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let it slide 「成り行きにまかせる」(ビリー・ジョエル「ニューヨークの想い」) [音楽と英語]

前回の to think ... に続いて、ビリー・ジョエルとの関わりで覚えた表現を取り上げる。let ... slide は、物事が推移していくままにするということで、「成り行きまかせにする」「放っておく」「どうなってもいいと構わないでおく」という意味になる。

前回も引用したビリーの伝記からメモしていた実例をあげておこう。苦節を経て音楽面で成功する一方、最初の妻との関係が悪化していた時期についてビリー本人が語っている。

- “When a relationship goes south,” says Billy, “and you just sit back and let it happen—hoping maybe it’ll get better, maybe things will change, and they aren’t going to—(中略)“I think sometimes you let things slide because you hope they will get better. I was married, and I didn’t want it to fail.” As he started writing The Stranger, the album that would become his breakthrough, he admits, “I was clearly working out a lot of relationship issues in my music.”
(Billy Joel: The Definitive Biography by Fred Schruers)

妻との関係が好転してほしいと希望を抱きながら実生活では事態をなすがままにしていたが、大ヒットアルバムとなった The Stranger は、こうしたプライベートな問題にどう折り合いをつけるかを音楽として取り上げたもの、ということを言っているのだろう。

なお go south は「悪化する」「下落する」という意味の表現で、経済についても使われるが、逆のことを north で表すことはまずないようだ。

私が初めて let ... slide を知ったのはこの伝記ではなく、まさにビリー・ジョエルの歌だった。

彼がブレイクしたのは、上記のように5枚目のアルバム「ストレンジャー」がヒットしたからで、それは日本でも同様だった。私が高校生の時のことだったが、大学生になって彼がさらにヒット曲を連発すると、私は過去の作品もさかのぼって聞くようになった。

そのひとつ New York State of Mind(邦題「ニューヨークの想い」)は、一聴してすぐに好きになったが、その歌詞にこの表現が出てきたのだ。



- It was so easy living day by day
Out of touch with the rhythm and blues
But now I need a little give and take
The New York Times, the Daily News
It comes down to reality
And it's fine with me 'cause I've let it slide

ウェブの辞書から let (something/someone) slide の説明や例文を引用しよう。

- to allow to follow a natural course, esp one leading to deterioration
to let things slide
(Collins English Dictionary)

- To choose not to take any action to correct or improve a particular situation or someone's actions or behavior.
I find it so frustrating that my wife is always willing to let the kids slide when they misbehave, meaning I have to be the bad guy and enforce the rules.
I've been meaning to paint the shed all summer, but I keep letting it slide.
(Farlex Dictionary of Idioms)

ビリー・ジョエルの New York State of Mind には、彼がロスアンゼルスでの活動を切り上げて故郷のニューヨークに戻ったときの心情が反映されている。

その歌詞には、

- But I'm taking a Greyhound
On the Hudson River line
I'm in a New York state of mind

というくだりがある。グレイハウンドとは全米各地を結ぶバス会社だが、私は大学生の時、夏休みにグレイハウンドの長距離バス路線を利用してアメリカ旅行をした。

体力はあったが金はなかったので、ホテル代を節約するため夜行バスでの移動を繰り返した。ニューヨークを訪れた時、明け方の空を背景に遠くに摩天楼がそびえているのが車窓から見え始め、徐々に近づいてくる。眠気が吹き飛ぶとともに、ビリー・ジョエルのこの歌が脳裏に響いた。そしてバスはビルが立ち並ぶ街に吸い込まれていった。

当初は注目されなかったこの曲だが、その後、何人ものアーチストがカバーする名曲の仲間入りをした。そして、これが収録されている4作目の Turnstiles (邦題「ニューヨーク物語」)も、ビリーの全アルバム中、私が最高傑作と考える最も好きな作品となっている。大ブレイク前だったとはいえ、セールス的に振るわなかったというのが不思議に思えるほどだ。

音楽・歌詞ともに、最初からラストまで「捨て曲」がないというだけでなく、通して聞くとニューヨークをテーマにした一種のコンセプト・アルバムといえる構成になっているのがすばらしい。

turnstile とはバーが回転して人を通す方式の改札口のことで、ニューヨークの地下鉄で使われている。ジャケットにも描かれており、ニューヨークの街を行き交う人びとのさまざまな人生模様を描いたアルバムであることを示しているのだろう。

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