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英誌「エコノミスト」の言葉遊びタイトルがおもしろい [英語学習]

前回は「予防接種する」を表す inoculate を取り上げたが、もっと口語的でおなじみの単語は shot だろう。get/give a flu shot のように使われるが、これに関連して今回はちょっと箸休め的なことを書いてみたい。

新型コロナウイルスの関係で、この shot も英文記事でよく目にするようになっているのは inoculate と同じだが、短い単語のためか、記事の見出しでも使いやすいように見受けられる。

そしてイギリスの The Economist 誌を眺めていると、このところ shot が使われたイディオムをもじった見出しが目につくようだ。そのたびにうまいものだなと感心する。

たとえば1月23日号に載っている中国製のコロナウイルスワクチンについての記事は、大見出しと小見出しが

- Shots in the dark
China's jabs may have a big role. But there is doubt about their efficacy

となっている。

小見出しが示すように、中国製ワクチンの効果に対する疑念について書いた記事だが、この shot is the dark は「当てずっぽう」とか「成算のない試み」「大それた企て」という意味だ。もちろん shot は「接種」にかけている。

なお小見出しにある jab はイギリス英語で「注射」のことで、shot と同じ意味で使われている。この「エコノミスト」のような英国系のメディアでよく目にする単語だ。

次に同誌1月30日号では、混乱するヨーロッパでのワクチン接種の現状について leader(editorial を表すイギリス英語 )の欄で取り上げているが、そのタイトルは

- Shot in the foot

となっている。これは shoot oneself in the foot というイディオムのもじりと考えて間違いないだろう。「へまをする」「ドジを踏む」「墓穴を掘る」といった訳語が辞書に並んでいる。

この The Economist に限らず、英語圏のメディアでは、こうしたイディオムや流行(語)あるいは伝統など、ネイティブにとっての言語的・文化的常識を背景とした見出しが表紙や記事で使われているのを目にすることがままある。

それにピンと来て、”元ネタ”がわかると何だかうれしくなるものだ。逆に「何かのもじりではないかと思うが、わからない」というタイトルももちろん多いのだが。

今回「エコノミスト」誌からこうした見出しを取り上げたのは、私が通勤で利用している鉄道路線の途中駅近くに公共図書館があり、この雑誌が置かれているからだ。

私が若い頃挑戦していた TIME 誌もこの図書館に置かれているが、ある程度「英語を読める」という手応えを感じるようになってからは、The Economist の方が内容的に”締まった”記事が多いと感じるようになり、こちらをよく読むようになった。このブログを始めた直後、15年前のエントリでも、このことを書いている(→ こちら)。

そして、ウェブ時代であっても紙版を図書館や書店で手にとって眺めているのは、パラパラとめくって一覧性を楽しむというアナログ世代の古い感覚、またウェブ版をフルに利用するには高価な購読料が必要というケチ臭い理由がある(これが大きいかもしれない)が、その他にも、上記のような特徴ある見出しは、紙版のほうがウェブ上の記事よりも顕著で、楽しめるからだ。

これはどういうことかというと、The Economist の紙版は1ページが3列で構成されていて、タイトルも列の幅にあわせている。そのため単語の数や長さも限られているので、その分”パンチが効いた”見出しになっているのである。

同じ記事でもウェブ版の見出しは、紙版で小さい活字で組まれている小見出しを取っていることが多いなど、タイトルは双方で異なっていて、たいていウェブ版の方が長く、説明的だ。その点では紙版のほうが断然おもしろく、ぱっと見た時に目を引く。

新しい号を手にした時は「今週はどんな見出しがあるか」と期待しつつページを繰ることになるが、最近の「エコノミスト」2月6日号もそうした期待を裏切らなかった。新型コロナウイルスの変異について書いた記事の見出しが

- Enigma Variations

となっていたのだ。

enigma は「謎」「不可解な事物・人」という意味なので、「謎の変異株」という感じだろうが、これはそっくりそのまま、エルガーというイギリスの作曲家が書いた「エニグマ変奏曲」と同じタイトルである。音楽とは関係ない記事だが、知っている人が見れば「おっ」と思うはずだ。

残念ながらウェブ版(→こちら)ではこのタイトルは使われていないので、証拠写真を掲げておこう。
enigma variations.jpg
エルガーの作品では、「威風堂々」 Pomp and Circumstance という行進曲が、クラシック音楽を知らない人でもどこかで聞いたことがあるはずだと思われる有名なメロディを持っていて、このブログでもやはり最初の頃に取り上げたことがあるが(→こちら)、この「エニグマ変奏曲」も傑作で、私の愛聴曲である。

最初こそ静かで寂しげな曲想の主題で始まるが、その後は私が抱く”イギリス”のイメージにぴったりの旋律が次々に出てくる。そして終曲は輝かしく締めくくられるが、アメリカ的な能天気・ハデさとは一線を画す荘厳さに痺れる。

エルガーはこの曲に2つの”なぞなぞ”を仕込み、それがタイトルの由来になっている。ひとつはほぼ解明されているが、もうひとつはいまだに解き明かされていないという。楽譜を読めない私なので、せめて英文雑誌の見出しの謎解きをするしかない。

一方で、The Economist に限らず、私が気づかない、思いもよらないような”もじり”の施された見出しが山のようにあるはずだ。英語そのものにいくら詳しくなっても、こうした仕掛けがわかるとは限らないだろうし、自分の得意分野から外国語にアプローチする意味もこうしたところにあるのではないだろうか。


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エルガー:エニグマ変奏曲、行進曲「威風堂々」第1番&第2番、他

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marimann

今回もThe Economist の中から、英語力の乏しい私が素通りしてしまった語句を取り上げて下さり感謝します。
The Economistの愛読(電子版)1年未満ですが、私も各記事Authors の言葉のセンスに魅了されています。
Enigma Variationsにつきましては、まさに博識英国人ならでは見出しですね。もちろん、こちらに関しては日本語であっても言葉の見出しの含蓄に気づかなかったことでしょう。
今後も引き続き、貴殿のコラムを楽しみしています。
by marimann (2021-02-17 13:08) 

tempus_fugit

marimannさん、コメントありがとうございました。電子版をお読みになっているのですね。私もそうしようかな、と以前から考えつつ、図書館で読めるからいいか、と思い直すセコさです。
拙ブログについて、間違いを含めてお気づきの点がありましたらご指摘いただきましたらうれしいです。

by tempus_fugit (2021-02-25 23:23) 

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