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butterfly effect ~ささいなことが重大な結果になる「バタフライ効果」 [読書と英語]

公私ともに忙しく、ひさびさの更新となる。英文記事を読んでいたら、butterfly effect という言葉に久しぶりに出会ったので、メモしておきたい。

今週はじめの The Japan Times に転載されていた「ニューヨーク・タイムズ」の記事にあったもので、中国政府が新型コロナウイルスについて、発生直後からいかに国内の言論統制を図ってきたかを報じたものだ。

新しいウイルスの発生に気づいて警鐘を鳴らしたものの当局に口止めされ、その後死亡した李文亮 Li Wenliang 医師の悲劇は日本でも広く伝えられたが、彼の死が引き起こすかもしれない影響の大きさに、中国当局は警戒感を募らせた。

- Yet China’s censors decided to double down. Warning of the “unprecedented challenge” Dr. Li’s passing had posed and the “butterfly effect” it may have set off, officials got to work suppressing the inconvenient news and reclaiming the narrative, according to confidential directives sent to local propaganda workers and news outlets.
("No ‘Negative’ News: How China Censored the Coronavirus" The New York Times Dec. 19, 2020)

butterfly effect とは、

- 初期の小さな変化が後に重要な変化をもたらすこと;ある所でチョウのはばたきが原因で他の場所であらしが生ずるという考え方
(研究社英和大辞典)

である。

私にとってこの言葉と結びついているのは、アメリカのSF・幻想小説家のレイ・ブラッドベリの作品集「太陽の黄金の林檎」The Golden Apples of the Sun に収録されている「雷のような音」という短編である。

タイムトラベルが実現した未来、主人公が太古への旅から戻ってくると、歴史を変えるような行動に気をつけたはずなのに、あたりの様子が一変していた。

- 狂ったように長靴の泥を指でなすり、ぶるぶるふるえながら泥の塊を持ちあげた。「いや、そんな筈はない。こんなちょっとしたことが。いや!」
泥の中には、緑と金色と黒に輝く一匹の蝶がのめりこんでいた。ひどく美しい、死んだ蝶。
「こんなちっぽけなことが! たかが蝶々一匹ぐらいで」とエッケルスは叫んだ。
(「雷のような音」小笠原豊樹・訳)

この作品をはじめ、この短編集は名品ぞろいで、中学生の時に読んでひどく印象に残り、大学生になって原書を買って挑戦してみたほどだ。せっかくなので上記の部分を書き写すと、

- He fumbled crazily at the thick slime on his boots. He held up a clod of dirt, trembling. "No, it can't be. Not a little thing like that. No!"
Embedded in the mud, glistening green and gold and black, was a butterfly, very beautiful, very dead.
"Not a little thing like that! Not a butterfly!" cried Eckels.
("A Sound of Thunder" by Ray Bradbury)

「バタフライ効果」そのものを何かで読んで知ったのはさらにその後のことだが、直ちに連想したのがこの短編だった。作品中には butterfly effect という言葉は出てこないしチョウは死んで羽ばたかないが、この考え方をヒントに書かれたのは確実だろう。そう思った。

ところが、今回あらためて調べたら、この言葉は Edward Lorenz という学者が1972年に行った講演がきっかけで生まれたという。ブラッドベリの短編はそれより20年前に書かれていて、順番が逆だ。私の考えは間違っていたことになる。

「ささいなことが後で大きな影響をもたらす」というこの考え方自体はずっと昔からあったそうだが、チョウを引き合いにしたのは、むしろブラッドベリが最初らしい。

- The idea that the death of one butterfly could eventually have a far-reaching ripple effect on subsequent historical events made its earliest known appearance in "A Sound of Thunder", a 1952 short story by Ray Bradbury. "A Sound of Thunder" discussed the probability of time travel.
https://en.wikipedia.org/wiki/Butterfly_effect#In_popular_culture

エドワード・ローレンツはブラッドベリの作品にちなんでチョウチョを持ち出したわけではないそうだ。偶然とはいえ、おもしろいものである。

この butterfly effect、私にとってふだん縁のない言葉だが、たまたま手に取った英字新聞の記事で久しぶりに目にして、さらに調べたところ、中学生の時に読んだブラッドベリの作品について持っていた誤解が、何十年も経った今になって解けた。

英語はまさに生涯学習だな、と思わされたので、ページが変色した古い文庫本とペーパーバックを本棚から引っ張り出して、今回とりとめなく書いてみたしだいである。


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