lead a charmed life 「強運の持ち主」 (シェイクスピア「マクベス」) [英語文化のトリビア]
前回の charm offensive からの連想で、charmed life という表現を取り上げよう。charm は「魅力」の他に「おまじない」「魔除け」も指し、charmed は「魔法で守られた」という意味がある。
そこで charmed life は、魔法で守られた生命ということで、「強運に恵まれた人生」とか「災難とは無縁の生活」というような意味になる。英和辞典には「不死身」という訳語も載っている。
次は、「ニューヨーク・タイムズ」紙に掲載された経済学者 Paul Krugman のコラムにあった実例である。これまツキまくっていたトランプ大統領だが、新型コロナウイルスという思わぬ伏兵に足をすくわれた・・・という内容だ。
- Until early 2020, Trump led a charmed political life. All his recent predecessors had to deal with some kind of external challenge during their first three years.
(中略)
But Trump inherited a nation at peace and in the middle of a long economic expansion that continued, with no visible change in the trend, after he took office.
Then came Covid-19.
("The Deadly Delusions of Mad King Donald" The New York Times July 9, 2020)
次は英語圏のオンライン辞書にあった説明である。
- a life protected as if by magic charms : a life unusually unaffected by dangers and difficulties
(Merriam-Webster.com)
- have/lead a charmed life
to be lucky all the time, so that although you are often in dangerous situations nothing ever harms you
No wonder that she and Charles felt that they led a charmed life, that the times were on their side.
(LDOCE)
おもしろいと思ったのは Dictionary.com の記述だ。少し長いが引用しよう。
- An existence that seems protected by extreme good luck, as in Robert came out of that accident without a scratch; he must lead a charmed life.
The adjective charmed once meant “magical,” which is no doubt what Shakespeare had in mind when he used the term in Macbeth (5:8): “Let fall thy blade on vulnerable crests, I bear a charmed life, which must not yield To one of woman born.”
Later it was extended to anyone who narrowly escaped from danger or was similarly lucky. [Late 1500s]
https://www.dictionary.com/browse/charmed-life
ということで、この表現はシェイクスピアの「マクベス」に使われているという。調べてみるとこの作品は1606年頃に成立したというので、上記の Late 1500s が正しければ、「マクベス」がこの表現の由来とまではいえないのだろうが、いずれにせよ興味をそそられる。
さっそく持っている翻訳を開いてみると、大詰めの決闘場面に出てくるマクベスの台詞であることがわかった。
- 俺の命には魔力がかかっている。女から生まれたやつには
屈服しない。
(松岡和子・訳)
- 俺の命にはまじないがかかっているのだ。
女から生まれた奴に俺は殺せぬ。
(河合祥一郎・訳)
野心に駆られて主君を殺し王位についた武将マクベスは、魔女や幻影から予言を聞くが、その中に「女から生まれた者はマクベスを倒せない」というものがあった。
女から生まれない人間などいない、だから自分は殺されることはない、と考えていたマクベスだったが、クライマックスでは、これを含む一連の予言が意外な形でひっくり返され、マクベスは最期を迎える。それとも関わりがある台詞だったのである。
そういえば、最初に引用したクルーグマン教授のコラムのタイトルに deadly delusions とか mad king という言葉が使われていたが、これも今回の表現と「マクベス」を念頭に置いてトランプに結びつけたものだろうか、いや考えすぎだろう・・・と、想像をたくましくしたくなる。
いずれにせよ、ちょっとした表現でも、こうした背景を知るにつけ、言葉というものは奥が深いな、としみじみ思う。
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そこで charmed life は、魔法で守られた生命ということで、「強運に恵まれた人生」とか「災難とは無縁の生活」というような意味になる。英和辞典には「不死身」という訳語も載っている。
次は、「ニューヨーク・タイムズ」紙に掲載された経済学者 Paul Krugman のコラムにあった実例である。これまツキまくっていたトランプ大統領だが、新型コロナウイルスという思わぬ伏兵に足をすくわれた・・・という内容だ。
- Until early 2020, Trump led a charmed political life. All his recent predecessors had to deal with some kind of external challenge during their first three years.
(中略)
But Trump inherited a nation at peace and in the middle of a long economic expansion that continued, with no visible change in the trend, after he took office.
Then came Covid-19.
("The Deadly Delusions of Mad King Donald" The New York Times July 9, 2020)
次は英語圏のオンライン辞書にあった説明である。
- a life protected as if by magic charms : a life unusually unaffected by dangers and difficulties
(Merriam-Webster.com)
- have/lead a charmed life
to be lucky all the time, so that although you are often in dangerous situations nothing ever harms you
No wonder that she and Charles felt that they led a charmed life, that the times were on their side.
(LDOCE)
おもしろいと思ったのは Dictionary.com の記述だ。少し長いが引用しよう。
- An existence that seems protected by extreme good luck, as in Robert came out of that accident without a scratch; he must lead a charmed life.
The adjective charmed once meant “magical,” which is no doubt what Shakespeare had in mind when he used the term in Macbeth (5:8): “Let fall thy blade on vulnerable crests, I bear a charmed life, which must not yield To one of woman born.”
Later it was extended to anyone who narrowly escaped from danger or was similarly lucky. [Late 1500s]
https://www.dictionary.com/browse/charmed-life
ということで、この表現はシェイクスピアの「マクベス」に使われているという。調べてみるとこの作品は1606年頃に成立したというので、上記の Late 1500s が正しければ、「マクベス」がこの表現の由来とまではいえないのだろうが、いずれにせよ興味をそそられる。
さっそく持っている翻訳を開いてみると、大詰めの決闘場面に出てくるマクベスの台詞であることがわかった。
- 俺の命には魔力がかかっている。女から生まれたやつには
屈服しない。
(松岡和子・訳)
- 俺の命にはまじないがかかっているのだ。
女から生まれた奴に俺は殺せぬ。
(河合祥一郎・訳)
野心に駆られて主君を殺し王位についた武将マクベスは、魔女や幻影から予言を聞くが、その中に「女から生まれた者はマクベスを倒せない」というものがあった。
女から生まれない人間などいない、だから自分は殺されることはない、と考えていたマクベスだったが、クライマックスでは、これを含む一連の予言が意外な形でひっくり返され、マクベスは最期を迎える。それとも関わりがある台詞だったのである。
そういえば、最初に引用したクルーグマン教授のコラムのタイトルに deadly delusions とか mad king という言葉が使われていたが、これも今回の表現と「マクベス」を念頭に置いてトランプに結びつけたものだろうか、いや考えすぎだろう・・・と、想像をたくましくしたくなる。
いずれにせよ、ちょっとした表現でも、こうした背景を知るにつけ、言葉というものは奥が深いな、としみじみ思う。
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タグ:シェイクスピア
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