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smoking gun はシャーロック・ホームズが由来? [シャーロック・ホームズ]

以前何度か取り上げたことがあるが、私が折りにふれて読み返す作品のひとつが、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」ものである。

子どもの時に何冊か読んだが、いくつかの例外を除くと面白いとは思わず、なぜ名作扱いされているのか不思議に思った。

しかし30代になった時に読み返したら、なぜ面白いと思わなかったのか不思議に思ったほど熱中してしまった。

その頃には英語の読書にもある程度慣れていたので、興味を持った勢いで原書にも手を出したら、「けっこう原文を読めるではないか」と自信につながった。

読む前は19世紀末の古い英語ではとの先入観もあったものの、大衆文学とあってか実際にはそこまで難解ではなかったこともあるが、すでに翻訳で親しんでいたので、内容的に肩慣らしが出来ていたことが実は大きいのだろう。

「ホームズもの」はほとんどが短編なので、気が向いた時に手に取るのにも好適だ。私にとっては「一生もの」の作品である。

前置きが長くなったが、先の祝日に、たまたま短編集のひとつ The Memoirs of Sherlock Holmes を手にして、読むというよりパラパラ繰っていたら、おもしろいことに気づいた。

「グロリア・スコット号」という短編だが、ある人物が過去の犯罪現場を回想する部分で、次のようなくだりが目にとまった。

- Then we rushed on into the captain’s cabin, but as we pushed open the door there was an explosion from within, and there he lay with his brains smeared over the chart of the Atlantic which was pinned upon the table, while the chaplain stood with a smoking pistol in his hand at his elbow.
(The Gloria Scott by Arthur Conan Doyle)

- それからわれわれは船長室になだれこんでいったが、そのドアを押しあけるのと同時に、室内から爆発音が響き、見ると、船長が海図台に画鋲で留めた大西洋の海図の上につっぷし、そばに、まだ銃口から煙のたつピストルを手にした偽教誨師が立っていた。
(「回想のシャーロック・ホームズ」深町眞理子・訳)

この作品が最初に掲載されたイギリスの雑誌には、まさに煙が出ているピストルを持った人物を描いたイラストがついている。

それはともかく、私の気を引いたのは、この "smoking pistol" である。

何の変哲もない言葉だが、これから smoking gun を連想したのだ。比喩的に、犯罪などの「動かぬ証拠」「決定的な証拠」を意味する表現である。

そういえば、この言い回しの由来は何だろうか。そう思って辞書を引いたが、載っているものが見当たらない。

ならばウェブで調べようと思ったが、ちょうど本棚に Common Phrases というタイトルの英語フレーズ集が置いてあるのが目にとまったので開いて調べると、これが収録されているだけでなく、次の説明が目に飛び込んできた。

- Smoking gun
The expression's ancestor is a line from Arthur Conan Doyle's story "Gloria Scott" (1893) involving dirty doings on a ship of that name. (中略ーここに上記作品の引用がある)Over the following years, pistol slowly changed to gun.
(Common Phrases by Max Cryer)

何と、smoking gun はこの短編が元になっている、ということらしい。

聖書やシェイクスピアが由来のイディオムは山のようにあるが、ホームズの作品も英語表現に貢献していたとは・・・。興味のない人にとっては別に何ということはないのだろうが、私としては驚くとともにうれしくなってしまった。

しかし興奮が収まると、「本当にそうなのか?」と思った。smoking pistol [gun] というのは、ごく普通の表現に思えるし、何よりホームズの作品は、比喩でも何でもなく、情景をそのまま描写したにすぎない。

Wikipedia も、由来についてはあいまいな書き方をしていた。

- The phrase originally came from the idea that finding a very recently fired (hence smoking) gun on the person of a suspect wanted for shooting someone would in that situation be nearly unshakable proof of having committed the crime. A variant of the phrase (as "smoking pistol") was used in the Sherlock Holmes story, "The Adventure of the Gloria Scott" (1893).
https://en.wikipedia.org/wiki/Smoking_gun

さらにウェブで調べてみると、「ホームズ由来説」を取る説明がある一方で、比喩的に使われるようになったのは、実際には1970年代はじめに起きたアメリカ・ニクソン政権のウォーターゲート事件だったという記述もいくつかあった。

よく読まれているホームズ作品で印象的に使われ、のちに政治スキャンダルで活用されるようになった、という形なのではないか。

このへんがまとまっているのが下記の記事で、「グロリア・スコット号」の上記場面の初出時オリジナル・イラストも見ることができる。

"Thank Sherlock Holmes for the Phrase ‘Smoking Gun’"
(Smithonian magazine July 12, 2017)
https://www.smithsonianmag.com/smart-news/more-century-smoking-guns-180964027/

なおこの記事には、コナン・ドイルの原文にある "in his hand at his elbow" が awkward だ、という評も紹介されている。しかし at one's elbow は上記の翻訳にもあるように「そばに」「すぐ近くに」という意味のはずで、そんなにぎこちない表現とは思えないのだが。

一方で、イラストを見ていただくとわかるが、銃を持つ人物の姿は何だかぎこちなく描かれていて、まるで "at his elbow" を文字通り「ひじのところ」と取っているようにも感じられる。"in his hand" と "at his elbow" をつなげるとそう受け取られかねず、それが awkward 感を出しているのでは、というのは考えすぎか。

さて、この「グロリア・スコット号」は、ホームズが手がけた最初の事件である。といってもコナン・ドイルが最初に書いた作品ということではなく、ホームズが相棒で親友のワトソン博士に、「ある冬の晩、暖炉をかこんで向かいあって」若き日の回想を語る、という形になっている。

私が子どもの時に気づかなかった「ホームズもの」の魅力のひとつが、このホームズとワトソンの関係だった。これをいま風に buddy とか bromance と呼ぶと安っぽくなってしまうので避けたいが、全作品を通じて愉しめる2人のやり取りの妙や信頼関係が、創作されて一世紀以上経っても読み継がれている理由に数えられることは否定できないだろう。


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