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echo chamber ~異論に耳を傾けなくなるネット時代の危険性 [アメリカ政治]

トランプ大統領の支持者が、従来のSNSを捨てて内容に制限をつけない新興のプラットフォームに次々に乗り換えているという。ネット空間では、同じ考えを持つ人とばかり交流して異なる見解や情報を受け入れられなくなる危険性が指摘されているが、それを示すような動向だ。これに関連して echo chamber という言葉を取り上げてみよう。

文字通りには「エコー室」ということで、演出効果のため人工的に反響を作り出す部屋・スタジオのことだが、比喩的に、ものの見方を共有する人だけとコミュニケーションを交わし続けることで、自分の持つ考えがどんどん増強される一方、異論に耳を傾けなくなる現象を指す。

トランプ大統領が攻撃的で不確かなツイートを連発する中、ツイッターやフェイスブックなどは、内容に問題があると判断した書き込みに警告をつけて制限を課す措置を講じているが、これを嫌う支持者などが、パーラーという規制のない新参のSNSに流れていると報じられている。

これについて echo chamber が使われた例があるはずと思って探すと、やはり見つかった。以下はその一例である。

- "A lot of people are just discovering Parler for the first time, but it's been around for a while in terms of being an echo chamber for both right-wing news, but also for misinformation," said Joan Donovan, an expert in online extremism and disinformation and research director of the Shorenstein Center on Media, Politics and Public Policy at Harvard University.
("Conservatives find home on social media platforms rife with misinformation" CNN November 14, 2020)

実はこの echo chamber は、この週明けに英字紙で読んだばかりの米中関係についての論説に出てきたので取り上げようと思ったのだが、トランプ大統領についての実例の方を先にあげてみた。

その米中関係の記事にあったくだりは次のようなもので、アメリカ国内の分断について書いているが、この表現が学ぶうえでなかなか良い例になっているように思う。

- America’s internal divisions have been fueled in recent years by social media, which, by populating users’ feeds with tailored content, creates echo chambers that reinforce, rather than challenge, their beliefs and values. When alternative ideas do make it into the echo chamber, they are often distorted or smeared. And when someone within the chamber calls into question shared beliefs, they risk being instantly ostracized or, in contemporary parlance, “canceled.”
("Division or dialogue with China?" The Japan Times November 29, 2020)

さて、ついでに今回のアメリカ大統領選挙で感じたことを少しまとめて書いてみたい。

まず、民主社会であっても、強烈なリーダーが出現してそれに共鳴する人が多数現れると、独裁を許すような状況が実際に生まれかねないことを目の当たりにしたように思う。

トランプ氏は常軌を逸した言動を取り続けたにもかかわず、多くの人が強固な支持を寄せたのは、社会的な背景のほかにトランプ氏のカリスマ性あるいは催眠術師的な個性が大きかったことも否定できないと思う。ある意味で新興宗教の教祖に似た点があるのだろう。

そうした中で、自分の考えに沿わない事実はフェイク・ニュースとして受け入れない echo chamber 的風潮が社会を支配するようになったら、意のままに振る舞うリーダーに歯止めをかけられなくなることが実際に起きてもおかしくないのではないか。

もうひとつは、大統領選挙の制度的な脆弱さが浮き彫りになったように思う。一般投票の得票率と選挙人の獲得数が逆転する現象は4年前に起きたが、今回は、「敗者が潔く負けを認めて融和を図る」という「敗北宣言」が単なる慣習であるという危うさをトランプ氏の拒否が裏書きした。

さらに、選挙人は各州の一般投票で勝った候補に投票するものと当然のように考えられてきたことを、トランプ氏は選挙人の選定に介入して覆そうとした。こんな試み自体が前代未聞のはずだ。

また郵便投票や開票作業をめぐるゴタゴタを含め、選挙制度やその後の手続きは、実はかなりのスキがあることが示されたように思う。今回以上の接戦になり、トランプ氏のような特異な候補者が出た場合は、より深刻なトラブルに陥る可能性もあるのではないだろうか。

3つ目に、選挙人投票でバイデン氏が最終的に大統領に当選しても、よく言われるように今後の4年間は多難だろう。

バイデン氏はもともと「反トランプ」としての「弱い候補」だし、今後は民主党内の急進左派とのあつれきが予想されている。また有権者の半分近くがトランプ氏を支持したが、現状への不満が改善されなければ、仮に4年後にトランプ氏が再び立候補しなくても、同じように強引な指導者を待望する声が高まるのではないだろうか。

トランプ大統領は、オバマ前大統領のもとで格差が拡がったと考える人たちの反発・反動の産物だという指摘がある。それと似て、「やはりバイデン氏ではダメだった」ということになれば、振り子がむしろ大きく逆戻りする恐れもあるように思う。


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