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なぜ sky が複数になるのか~「ブルー・スカイ」と blue skies [文法・語法]

先日から続けている blue sky がらみでもうひとつ書きたい。「ブルー・スカイ」というスタンダード・ナンバーがある。私が十代の時にカントリー歌手のウィリー・ネルソンがカバーして話題になったので知った。

以前書いたことがある「ホワイト・クリスマス」(→こちら)など数々の名曲を作曲したアーヴィング・バーリンが1926年にミュージカルのために書いたものだ。



初めて聞いた頃には気づかなかったが、その後何年か経って、この曲のタイトルは邦題と違って Blue Skies であることを知った。気をつけてみると歌詞でもやはり複数形になっている。

sky が複数形になることがあるのは、ラジオでFEN(現・AFN)の英語放送を聞いていて(当時は国内のテレビで海外の英語放送がそのまま流されることはほとんどなかった)、天気予報で clear skies と言っているのに気づいていたので当時からぼんやりと意識はしていたが、あまり深くは考えなかった。

歌の「ブルー・スカイ」についても、「タイトルは原語では複数なのだな」くらいにしか考えなかったはずだ。

日本人の感覚だと、「空は空じゃないか、何で単数じゃないんだ?」と考える人の方が自然ではないかと思う。そこで blue sky を取り上げている流れで、「複数形の skies」についてまとめてみたい。

まず、たいていの辞書に「天候や空模様についてはしばしば skies になる」などと書かれている。気象情報の clear skies は確かに天候だし、空模様は時間や地域によって変わると考えれば、複数形になるのも何となく納得がいく。

ただ blue skies については、「晴れ」だから天候といえば天候だが、何となくしっくりしないものも感じる。

そう思いながら英語圏の辞書を見ると、sky の使い方についてこんな記述が見つかった。

- Usually the word can be used correctly in either the singular or plural form, but the plural is now mainly poetic.
(Wiktionary)

複数形の skies は詩的な使い方」というのである。さらに、「オックスフォード学習辞典」には、sky の項に次のような親切な注釈があった。

- You usually say the sky. When sky is used with an adjective, use a...sky. You can also use the plural form skies, especially when you are thinking about the great extent of the sky.
(OALD)

つまり、「空の広大さを念頭に置いて使う場合は複数形も使われる」ということで、先ほどの「詩的」というのも、これと共通する考え方なのだと思う。

さらに、文法書を見ると、

- 強意複数:個体の複数というよりも、強意を目的とした複数形。おもに詩や<格式体>のスタイルで用いられる
1.抽象名詞の場合は、程度の強大さを表す。
2.具象名詞の場合は、「広がり・重なり・連続」を表す。
(安藤貞雄:現代英文法講義)

とあり、1.に Many thanks. など、2.には in the heavens「空」、in the depths of despair 「絶望のどん底」などの例があげられていた。「英文法総覧」(安井稔・著)にも同じ趣旨の説明があり、heavens などとならんで skies もこの例としてあげられていた。

こうしたことを書きながらネットで調べると、sky がなぜ複数形になるかについていくつかの説明がアップされているのが見つかったが、やはり私がたどったのと同じようなことが書かれていた。ということで、上記の説明は的はずれではなさそうで安心した。

また私と同じように、「ブルー・スカイ」の原題が複数形であることをきっかけにした説明もあったので、やはり同じことを考える人はいるのだな、と思ったが、少なくとも私が見た範囲では触れられていない説明を一点付け加えることにしたい。

それは、Blue Skies の歌詞からみた特徴である。読んだり歌を聞いたりすればすぐに気づくのだが、この歌は、

- Blue skies smiling at me
(中略)
Blue birds singing a song
(中略)
Blue days, all of them gone

というように、「blue+複数形の名詞」で始まる文が繰り返しを含めて何度も使われているのだ。

だから、文法上は a blue sky でも構わないとしても、ここは blue skies と複数形にしなければ、歌詞としては具合が悪いはずなのである。

「なあんだ」と思われるかもしれないし、確かに「sky の複数形」というテーマの本質にかかわるものではないかもしれない。

しかし、英語そのものに興味を持っている人たちは、どうも個々の英語を全体から切り離して論じる傾向がなきにしもあらず、と考えることが時折りあるので、あえて書いてみた次第である。

私は文学的なことには詳しくないが、若いころ洋楽をいろいろ聞いたり、また、授業か何かで英語の詩とその翻訳を読まされたりして(主体的に読んだ、ではないのだが)、翻訳がいくら見事であっても、原文の韻やリズムなどの見事さが伝わらない、というか、伝えようとする形で翻訳されていないことが目立つのが気になっていた。逆に言えば、日本の俳句も翻訳ではその味わいがなかなか伝わっていないのだろう。

もちろん、以前取りあげた「不思議の国のアリス」の新訳のように(→こちら)、そのへんにも工夫した見事な翻訳があることは確かだし、「それならお前がやってみろ」と言われたら何もできないので、このくらいにしておきたい。

何だか理屈っぽい話になってしまったが、最後に sky についてもうひとつ書くと、今回辞書を見ていて知ったのだが、この単語は何と cloud を表す古ノルド語に由来するのだそうだ。

「空」と「雲」がどのようにすみ分けられたのか、そして cloud の語源を見ると、「岩の塊」「丘」を意味する古英語に由来するということで、「青空」との隔たりの大きさもあり、ますます驚いた。それ以上の詳しいことは調べていないが、言葉の成り立ちとは本当に不思議なものだと思う。


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