikipedia には携帯依存症の実証研究についてもいろいろ記述がある。しかし生まれた時からスマホがある世代にとってはもう体の一部のようなものだろう。
そうした趨勢を止めることはできず、旧世代が嘆いても仕方がないとは思うが、大災害などでスマホが使えなくなった場合、心理的精神的に不安定になる人が大勢出てくるだろうことは想像に難くない。私にはこちらの方がちょっと怖く、monophobe の phobia になりそうだ。
なお -phobia は「~嫌い」「~恐怖症」を表し、これを使っていろいろな言葉が作られるのは英語中級者なら知っている人が多いと思う。過去に下記のような言葉を取り上げたことがあるので、ご参考まで。
(参考)-phobia 関連の過去の記事:
・triskaidekaphobia 「数字の13を嫌がる」「13恐怖症」
https://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-12-14
・tetraphobia 「不吉な数字4を嫌うこと」
https://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2017-01-20
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